LE SSERAFIM、NewJeans、ILLIT……デビュー時はなぜ黒髪? 派手髪主流のK-POPシーンで際立つコンセプト

「K-POPグループのビジュアルを思い浮かべてみて」と言われて、どんな髪色をイメージするだろうか。金、赤、青、緑、ピンク……と、色とりどりの光景が浮かんだ人も少なくはないだろう。

昼夜問わずリスナーを熱狂させる群雄割拠のK-POP市場においては、デビュー前から徹底して作り込まれたコンセプトと世界観に基づいたビジュアルを作り込んでいくことが多いため、作品や舞台ごとに髪色やヘアメイクを変えるなど、見る者を飽きさせない工夫が随所に施されている。なかには、「染めたことがない色はないのではないか」と言われるほどあらゆる色に挑戦している人もおり、あまりの染髪スパンの短さに「推しの頭皮が心配」という声が挙がることも珍しくはない。

K-POP第1世代とされるH.O.T.から2023年以降にデビューした第5世代グループに至るまで、デビュー当初からほかのシーンには見られない強烈なコンセプトを芸術へと昇華する手腕は見事なものだ。最近では、今年1月にSSQ EntertainmentからデビューしたDXMONのJOが、数世代前を彷彿とさせる真っ赤なスパイクヘアで活動していたことも大きな話題となった。派手髪はK-POPシーンを象徴する、ある種の文化として大成したと言えるだろう。

しかし今、この流れに逆らうように立て続けに黒髪でデビューしているのが、HYBEが誕生させたガールグループであるLE SSERAFIM、NewJeans、ILLITの3組だ。HYBEと傘下レーベル・SOURCE MUSICが手掛けたLE SSERAFIM。初めてメンバー全員が出演したことでも話題となった動画「LE SSERAFIM “CASTING CALL”」では、コンセプトビジュアルのひとつである、白もしくは黒のトップスを身にまとった彼女たちの姿が印象づけられた。

この時の髪色は、多少グレージュやアッシュカラーが混じりながらも、基本的に全員が暗髪をベースとした色合い。まさにシンプル・イズ・ザ・ベストとも言えるこのスタイリングこそがメンバーの持つありのままの魅力を引き出し、見る人の性別や年齢に関係なく憧れられるような、ヘルシーな美を体現していたように思う。

この時点では、一体どういったメッセージや音楽性、世界観を打ち出していくのかはまだ謎に包まれていたが、洗練されたコンセプトビジュアルがいかようにも膨らむ想像心をくすぐり、HYBE初のガールグループの全貌に世界からの耳目が集まっていた。

LE SSERAFIMのグループ名は、“私は何事にも恐れない”という意味を持つ“IM FEARLESS”のアナグラムに由来する。その文字通り、彼女たちはこれまで、恐れることなく堂々とした姿を描く「FEARLESS」、逆境に直面しても強く立ち向かう「ANTIFRAGILE」、他人に許しを請わない「UNFORGIVEN」といった楽曲を通じて、世間からの視線に惑わされず、恐れることなく前に進んでいくという強い意志、すなわち“何にも屈しない”という力強さを体現してきた。

一方、今年2月発売の3rdミニアルバム『EASY』では、グループとして初めて不安や悩みといった内面に焦点を当てた。これまで見せてきたものは最初からそうだったわけではなく、数えきれぬ夜を苦労や努力に費やしてきた結果であるという事実を、ダンサブルなR&Bに乗せて歌い、誰しもが共感できる“人間らしさ”として感じさせている。本作を通じて彼女たちが伝えたのは、LE SSERAFIMが示す“強さ”が“欠陥がない”という意味ではなく、“弱さすらも素直に見せることができる本物の強さ”であるということだ。

このように、LE SSERAFIMはデビュー当時の「何者なのか?」といった疑問を跳ね返し、その後の作品の一貫したメッセージを通じて、自身らが持つ根幹的な“強さ”を世界に提示し続けている。「何にも染まらない」とでも言うような当初の暗髪でのコンセプトビジュアルは、その後のグループのブランディングに一役買ったと言えよう。

「時代やトレンドを問わず老若男女みんなに愛されてきた“ジーンズ”というアイテムのように日常に密接し、時代のNew Genes(新しい遺伝子)”になるように」と名づけられ、HYBE傘下レーベル・ADORからデビューしたNewJeans。2022年7月に公開された「Attention」のMVでは、メンバー全員がラフに下ろしたロングヘアで登場。儚げな少女感あふれるナチュラルメイクが、その魅力を際立たせている。同年12月に公開された「Ditto」のMVにもそれが色濃く反映されており、黒髪で制服に身を包んだメンバーの姿は、どこか日本の学生を想起させるようでもあった。

近年のトレンドであるイージーリスニングの潮流を生み出したのはNewJeansの功績のひとつだが、1990年代から2000年代にかけての特徴的であるレトロさや青春のノスタルジーを感じさせる秘訣は、ポップスとR&Bを組み合わせた、どこか懐かしくも革新的な楽曲だけでなく、衣装のスタイリングやヘアメイクの数々にもあることを忘れてはならない。NewJeansが強さや美しさといった側面を示すのではなく、素直なありのままの姿を見せるうえで、アジア圏における等身大の少女像の象徴とも言えるナチュラルな黒髪のヘアスタイルでのデビューは必然だったのではないだろうか。

では、NewJeansのコンセプトとは何か。グループの総括プロデューサーを務めるミン・ヒジンは、ほかにはない親近感が生まれた背景について、「“コンセプトのためのコンセプト”を作りたくはなかった」と語る(※1)。SM ENTERTAINMENTのアートディレクターとして、少女時代やSHINee、f(x)、EXO、Red Velvetなど名だたるグループの制作に携わり、「コンセプト職人」と称されてきた彼女からこういった言葉が語られたことは少々驚きだ。

しかし、コンセプトメイキングの中心的存在としてK-POPの最前線を見つめてきたからこそ、「トレンドを無視したほうがむしろ創意に富む」「市場を分析するのではなく、時代の全体的な流れに集中する」という考えに至るのも頷ける。視覚的な存在感のある派手髪や固定のコンセプトをベースとする従来のK-POPの潮流に逆らい、全員がまだ10代という若い年齢であるメンバーたちの飾らない自然体を尊重したADORによるNewJeansの黒髪戦略は、人々の消費行動と表裏一体の側面を持つエンタメビジネスを俯瞰しても非常に説得力があるものだ。

そして、今年3月にHYBE LABELSのひとつであるBELIFT LABからデビューしたばかりのILLITは、“スーパーリアルな10代の感性”を表現した1stミニアルバム『SUPER REAL ME』を通じて、自分たちの世界観を提示。一般的に女性アイドルのターゲット層に多いとされる男性のみならず、幻想的で憧れが詰まった宝石箱のようなコンセプトが、女性人気の高さにも繋がっている。

彼女たちもデビュー前から黒髪を強く印象づけていたグループのひとつ。作品のリリースに先立って公開されたコンセプトフィルムでは、長い黒髪を同じように三つ編みにし、お揃いの白と黒のシンプルな装いの5人の姿が確認できる。まさに、「ありのままの“本当の私”」というフレーズそのまま、純粋なあどけない表情が前面に押し出されたビジュアルだ。

こういった特徴は、HYBEが手掛けるボーイグループにも共通していると言えるだろう。たとえば、2023年5月に歌手兼音楽プロデューサーとして活躍しているZICOが率いるHYBE傘下のレーベル・KOZ ENTERTAINMENTからデビューしたBOYNEXTDOORは、「隣の少年たち」というグループ名の通り、近所にいる男の子たちのように親しみやすい印象を抱かせてくれるグループだ。デビュー前に公開された1stシングルアルバム収録の「But I Like You」のMVでも、大半のメンバーが黒や茶色といった暗髪のビジュアルで登場。もう子どもではないけれど、まだ大人の一歩手前にいる――そんな可能性を秘めた青年たちの姿として映し出されている。

また、今年1月にHYBE傘下のレーベル・PLEDIS EntertainmentからデビューしたTWSは、1stミニアルバム『Sparkling Blue』の名にも代表されるように、清涼感や爽快感がたっぷりと詰まったコンセプトで瞬く間にリスナーを集めた。HYBEが手掛けるボーイグループのなかでは最年少の年代ということもあって、「自分の周りで起こることにどう向き合うのか」と葛藤する繊細なティーンらしさを隠さず表現できるTWS。こういった純粋な雰囲気をまっすぐに作品に投影するうえでも、自然な暗髪のビジュアルは欠かせないだろう。

HYBEが誕生させたグループのコンセプトを作り上げていくのに重要な役割を果たしてきたとも言える暗髪は、派手で奇抜なヘアスタイルをある意味では主流としてきたK-POP市場のアーティストブランディングに「ありのままの自分」、「自然体の姿」という見せ方を開拓し、新たな風を吹かせている。コンセプト、世界観、楽曲、パフォーマンス、ビジュアル……とグループを取り巻く要素は数多くあるが、こういった流れのなかでは、世界観を視覚的に表現するうえで欠かせないヘアメイクの意味合いや重要度もさらに増しているようだ。

日々目まぐるしく移り変わるトレンドは、この先どこに向かい、人々の価値観にどういった影響を与えていくのか。今や世界のトレンドとも直結/連動しやすいK-POP市場には、そういった興味深さもある。映像やステージを観る際には、今回言及した部分にもより注目してみると新たな発見があるかもしれない。

※1:https://realsound.jp/2024/02/post-1574758.html

(文=風間珠妃)

© 株式会社blueprint