映画「陰陽師0」公開記念! 平安時代を100%楽しめる名作マンガ6選王朝文化の雅、死霊や怪異、陰謀、生死感そしてギャグ。平安時代はこんなに面白い

by 石井聡(クラフル)

夢枕獏氏の小説「陰陽師」をベースにした平安呪術エンターテイメント映画「陰陽師0」(配給:ワーナー・ブラザース映画)が、いよいよ4月19日から劇場公開される。アカデミー賞で視覚効果賞を受賞した映画「ゴジラ-1.0」においてCGを手がけた総合映像制作プロダクションの白組をはじめ、多くのVFXスタッフが参加して、魑魅魍魎が跋扈した平安時代をアクション豊かに描く期待作だ。

2024年はNHKの大河ドラマでも、紫式部を主人公にした「光る君へ」が放送中で、書店にも平安時代に関する書籍が並んでいる。そんな今年は平安時代がかなり来ている。そんな印象を筆者もひしひしと感じている。

そのブームに全力で乗っかろうと、歴史ものが好きな筆者が平安時代を舞台にしたおすすめマンガをセレクトしてみた。ちょっと話はそれるが、筆者が学生時代にお世話になった先生が「平安時代の人間の考え方は、現代の海外の人間よりも理解するのが難しい」と語っていた。

そんな近くて遠い平安時代の、今とは違う雅びだがどこか不気味さをまとった雰囲気を、ぜひこれらのマンガを通じて味わってほしい。

陰陽師

映画「陰陽師0」と同じ、夢枕獏氏の原作を岡野玲子がマンガ化した作品。白泉社から全13巻と、夢枕獏氏が原案の続編「陰陽師 玉手匣」全7巻が発行されている。

ためし読みで読むことができるのは、少年時代の晴明が師匠の賀茂忠行とともに、菅原道真の怨霊に遭遇するプロローグ「安倍晴明 忠行に随ひて道を習ふこと」と、源博雅と晴明が出会うこととなる「玄象といふ琵琶 鬼のために盗らるること」の一部。

夢枕獏氏の原作は平安時代末期の説話集「今昔物語」を元にしている。実は「今昔物語」も原作「陰陽師」でも百鬼夜行に出会ったという描写しかなく、それが菅公率いる鬼であるというのは岡野玲子の創作だ。自分を太宰府に左遷した藤原時平を引きずりながら、百鬼を伴って夜空を練り進んでいくシーンは非常に印象深く、絵巻物をそのままマンガにしたような風情がある。原作、映画と共に楽しんで欲しい一作だ。

【あらすじ】

平安時代、稀代の魔術師と恐れられた陰陽師、安部晴明が、盟友にして管弦の道を究めた王子・源博雅と共に都の怪異に挑む。

応天の門

「陰陽師」では怨霊として登場する菅原道真が主人公として活躍する灰原薬氏の平安クライム・サスペンス。現在は18巻まで発行されており、コミックバンチで連載中だが、同誌がウェブマガジンに移行するに伴い、2024年5月からは「コミックバンチKai(カイ)」での連載となる。

菅原道真はまだ元服を終えたばかりの10代の若者。そんな道真が、平安時代ナンバーワンプレイボーイとして知られる在原業平とともに、平安京で起こる様々な事件や陰謀を解き明かしていく。

天才的な知識と洞察力を持つが、まだ若く世間ずれしていない道真と、幾多の浮名を流し渋い中年の業平。20歳も年の差がある2人の掛け合いや謎解きが本作の魅力だ。

【あらすじ】

平安時代、藤原家が権力を掌握せんと目論んでいた頃、都で突如女官の行方不明事件が発生する。「鬼の仕業」と心配する帝の名を受けた在原業平は、若き天才菅原道真と共に謎に挑む。

とりかえ・ばや

平安時代後期に成立した作者不詳の物語「とりかえばや物語」をベースにさいとうちほ氏が描いた少女マンガ。全13巻で完結している。原作の「とりかえばや物語」は、関白左大臣の家に生まれた男女が、男の子は女性として、女の子は男性として育つことで起こる事件を描いた物語。男女の入れ替わり物語の原点といえる作品であり、これまでも小説やマンガになっている。

さいとうちほ氏のマンガでは、原作の骨子とテイストは残しつつ、少女マンガらしい解釈によって、より現代人が読んでも面白い作品に仕上がっている。しかし、ちょっとした感嘆詞に古典そのままの言い回しが使われていたりと、平安時代の雰囲気を感じる仕掛けがとてもいい雰囲気を作っている。

男らしさ、女らしさというジェンダーは現代でもたびたび社会問題として取り沙汰される。1000年も前の物語ではあるが、そこに描かれているテーマは、まさに今の時代に求められているものだ。平安時代を楽しむだけではなく、そういった意味でも、誰もが手に取ってほしい作品だ。

【あらすじ】

平安時代、貴族の娘と息子として生まれた沙羅双樹と睡蓮は双子のようにそっくりな見た目をしている。だが、女の沙羅双樹は男の子のように闊達で、男の睡蓮は内気な恥ずかしがり屋。2人は性を取り換えて暮らすことになるが……。

阿・吽

真言宗の開祖空海と天台宗の開祖最澄の生きざまを描くおかざき真里氏のマンガ。全14巻で完結している。物語はちょうど桓武天皇の時代。都が平城京から長岡京へ、そして平安京へと移っていく時代を行き来しながら、最澄と空海それぞれの人生が交互に語られていく。

いずれは同じ遣唐使船で中国へ旅立つことになる2人。最澄は母親にエリートとなることを期待され寺に入ろうとするが、当時の寺の腐敗ぶりを目にして絶望し、山にこもって人の救済を目指す。最澄よりも少し若い空海は、満足することのない知識欲が求めるまま、様々な書物や言葉を求める。

現実と空想が入り乱れる描写はすさまじい。早良親王たちの怨霊が闊歩するのを見ながら、真魚(空海)が叔父とさわやかな会話をしているシーンなどは、その後すぐに平安京に遷都することになる経緯を知っているだけに鬼気迫るものがある。2人が人生をかけて追い求め、最後に何を得るのかはぜひマンガを読んで確かめて欲しい。

【あらすじ】

比叡山延暦寺の開祖である最澄と、弘法大師の名で知られる空海。平安時代に密教を日本に広めた2人の物語が始まる。最澄はエリートへの道を捨てて山に籠り、空海はひたすらに学を求めて己の求める真実へと近づこうとする。

神作家・紫式部のありえない日々

紫式部がオタクで、「源氏物語」は彼女が書いた薄い本(同人誌)だった。という設定のもとに描かれたD・キッサン氏のコメディマンガ(一迅社)。同人誌を作ってイキってるのキモイと言われて5カ月間引きこもったり、いじめられたくなくて天然のふりをしたりという「紫式部日記」に描かれている実話が、笑えるエピソードとして登場する。というか、現代的な言葉に直すと、やっていることは1000年たってもあまり変わらないなという印象だ。

頭中将×源氏のカプ推し腐女子の小少将の君や、同担拒否の夢女子左衛門の内侍など、熱心な読者も獲得しつつ、歴史的な事実もちらちらと交えながら笑える日常が展開されていく。

大河ドラマ「光る君へ」の予習として、また平安時代を軽く楽しみたい人、ディープな女オタクワールドを垣間見たい人にもぴったりの一冊だ。

【あらすじ】

34歳、陰キャ。サブカル女。シングルマザー。しかし彼女には才能があった! 世渡り下手の才女、紫式部は夫を失って以来、悲しみを癒すべく創作活動に打ち込んできた。書き上げた物語が話題になり、宮仕えの声がかかるが……。

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