劇場版「名探偵コナン 100万ドルの五稜星」は、マンガ「まじっく快斗」とセットで楽しもう!

by 檀朋美

【まじっく快斗】

週刊少年サンデーにて連載中

今年で27作目となる劇場版「名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ)」が4月12日に公開された。筆者もさっそく鑑賞したが、「名探偵コナン」らしい推理ありラブコメありアクションありの傑作となっている。期待される興行成績だが、公開から3日間の観客動員227万人、興行収入33億円を突破し、ロケットスタートを切った。

本作は、主人公・江戸川コナンの他に、メインキャラクターが、服部平次と怪盗キッドの二人いる。服部平次は、「名探偵コナン」に初期から登場する、コナンのライバルかつ協力者の高校生探偵だ。対する怪盗キッドは、16巻(1997年)が初登場の宿敵で、屈指の人気キャラクターなのだが、実は「名探偵コナン」の原作者・青山剛昌氏の連載デビュー作「まじっく快斗」の主人公でもある。

この「まじっく快斗」、1988年に第1巻が発売され、現在5巻まで出ているのだが、連載は35年以上にわたるかなりの不定期で、なんと今もまだ話は続いている。4月10日発売の『週刊少年サンデー』20号では、7年ぶりの新作が掲載された。

今回の「まじっく快斗」の新作は、「名探偵コナン」連載30周年と映画の公開を記念したものとなっている。それほど、「名探偵コナン」と今回の映画「100万ドルの五稜星」にとって、別の作品である「まじっく快斗」は重要なのだ。映画公開前から、何度も「ついに明かされる、キッドの"真実"」という触れ込みも公式からさかんに発信されていた。「まじっく快斗」はまさに、その"真実"への、みちしるべとなっているので、筆者は是非、映画とセットで楽しんでほしいと思っている。

「名探偵コナン」と「まじっく快斗」の深い関係

「まじっく快斗」はなぜ、35年以上もの長期間、不定期連載なのか。1987年から「週刊少年サンデー 増刊号」という、増刊号の方で連載がされていたのだが、青山剛昌氏が1988年に「YAIBA」というマンガを「週刊少年サンデー」で連載することとなり、「まじっく快斗」は完結しないまま、休載になったようである。ただ、その後も年に1~2回、増刊号で続きを掲載し、単行本3巻が1994年に発売された。「YAIBA」も1993年に完結したのだが、次の連載は、編集部の方から、「金田一少年の事件簿」が爆発的に流行っているから、本格ミステリーを描いてほしい、と[D4]頼まれ、1994年に「名探偵コナン」を生み出す。それが空前の大ヒット。アニメ化、毎年の映画化など、青山剛昌氏は多忙を極め、「まじっく快斗」の続きを描くつもりではあったものの、なかなか時間が取れず、4巻が出るのは3巻から13年後の2007年となった。

普通なら、もう「まじっく快斗」は休載か、完結して、「名探偵コナン」に集中するべき、と思うかもしれない。だが、それができないぐらい、「まじっく快斗」と「名探偵コナン」の両作品には深い繋がりがあるのだ。

まず、「まじっく快斗」の主人公・怪盗キッドは、高校生の黒羽快斗(くろば かいと)の変装なのだが、黒羽快斗と、「名探偵コナン」の主人公・江戸川コナンの元の姿である工藤新一は、顔や体格、声がそっくりなのだ。これは、怪盗キッドが「名探偵コナン」に初めて登場した16巻(1997年)から一貫して描かれている。このことを利用して、怪盗キッドは小細工なしで、工藤新一のふりをすることもしばしば。なお、これは偶然などではなく、きちんと理由があるのだと、ミステリマガジン6月号(2011年・早川書房)のインタビューで青山剛昌氏が明かしている。

そして、「名探偵コナン」では、黒ずくめの組織のベルモットや、江戸川コナン=工藤新一の母親・工藤有希子の変装が有名だが、二人は、怪盗キッド=黒羽快斗の父親・黒羽盗一(くろば とういち)に変装術を一緒に教わったのである。この変装術がなければ、「名探偵コナン」では成立しないトリックが多数あり、コナンの協力者の一人、赤井秀一が黒ずくめの組織の目をくらまし、沖矢昴に変装して生きながらえることも不可能だ。

また、「名探偵コナン」78巻(2012年)のベルツリー急行殺人事件では、黒ずくめの組織に灰原哀が殺されそうになるところを、同乗していた怪盗キッドの協力で難を逃れている。

他にも、工藤新一の父親・工藤優作が怪盗キッドの名付け親だったり、黒ずくめの組織のボスの名前・烏丸蓮耶が登場する30巻(2000年)の「集められた名探偵!」という話には、怪盗キッドと、「まじっく快斗」の登場人物であるキッドのライバル、探偵・白馬探(はくば さぐる)が登場したりしている。ちなみに、烏丸蓮耶が黒ずくめの組織のボスの名前だと判明したのは、95巻(2018年)である。30巻の話が実は重要であったということが、18年後に明らかになるという、恐ろしいほど長いスパンで考えられた伏線なのだ。

つまり、「名探偵コナン」にとって、「まじっく快斗」は同時進行的に関連があり、それが、今も続いているという立ち位置なので、先に完結することができないのである。これまで数々の伏線を10年単位で張り巡らせてきた青山剛昌氏のことだから、今後はさらに、両作品の繋がりが深まってしまうのかもしれない。今回、7年ぶりに「まじっく快斗」本編が週刊少年サンデー本誌に掲載されたが、初めて快斗の幼馴染・中森青子(なかもり あおこ)の母親・中森碧子(なかもり みどりこ)が登場する。彼女は青子と二人で怪盗キッドの盗みを阻止しようとするのだが、彼女ももしかしたら、今後「名探偵コナン」に関わってくるのかもしれない。

「まじっく快斗」第1話が、原点にして最重要!

そんな「まじっく快斗」だが、どんな話かというと、基本的には「名探偵コナン」に登場する怪盗キッド=黒羽快斗の、高校生活と怪盗業について描かれている。特に第1話は、原点にして最重要な話だ。時間がない人は、是非1話だけでも読むことをおすすめしたい。

1話のあらすじはこうだ。マジックが得意な高校生・黒羽快斗はある時、自室に隠し扉があることを発見するのだが、それは、マジックショーの最中に事故死した世界的マジシャンの父・黒羽盗一が残した、最期のマジックだった。快斗はそこで、父が大泥棒・怪盗キッドであったことを知ってしまう。キッドは8年前から姿を消していたが、最近姿を現し、復活したとニュースになっていた。ちょうどその日も、キッドからの予告状があったとテレビで報道があり、快斗は真相を知るため、怪盗キッドの衣装を纏い、予告状が示す場所に向かう。そこで出会ったのはかつて父の付き人をしていた、寺井黄之助(じい こうのすけ)だった。最近復活したキッドは、寺井の変装だったのである。快斗は寺井から、事故死ではなく殺されたのだと知らされ、快斗は父を殺した人物を探すべく、自らが怪盗キッドとなる。

この第1話には、快斗や盗一、寺井だけでなく、快斗の母親や、幼馴染・中森青子、青子の父であり、怪盗キッド逮捕を目指して追い続ける警部の中森 銀三(なかもり ぎんぞう)も初登場。快斗と青子の甘酸っぱい関係や、快斗としては大事な人の父親でありキッドとしてはちょっとした天敵である中森警部とのやりとりも面白い。

怪盗キッド=黒羽快斗
中森銀三
中森青子

あらすじや、登場人物だけ見ても第1話が重要な話であるのは明白なのだが、驚くべきは、この話が1987年という、今から37年も前に描かれたというのに、怪盗キッドの衣装が完璧なまでにオシャレだという点だ。真っ白なシルクハットやマント、トランプ銃やモノクルという片眼鏡、クローバーのタッセル。その洗練されたデザインは、今もなおスタイリッシュでかっこいい。ストーリーだけでなく、そのデザインセンスにも、青山剛昌氏の才能を感じ取れる1話となっている。

父・盗一の死の真相にたどり着き、「ビッグジュエル」を探すようになる

1話で、父・盗一が事故死ではなく、殺されたのだと知った快斗は、父を殺した犯人をつきとめるため、怪盗キッドとして活動を始めた。そうすることで、いつか犯人が姿を現すと予想したからだ。

最初は狙うお宝に特定の法則はなく、絵画や彫刻など様々な美術品を標的にしていた。だが、活動を続ける中で、ついに、自分を「黒羽盗一」と呼んで命を狙う組織と遭遇する。その組織は不老不死が得られるという伝説のビッグジュエル・パンドラを手に入れようと暗躍していた。快斗は、父を殺害したに違いない彼らよりも先にパンドラを見つけ出し、破壊すると決意するのだ。

それ以来、怪盗キッドは宝石ばかり狙うようになる。その手口は鮮やかで、犯行予告状を送りつけ、予告時間どおりに、警備や警察の目をかいくぐり、華麗に盗み出す。変幻自在に姿を変え、神出鬼没に現れ、忽然と消える。折りたたみ式のハンググライダーで夜空を舞い、トランプ銃でピンチを打開し、数々のあざやかなマジックで警察や探偵を翻弄する、大胆不敵でキザな怪盗紳士。ついた通り名は「平成のルパン」、「月下の奇術師」。だが、躍起になる警察や探偵をこけにするように、怪盗キッドは、目当ての宝石ではないと分かれば盗んだ宝石を持ち主に返す。そのクールなやり方に、一般大衆やマスコミは怪盗キッドに夢中になり、ひとたび予告状が送られると、ファンやマスコミがこぞって集結し、人の海になってしまうほどの人気を獲得している。

新たなライバル!?「怪盗コルボ―」

現時点でパンドラはまだ見つかっていないが、謎の組織とは何度か遭遇している怪盗キッド。その他にも、ライバルの名探偵・白馬探が登場したり、4巻では「名探偵コナン」の工藤新一がゲストキャラクターとして登場したりと、怪盗VS.探偵の攻防も面白い。

だが、5巻(2017年)になると、新しく「怪盗コルボ―」が登場する。姿は、怪盗キッドを白黒反転させたような黒い装束で、あの黒羽盗一を兄弟子と呼び、敵を討つために活動しているという。キッドがブラックダイヤモンド「真夜中の鴉」を狙った際に、自分の生み出す奇跡を解明できなかったら怪盗を廃業するよう勝負を仕掛けてくるが、この勝負は引き分けに終わる。盗一の付き人だった寺井や、妻である黒羽 千影によると、盗一に兄弟弟子がいたかどうか、心当たりはないという。まだまだ謎の多い人物で、今後の再登場が待たれるが、やはりどうしても、今後「名探偵コナン」に関わってくるのかもしれない、と疑ってしまうところだ。

「まじっく快斗」とセットで楽しむ劇場版「名探偵コナン 100万ドルの五稜星」

では、「まじっく快斗」と映画はどう関連するのか。函館が舞台の本映画では、快斗の幼馴染の中森青子が登場するのだが、あくまで怪盗キッドとして函館に来ている手前、快斗の姿では青子に会うわけにはいかない。そんな二人の関係の描かれ方を、「まじっく快斗」の二人の恋模様を踏まえて鑑賞すると、ときめきが増すのは間違いない。

また、中森警部にも注目である。映画では、怪盗キッドを捕まえるために函館まで来ているわけだが、中森警部は怪盗キッドからすると単なる張り合いのない追手にすぎない。だが、父親を亡くしている快斗にとっては、青子という大事な人の父親以上の存在なのだ。「まじっく快斗」では、快斗が怪盗キッドのことで中森警部の相談に乗る話があるなど、二人の親密な様子も描かれている。それを把握したうえで映画の怪盗キッドと中森警部の攻防を観ると、ハラハラする以外の気持ちにもなることうけあいである。

今回の怪盗キッドが盗むと予告したお宝は、「土方歳三にまつわる日本刀」であり、事前に宝石でないことが分かっている。怪盗キッドが宝石以外を盗むのは極めて珍しい。何故そんなことをするのか。予告映像では怪盗キッドが「俺は知りたいんだ そいつが狙っていたお宝が何なのか」と言っている。この言葉も、「まじっく快斗」を読んでいると、その意味に重さが増す仕掛けになっているのだ。

映画の大きな触れ込みである「ついに明かされる、キッドの"真実"」も、最後まで鑑賞すればそれが何のことか分かるのだが、その衝撃は「まじっく快斗」を読むと、何倍も大きくなる。予告で服部平次が、怪盗キッドの素顔を垣間見て、「お前、その顔...!」と言っているので、ついに、黒羽快斗と工藤新一の顔や姿がそっくりなことの理由が分かるのかもしれない、と単純に予測することもできるが、そこは「名探偵コナン」の映画である。驚愕の事実が明らかになるので、是非、映画館で確かめてほしいし、「まじっく快斗」を読んで、その驚きをより大きいものにしてほしいと筆者は思っている。どちらが先でも順番はお好みで問題ないので、この2作品は、セットで楽しんでほしい。今なら、アプリ「サンデーうぇぶり」で「まじっく快斗」は全話無料で読めるので更におすすめだ(5月10日まで)。

(C)2024 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

© 株式会社インプレス