女子高専生5人が脱脂粉乳から“革”をつくる!? 酪農家を悩ませる「過剰在庫」問題への挑戦

いま酪農家を苦しめているのが、積みあがり続ける「脱脂粉乳」の過剰在庫。

この現状を変えたいと立ち上がったのは、函館工業高等専門学校の女子学生たちによるチーム「COWNECT(カウネクト)」。彼女たちが取り組むのは、脱脂粉乳からのレザー生成。その驚きの研究を取材した。

起業を目指す女子高専生たち「COWNECT」

「私たちは北海道に住んでいますが、酪農が抱える問題は身近なものです。そこで私たちは思いました、酪農家さんを助けたいと」

今年3月に開催された第一回高専起業家サミットの壇上でこう語ったのは、函館高専3年・佐久間希美さん(18歳)。起業を目指す女子学生5人によるチーム「COWNECT」の代表だ。
彼女たちが挑戦しているのは、脱脂粉乳由来の革風レザー「コネクトレザー」の開発。脱脂粉乳から抽出したカゼインを用いて、本物の革に限りなく近い素材をつくる。カゼインとは牛乳や乳製品に含まれるたんぱく質の約80%を占める物質で、カルシウムを多く含んでいる。
脱脂粉乳の過剰在庫が深刻な問題となっている現状で新たな利用価値を生み出し、酪農家の支えとなることを目指している。

挫折を乗り越えて完成した「コネクトレザー」

COWNECTが開発を進めるコネクトレザーは「革風素材」と位置付けているが、見た目はもちろん、実際に手に取ると本革と遜色のないなめらかな手触りだった。もとは脱脂粉乳だとは想像できない、驚きの完成度だと感じた。

しかし、そこに至るまでの過程は決して易しいものではなかったと佐久間さんは語る。

「最初はすごく大変でした。まず、脱脂粉乳からカゼインを取り出す作業が難しいんです。脱脂粉乳は半分が糖質なんですが、この糖分をうまく取り出さないと革に加工したとき見栄えが悪くなるんです」

より本物の革に近づけるため、原料の配合や攪拌・乾燥時間を調整して試行錯誤を重ねたが、それでも理想のものは生み出せなかったという。

「何回やってもうまくいかなくて、泣きたくなるときもありました。4か月ほど研究して頭打ちになったとき、カゼインの性質など根本的に勉強し直して…思い切ってレシピそのものを変えてみたんです。すると急にうまくいくようになって、2カ月ほどで今の試作品に辿り着きました」

やっとの思いで完成形が見えてきた、コネクトレザー。現段階ではキーホルダー、ブックマークの試作品が完成している。今後は耐久テストなどを行い、さらなるブラッシュアップを重ねて財布やバッグなどの製品化を目指している。

ヴィーガンレザーがヒントに

なぜ彼女たちは、脱脂粉乳由来の革風素材に目を付けたのか。そこには学生ならではの柔軟な発想から浮かんだ、ある存在があった。

佐久間さんは「北海道では酪農についてのニュースがよく取り上げられていて、脱脂粉乳の過剰在庫問題も身近に感じていました。私たちにできることはないか…と考えたとき、ヴィーガンレザーの存在を思い出したんです」と振り返る。

ヴィーガンレザーとは動物の皮を使用せず環境面に配慮してつくられた皮革のことで、サステナブルの観点から近年注目されている。

佐久間さんによると、リンゴの芯や搾りかすやパイナップルの葉など「食品残さ」が使われることも多いヴィーガンレザーと、脱脂粉乳を「廃棄したくないけど廃棄せざるを得ない」状況が重なってアイデアが浮かんだという。「生乳からバターを作れば、副産物として脱脂粉乳も生成されます。牛がいる限り在庫に上限はないので、利用価値を高めて酪農家さんへのバックも増やせると考えました」

新型コロナの影響で需要が減少したこともあり、堆く積みあがる脱脂粉乳の在庫。しかし彼女たちから見れば、それはまさに”宝の山”なのだ。

「COWNECT」メンバー5人の想い

牛と人とを繋ぎたい・・・そんな願いを込めて名付けられた「COWNECT」。まだ法人化はしていないものの、在学中に起業し本格的にコネクトレザーの商品化を目指す。彼女たちを突き動かすのは、地元・北海道で感じる酪農へのアツい想いだ。

リーダーの佐久間さんが胸に秘めるのは、離農が進む酪農業界を世間に知ってほしいという願いだ。
「今はこの活動のために生きているといっても過言ではありません。北海道民の多くは離農が進んでいることを知っていますが、全国的には興味のない方も少なくありません。脱脂粉乳が余っている現状を知らなければ、そもそも脱脂粉乳ってなに?という方も多いと感じます。脱脂粉乳の過剰在庫で酪農家さんが苦しい状況にあることを、私たちのコネクトレザーを通して知ってほしいんです」

商品デザイン担当の池田胡桃さん(19歳)は、畜産業が盛んな中標津の出身。
「酪農関係の仕事をしている父から酪農業界の苦しい実態を昔から聞かされていて、何かできることはないかとずっと考えていました。酪農家さんが経営難を理由に離農を選ぶのが辛くて、その選択肢がなくなることが一番の願いです。私たちの活動を面白いと感じてくれた方が、それを入り口に酪農の問題に目を向けてもらえたら嬉しいです」

一方、マーケティング担当の三川ゆいさん(19歳)は、活動に参加するまでは離農問題への関心は高くなかったという。
「元々は起業に興味がありました。佐久間さん・池田さんの熱意に惚れてプロジェクトに参加したかたちです。マーケティングを勉強すると、日本人は新しいもの好きな反面、新しすぎるものには手を出しにくい傾向があることがわかりました。あまり前例のないチャレンジなのでどう売り込むかを考えるのに苦労していますが、学生の挑戦に注目してくださった方が酪農の問題に興味を持ってもらえたらいいなと思います」

筆者は彼女たちの活動をSNSで知り、今回取材を申し込んだ。実際に会って話を聞くと、学生らしい熱量で語る大きな夢に終始ワクワクさせられた。「脱脂粉乳といえばCOWNECT」そう呼ばれるような会社を目指す、函館の若き才能たち。日本の酪農業界を真剣に見据える彼女たちの活動を、これからも応援したい。

(取材・執筆/フジテレビアナウンサー 德田聡一朗)

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