この日が来るのは時間の問題だった。
香港マカオで開催されている「ITTF男女ワールドカップ」<4月15~21日>決勝トーメント初日の18日。
【試合映像】女子シングルス1回戦 張本美和 vs 王芸迪|ITTF女子ワールドカップマカオ2024
グループリーグ1位通過で女子シングルス1回戦に臨んだパリ五輪代表内定の張本美和(木下グループ/世界ランク12位)が世界ランク3位の王芸迪をゲームカウント4-1で下し、ついに中国の一軍選手から待望の大金星を挙げた。
「自分でもびっくりしています」と笑顔の張本。苦渋に満ちた王芸迪との勝敗を分けたのは第3ゲームだった。
張本が第1ゲームを先制し、第2ゲームは王芸迪が奪って迎えた第3ゲーム。9-6リードから9-8に追いつかれた張本がタイムアウトを挟むと、タイムアウト明けは自身のサーブ3球目を得意のバックハンド攻撃。次は強烈なチキータレシーブを相手のフォア側に叩き込み、このゲームを取り切った。
「3ゲーム目はタイムアウトを取ってから連続ポイントで勝ち切ることができました。もし取れなかったら(ゲームカウント)1-2になって相手の気持ちも少し軽くなったと思います」
ベンチではどんな話し合いがあったのか?
コーチの父・宇さんがまずアドバイスを伝え、それを聞いた美和が一瞬、考え込むシーンがあった。
「次のボールをどうしようかっていうのをお父さんに聞いて、こうしたらいいんじゃないかって言われて。それはいつも練習しているけど、まだあまり試合で効果的に使えていない戦術でした。でも、私もそれでいこうと思って、それが見事にハマって得点になったので、そこは『(今までやってきたことが)実ったなー、少しは』と思ってすごい嬉しかったです」
これで流れを引き寄せた張本は第4ゲームも奪うと、第5ゲームは先に10-9でマッチポイントを握ったところで10オールに追いつかれ再び勝負所を迎えた。
しかし、力が入ったのか。自身のサーブにミスが出て10-11とリードされてしまう。
この時の心境を「5ゲーム目を取られちゃうと(ゲームカウント)2-3で相手は怖い物がないというか、自分もどんどん緊張してきちゃうと思うので、本当にこの5ゲーム目は重要でした」と振り返る張本。
この緊迫した局面で思い切りのいいフォアハンド強打や大きな武器であるバックハンドストレートなどでポイントを重ねた張本は、王芸迪に2本のエッジボールという自信のアンラッキーも跳ね除ける強心臓ぶりで第5ゲームを16-14でもぎ取った。
「精神的には正直、キテました。『もし(エッジで)入ってなかったら勝てたのにな』っていう得点もあったりしたので。でも、エッジもやっぱり技術の一つだと思うので、しょうがないなと思って。また次のボールをどうしようか考えて、すごいキツかったんですけど切り替えることができました」
「ずっと強化してきた細かい戦術面で、ラリーに持ち込まれて優位に立てないという課題があったんですけど、今日は相手のサーブからの展開でも、すごい細かく突き詰めることができてラリーも互角に戦えたと思います」
2月に釜山で開かれた世界卓球2024団体戦の決勝では世界最強中国のエース孫穎莎と東京五輪金メダルの陳夢に敗れ、中国超えは叶わなかった。
それをわずか2カ月後のワールドカップで果たしたことについては、「中国のトップ選手に圧はかけられても勝ちまでには繋がらなかった。しかも、今日は中国選手と初めて7ゲームマッチでやったので、またちょっと違った雰囲気というか感じ方があった」と張本。
今夏のパリ五輪まで100日を切った。このタイミングで宿敵中国を下した意味は大きい。
「オリンピック代表に選んでいただいてから、より気を引き締めて努力をずっとしていて、あまり成績に目立って表れていなかったので、今日のこの1試合は自分を少し褒めてあげていいかなと思います。でも、まだまだもっともっと強い世界ランク1位の選手(=孫穎莎)もいますし、次もし中国選手とやる時というのは本当に簡単じゃないので、しっかり今日の良かったところも悪かったところも反省して次に繋げられたらいいなと思います」
世界をあっと言わせる15歳。張本美和の進化が信じられないスピードで加速していく。
(文=高樹ミナ)