「昔の病気」「不潔が原因」は間違い。ママ・パパが知らないアタマジラミ感染症のこと【専門家監修】

引用元:miya227/gettyimages

最近話題の「アタマジラミ」。どんな虫なのか、子どもの頭につくとどんな症状があるのか、知っていますか? ママ・パパにとって身近な病気ではなく、中には「昔の病気でしょ」と思う人もいるかもしれません。でも、実は令和でも、アタマジラミは珍しいものではなく、集団生活の中で流行することもあるんです。小児科医の黒澤照喜先生に、アタマジラミについて話を聞きました。

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まさか令和に! 「3才の娘の頭に虫がわいた」あるママの体験談

毎日シャンプーをしていたのに、「子どもの頭にシラミがわいた」という神奈川県在住の高橋さん(仮名)の体験談を紹介します。

身近ではなかったアタマジラミ。 「虫が1匹ついている」と思った ら、ほかにも!

ある朝、日課のとおり3才の娘の髪の毛をとかしていると、蚊より少し大きく、動きの速い黒い虫が娘の頭についていることに気がついてびっくり! 虫が苦手な私は「パパ、虫!虫!」と夫を呼び、「どこから入ってきたのかな・・・」と思っていました。ところが、ティッシュで虫を駆除したパパが「あれ!もっといる!2匹?いや3匹もいる!もしかしてシラミじゃない?」と言ったんです。

私はアタマジラミを目にするのは初めてでしたが、パパは子どものころに周囲で感染した人を見たことがあったそうです。

外から飛んできた虫がたまたま娘の頭にとまっただけなのかと思ったのに、もしかして娘の頭に虫が寄生している?とゾゾ~。そういえば保育園の掲示板で「アタマジラミが出ました」というものが数日前にあったな、と思い出し、そのまま浴室に直行。娘の頭髪をそれ以上チェックする勇気はなく、嫌がる娘をなだめながら、念入りにシャンプーしました。もちろん、衣類やタオル、寝具も洗濯。

インターネットで対処法を検索。殺虫成分入りのシャンプーでケア

その日のうちに、インターネットでアタマジラミの対処法を調べ、「スミスリン」という殺虫剤入りのシャンプーとすきぐしを購入。翌日に届いてすぐから使い始めました。

娘が頭をかゆがる様子はなく、頭皮にも炎症などはなかったため、受診はしませんでした。その後、髪の毛に卵らしきものがついているのは見かけましたが、虫の姿を目にすることはなく、「スミスリン」シャンプーとすきぐしでしっかり駆除できたと思っています。

アタマジラミによる感染症って昔の病気じゃないの?

――「令和でもアタマジラミに感染した」という体験談を聞いてびっくりしました。アタマジラミが頭につくと、病気になるのでしょうか?

黒澤先生(以下敬称略) アタマジラミは、人の髪・頭皮に寄生して吸血する虫です。アタマジラミが髪・頭皮に寄生すると、頭皮に湿疹ができたり、かゆみが出たりするアタマジラミ症になります。アタマジラミ症は、感染症・寄生虫症という病気です。さらにかき壊すことで、伝染性膿痂疹(とびひ)になることがあります。

高橋さんのケースでは、かゆみなどの症状が出る前に対処できていましたね。本人にとっても周囲に対する2次被害という観点からもたいへんよかったと思います。

――アタマジラミというと、昔の病気というイメージのママ・パパが多いようです。

黒澤 たしかに戦後にDDTなどの有機塩素系殺虫剤の頭皮散布が行われたことでアタマジラミはいったん減少しました。しかし、日本では1971年ごろ有機塩素系殺虫剤が使用禁止になったことで、幼稚園・保育園、学童でアタマジラミ症の集団発生が見られるようになりました。

国立感染症研究所のデータによると、1982年ごろには、患者数2万4000人とピークを向かえます。ただ、同年ピレスロイド系殺虫剤(スミスリンパウダー)がアタマジラミ駆除薬として発売されてからは、患者数が減少しました。
1990年代になると再び患者数が増加します。国立感染症研究所のデータによると、約5000〜6000人の状態が続き、実は1994年度以降アタマジラミ症発生件数は増加傾向を示しているのです。増加の理由としては、スミスリンに抵抗性のあるアタマジラミが増えたことや、父母世代のアタマジラミに対する認識の低下があるとされています。

――令和でもアタマジラミ感染症にかかる可能性があるということですね?

黒澤 令和でも感染する可能性があります。アタマジラミは、子ども同士が頭をくっつけ合って遊んでいるうちにうつってしまいます。保育園などの集団生活で感染が広がることもあります。髪の毛と髪の毛が直接触れ合うことで感染するほか、布団や枕、バスタオル、くしなどの共有からも感染が広がります。

アタマジラミってどんな虫なの?

――アタマジラミは、どんな虫なんですか?

黒澤 アタマジラミの成虫は、2~4ミリサイズで灰色か黒灰色です。小さいですが、頭髪の中で俊敏に動き回っています。卵は0.5ミリサイズで白色。フケやホコリと見間違えることもありますが、卵は頭髪にしっかりくっついており、フケやホコリと違って引っ張っても簡単にとることはできません。

――体験談を話してくれた高橋さんは、「普段のシャンプーがていねいにできていなかったから感染したのではないか」とも言っていました。衛生面に問題があると、アタマジラミに感染するのでしょうか?

黒澤 「不潔だからシラミがつく」と思われがちですが、衛生面とは必ずしも関係しません。毎日シャンプーしていてもアタマジラミに感染することはあります。アタマジラミは人の頭髪にしっかりと付着できるように進化しているため、通常のシャンプーの洗髪では十分に駆除できないからです。したがって、シャンプーがていねいでなかったことが感染の原因とは言いきれません。

アタマジラミに感染したらどうしたらいいの?

――アタマジラミに感染しているかどうかは、どこで判断すればいいですか?

黒澤 アタマジラミに感染しているかどうかは、成虫を見つけることで診断されます。ただ、アタマジラミの成虫は意外と動きが速いため、頭髪に付着した卵で診断されることも多いです。親が子どもの髪をブラッシングするときなどに、頭髪をていねいに調べる習慣をつけるといいでしょう。アタマジラミの成虫や卵の早期発見につながり、その後の駆除もしやすくなります。

――子どもがアタマジラミに感染していたら、どうすればいいですか?

黒澤 通常のシャンプーでの洗髪だけでは駆除がむずかしいと言いましたが、毎日、「しっかり」洗髪することで、成虫と幼虫の数を減らすことはできます。子どもが「自分で!」と洗髪したがるかもしれませんが、子どもだけではしっかり洗うのが難しいので、大人がていねいに洗ってあげることが大切です。ドライヤーをしっかりかけるのも有効です。

ただし、洗髪では成虫と幼虫は洗い流せても、卵は除去できません。卵は1週間~10日でかえるので、10日~2週間くらい毎日しっかり洗髪することの継続が大切です。目のこまかいくしや、専用のすきぐしでていねいに髪をとくことで、アタマジラミの成虫・幼虫・卵を取り除くことができます。これも10日~2週間くらい、毎日続けることが大切です。

成虫と幼虫を駆除できる「スミスリン」という殺虫成分の入ったシャンプーや、卵にも効果があるというローションタイプのシラミ駆除剤を使用する手もあります。

――感染を広げないために、したほうがいいことはありますか?

黒澤 家族がアタマジラミに感染したときは、布団や枕、くしの共用は避けて。タオルや衣類など、洗えるものはこまめに洗いましょう。温水(55℃以上)に10分間ほどつけてから洗うとさらに効果的です。

監修/黒澤照喜先生

取材・文/たまひよONLINE編集部

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「昔の病気」「不潔だから虫がわく」というイメージだったアタマジラミ。「令和でも集団生活で流行することがある」「毎日シャンプーしていても感染することがある」という新たな発見がありました。黒澤先生によると、もしアタマジラミかどうかわからない場合も、小児科を受診して頭髪に卵がついているかどうかを顕微鏡で確認すれば診断してもらうことができるそうです。気になる症状があるときは、かかりつけ医に相談しましょう。

●記事の内容は2024年4月の情報で、現在と異なる場合があります。

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