『虎に翼』が果敢に踏み込む“性のタブー” 伊藤沙莉が“戦わない女性”の立場に寄り添う

『虎に翼』(NHK総合)第14話では、女性の連帯を阻むものが描かれた。

前話でよね(土井志央梨)の生い立ちが語られ、想像を絶する悲惨さに言葉を失った視聴者も多くいただろう。寅子(伊藤沙莉)も、よねに何と声をかけていいかわからなくなった。同級生たちに、よねは「一日も大学も仕事も休まず必死に食らいついてる。だから、余裕があって恵まれたやつらに腹が立つんだよ」と本音をぶつけた。

よねの発言は、第12話の「私はあんたらと違って本気」にも通じるが、よねは周囲に引け目を感じると同時に、世の中の不平等に憤っている。普通ならそっとしておくところかもしれないが、寅子の苦心はもう一歩、踏み込んだものだった。同性としてわかり合いたいという思いがあり、それが生理についての会話になったと思われる。

そこからいくつかやり取りがあって、立ち上がった涼子(桜井ユキ)が「私もあなたのように、周りを気にせず声を上げられるようになりたい」とよねの勇気ある行動を称賛する。生理に関する話題の数分後に、男性の「股間を蹴り上げる」トークが続く流れから、性のタブーに敢然と挑む本作の姿勢が伝わってきた。

ギスギスした空気が解消したところで、寅子が提案したのは法廷劇の再検証。世話をした借りを返してほしいと言う寅子の、よねのプライドを傷つけない気づかいがさりげない。そもそも毒饅頭で人を殺すことはできるのかという素朴な疑問から、花江(森田望智)とはる(石田ゆり子)の協力を得て、猪爪家の台所で饅頭づくりがスタートする。

致死量の毒を入れることはできない。そのため最初から殺意はなかったという考えや、反対に毒を入れること自体に殺意がある、など意見が交わされる中で、よねは「毒饅頭事件は甲子が無知だったゆえの結果」と言い、無知だから殺人もできず、罪を負うのだと断罪する。「この社会は女を無知で愚かなままにしておこうとする。恵まれたおめでたいあんたらもたいがいだが、戦いもせず現状に甘んじる奴らはもっと愚かだ」と吐き捨てた。

女性の団結を阻み、分断しているのは誰か。野次を飛ばす男子学生や、女性を弱くて守られるだけの存在とみなす社会の視線もそうだが、女性同士の反目も無視できない。寅子は「戦わない女性たち、戦えない女性たちを愚かなんて言葉でくくって終わらせちゃ駄目」とよねに反論した。男女間の不平等が解消されない現在で、今なお有効な言葉である。

よねが言う“無知で愚かな女性”には作られた部分もあった。涼子が調べた法廷劇の元ネタの判例で、甲子は女給ではなく医師、婚姻予約不履行による損害賠償の訴えは裁判で認められており、毒饅頭の防虫剤はチフス菌だった。意図的な改変から、女給で法律を知らない無知な女、というステレオタイプで同情を買う魂胆が透けて見えた。女子部は大学の客寄せパンダで、強くて賢い女性が敬遠されることに変わりはなかった。

第14話を観て、女性への根強い偏見にため息が出た。法廷劇の再検証は、既存の作品をフェミニズムの視点でとらえ直す批評のあり方に通じる。男性中心の社会で、女性はいつの時代も都合よく使われ、力を奪われて分断されてきた。法律を手にした寅子に何ができるのか。毒饅頭を検証するように、事実をベースにして自分の目で確かめることは、最初の一歩になる。
(文=石河コウヘイ)

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