Googleに“プラットフォーマーとしての責任”を問う 悪質な「クチコミ」に悩まされる医師ら集団訴訟を提起

記者会見に参加した原告側弁護士ら(4月18日都内/弁護士JP編集部)

4月18日、Googleマップは悪質な口コミを放置し被害の防止や救済措置についても十分な対応をしていないとして、医療法人や医師らが集団訴訟を提起した(東京地方裁判所)。

削除請求ではなくプラットフォーマーの責任を問う訴訟

訴訟の被告はGoogleマップを運営する米国法人のGoogle LLC。

原告は医療法人や医師、歯科医師や動物病院などの合計63名。民法709条に基づき、合計114万9000円の支払いを求める損害賠償を請求している。

「Googleマップは、圧倒的シェアを誇る地図サイトであり、多くの施設が登録されています。非常に便利である反面、施設情報の第三者による改ざんや、悪質なクチコミが投稿されるという被害も生じています。Googleマップを運営するGoogle LLCは、被害の防止や救済措置について十分な対応をしておらず、被害を受けた当事者側に大きな負担が生じている状況です。」(会見で配布された資料より)

原告側は、特に下記の二点が問題であると指摘している。

1:Googleマップには施設が登録しなくても他のユーザーによって勝手に情報が登録されるので、改ざんを防止するために、施設側には事実上Googleマイビジネスの登録が強制されていること。

2:匿名のクチコミによって被害を受ける施設が多くあり、またクチコミを投稿するハードルは低いのに対して、被害が発生したときに施設側がクチコミの削除を請求するためのハードルは非常に高いこと。

現状では、被害が発生した際には施設側が個別に削除請求など法的手続きをおこなう対応がとられている。しかし、被害が発生するたびに法的手続きを取ることは、施設側に負担を課している。

今回の訴訟は個別のクチコミの削除ではなく損害賠償を請求することで、プラットフォーマーであるGoogleの責任を問うものだ。

プラットフォーマー自身の責任を問う訴訟は比較的珍しく、特に集団で提訴するものとしては弁護団が把握する限りでは初めてのケースになるという。

原告側の中澤佑一弁護士は「(クチコミの内容が虚偽か否かなどの)事実関係についてプラットフォーマーが判断するのは難しいことは理解できるが、それにしても対応が遅い」と語り、Googleマップというサイトの“仕組み”を問題視する訴訟である、と説明した。

医療機関は悪質なクチコミに悩まされている

通常の商店やサービス業とは異なり、保険診療をおこなう医療機関は“顧客"である患者の要望にすべて従うことはできない。

患者の側が薬や治療を要求しても、患者の健康を守るためには断らなければならない場合がある。また、保険にかかる費用の大部分は健康保険から支払われるため、不要な治療は医療費の無駄遣いとして制限されている。

このような事情があるため、医療機関は悪質なクチコミを投稿される頻度が特に高い。さらに、医師や医療従事者には守秘義務があるため、通常の店舗のように経営者がクチコミへの反論を書き込むことも難しい。

また、医療施設の住所や営業時間などが誤って登録された場合、緊急を要する患者に対して取り返しのつかない損害を生じさせるおそれもある。

しかし、施設側がクチコミの削除や情報の修正を求めてもGoole側の対応はきわめて遅く、削除や申請を拒否することも多い。

原告団が行ったアンケート調査によると、調査を受けた45名の施設運営者のうち35名が「不当・不適切と感じるクチコミを投稿されたことはありますか」という質問に「ある」と回答していた。

さらに、最近では悪質なクチコミを投稿した後に、クチコミを削除する対価として金銭を請求する「削除業者」も問題視されている。

「話を聞いてくれない!という口コミがあった翌日に悪い口コミを削除しますという営業のFAXがとどいた。自作自演なのではないかと疑念を持っている。」(アンケート調査結果より)

「表現の自由を守るための訴訟」

訴訟提起後の会見には、自身もクリニックを経営する原告団長も参加。施設にとって都合の悪いクチコミを消すための訴訟ではないと念押ししたのちに、訴訟の意義を語った。

「表現の自由はもっとも重要であり、絶対に守られなければならないと思っている。今回の訴訟は、表現の自由を守るための訴訟。現在のGoogleマップの状態が続けば表現の自由は危うくなってしまう。」

「表現の自由とは、“なにを言ってもいい”ということとは違う。現在のような状況が続けば、人々は“自由にものを言える状況ってよくないのではないか”と思い、自由に発言することはデメリットやマイナスだと感じるようになるのではないか。」

「医療者側は一方的なサンドバッグとなっており、誤った情報が拡散しても委縮して、自由にものが言えない状況になっている。これは言論にとって不健全だ」(原告団長)

2021年、Googleはサービス名を「Googleマイビジネス」から「Googleビジネスプロフィール」に変更。これに伴い、人種差別などのヘイトスピーチを含むクチコミが禁止・制限されるようになった。

しかし、原告団長によると「メス豚」といった明らかな誹謗中傷すら、報告しても削除されないという。日本語圏ではない担当者が翻訳を通じて機械的に確認しているため、誹謗中傷が含まれている文言についても適切に判断できないのではないか、と原告団長は指摘した。

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