リーグ戦2試合目で見えた「進化」【「強い川崎の礎を築いた男」風間八宏監督と『キャプテン翼』南葛SCの挑戦】(3)

風間八宏監督が率いる南葛SCに、進化の兆しが…。撮影/サッカー批評Web編集部

日本サッカーの発展はすさまじく、トップカテゴリー以外のチームも、著しくレベルが上がっている。そんな中、地域リーグから新たな挑戦をしているのが、南葛SCだ。かつて川崎フロンターレを強豪へと押し上げる礎を築いた風間八宏監督と南葛SCの挑戦に、サッカージャーナリスト後藤健生が目を凝らす。

■関東リーグの強豪に「2点差」逃げ切り

そういう意味で、開幕第2節で関東リーグの強豪、東京ユナイテッド相手に勝利したことは、大きな自信につながるだろう。

東京ユナイテッド戦でも、キックオフ直後は相手のハイプレスにかなり苦しんでいた。自陣に押し込まれてしまう時間も長く、また、危険な位置でボールを奪われる場面もあり、7分には奪われたボールを追った今野泰幸がファウルを犯してイエローカードをもらった。

さすがに、相手は関東リーグの強豪だった。

しかし、攻撃面では南葛の動きはかなりスムーズだった。

とくに、左のシャドーストライカーの加藤政哉とウィングバックの神田洸樹。それに、左DF田中大生が絡んだサイドからの突破が有効だったし、またボランチの玉城峻吾からのスルーパスも相手陣内の深いところを衝いた。

そして、トップにいるのが清水エスパルスなどで活躍した大前元紀だ。34歳になった大前だが、ワンタッチでさばくボールタッチにはさすが元J1プレーヤーという貫禄があった。

そして、時間の経過とともに東京ユナイテッドの前からのプレッシャーが弱まっていく。この日の東京は初夏のような気候に恵まれ、16時開始の試合だったが、公式記録によれば気温は23.6度。暑さのせいで、東京ユナイテッドの足が止まるのが思ったより早かったのも、南葛にとっては幸運だったのかもしれない。

いずれにしても、時間の経過とともに南葛のチャンスが増えていき、18分には左からドリブルで仕掛けた田中が倒されてPKをゲット。

このPKは大前が左のポストに当ててしまって得点にはつながらなかったが、その後もドリブルでの仕掛けやゴール前でのパスなどでチャンスが続き、33分には右サイドで運動量を誇る佐々木達也が入れたクロスを大前が強烈なヘッドで決めて先制。後半も優勢に試合を進めた南葛は71分に左CKからのボールをDFの柳裕元(ユ・ユウォン)が頭で押し込んで2点差として、そのまま逃げ切った。

■カップ戦との違いは「先発メンバー」と…

かなり連動性も高く、素晴らしい内容で勝ち切った東京ユナイテッド戦の南葛。

風間監督は、チームがうまく機能しないと早い時間から交代も含めてやり方を変える監督だ。

たとえば、第1節のジョイフル本田戦では前半の27分に最初の交代を行い、ハーフタイムにも2選手を替えた。横河武蔵野戦でも31分に1人、ハーフタイムに2人を交代させている。

だが、東京ユナイテッド戦では最初の交代が59分。そして、残りの4枚のカードを切ったのは80分を過ぎてからだった(81分に2人、86分に2人)。風間監督としても、東京ユナイテッド戦はチームがうまく機能しているという評価があったのだろう。

横河武蔵野戦との違いは、先発メンバーにあった。

第1節のジョイフル本田戦と比べて、東京ユナイテッド戦は先発が3人変わっただけだった。しかも、その3人は第1節でも途中交代で出場した選手ばかりだった。

これに対して、横河武蔵野戦は第1節からゴールキーパーを含めて9人が変わっていた。つまり、リーグ戦とリーグ戦の間のミッドウィークに行われたカップ戦は、完全ターンオーバーだったのだ。

そして、第1節とほぼ同じメンバーに戻った第2節の東京ユナイテッド戦では、かなり良い内容の試合ができた。つまり、リーグ戦2試合目にしてすでに「時計が合ってきた」「目が合ってきた」のかもしれないのである。

■JFL昇格なるか「南葛の成長」に注目

川崎の監督に就任する前、風間氏はテレビ解説者を務めながら、筑波大学蹴球部で監督を務めていた。

当時の筑波大学は高校生年代の選手にとって、それほど魅力的な進学先ではなかったようで、各年代のトップクラスの選手は入部してこなかった。だから、関東大学リーグ戦が開幕する春先は、なかなか結果が出せないで苦戦を強いられることが多かった。

だが、風間監督の下で毎日トレーニングを積むことで、選手たちの技術や戦術眼はどんどん成長していった。そして、秋のリーグ戦の頃にはチーム力が確実に上がり、そして、シーズンの締めくくりとして行われる全日本大学選手権(インカレ)では、毎年のように筑波大学は上位進出を果たすのだ。

そんなシーズンが何度もあった。

風間監督が指導する南葛SCも、いつの日にか選手が成長してチーム力が一気に上がるときが訪れるのかもしれない。

秋になった頃に南葛が関東リーグでどのような試合をするのか、そして、JFL昇格チームを決める全国地域チャンピオンズリーグの挑戦権を獲得することができるのか……。風間監督率いる南葛の成長ぶりには大いに注目したい。

ときどきは、このチームの試合をチェックし続けることにしよう。

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