神がかっていた斉藤由貴【80年代アイドルの90年代サバイバル】映画に舞台に大活躍!  歌手として女優として大活躍した斉藤由貴の90年代

リレー連載【80年代アイドルの90年代サバイバル】vol.6- 斉藤由貴

1985年にデビュー、女優として歌手としてキャリアを重ねていった斉藤由貴

今からちょうど40年前の1984年、東宝創立50周年記念イベントの一環として開催された第1回『東宝シンデレラ』オーディションでファイナリストに選ばれた斉藤由貴。グランプリの座こそ沢口靖子に譲ったものの、同じ年に講談社の少年マガジン主催による第3回「ミスマガジン」でグランプリに選ばれて芸能界入り。東宝芸能に所属することになる。

『スケバン刑事』(フジテレビ)、『はね駒』(NHK)などのドラマに主演、歌手としても「卒業」で1985年にデビュー以降ヒットを連ね、女優としても歌手としても大人気となった。スクリーンでも、相米慎二監督による初主演作品『雪の断章 -情熱-』(1985年)に始まり、大森一樹監督の『恋する女たち』(1986年)と『トットチャンネル』(1987年)では第11回「日本アカデミー賞」の優秀主演女優賞を受賞。1988年には『北の国から』の杉田成道監督による大作『優駿 ORACION』に主演するなどキャリアを重ねてゆく。

翌1989年、ドラマ『湘南物語』の主題歌となった井上陽水のカバー「夢の中へ」は、自己最多セールスとなる40万枚のヒットを記録した。1987年の主演ドラマ『あまえないでョ!』で主題歌を歌っていた、キャニオンレコードのレーベルメイト、BaBeがバックボーカルで参加している。崎谷健次郎プロデュースで、ハウスミュージック風のアレンジが施された。

脱アイドルのアーティスティックな内容となったアルバム「MOON」

そして迎えた90年代。俳優業がメインとなり歌手活動は控えめとなるも、1992年、1994年、1999年に3枚のシングルをリリース。さらに1990年から1994年の間に3枚のアルバムをリリースしている。

1990年の『MOON』は斉藤自身がプロデュースと共に全曲の作詞と訳詞を手がけたアルバム。シングル曲は未収録、ジャケットに本人の写真を使わない(ただし帯には使用)など、脱アイドルのアーティスティックな内容となっている。前作『age』をプロデュースした崎谷健次郎の作曲による「大正イカレポンチ娘」は、ブギのリズムに乗せて歌われるノヴェルティソング。なかなかの冒険作だった。

1991年のアルバム『LOVE』も全曲斉藤の作詞で、そこからシンガーソングライターの山口美央子作曲による「いつか」がシングルカットされた。

コメディエンヌの魅力が一気に開花した舞台「君となら~Nobody Else But You」

テレビドラマでは、『はいすくーる落書』シリーズ(1989、1990年)で教師役、『まったナシ!』(1992年)では相撲部屋の女将役などで新境地を拓き、1995年にはNHKの大河ドラマ『八代将軍吉宗』にも出演。女優として脂が乗っている様子を存分に見せてくれた。

映画では、『香港パラダイス』(1990年)や『おいしい結婚』(1991年)に主演。そして1987年の『レ・ミゼラブル』でコゼット役を演じて以来の舞台となったのが、1990年の野田秀樹演出『から騒ぎ』の主演である。さらに朗読劇『LOVE LETTERS』(1992年)、御園座での『二十四の瞳』などを経て、90年代の特筆すべき舞台はなんといっても、1995年にPARCO劇場で上演された『君となら~Nobody Else But You』だろう。

三谷幸喜作・演出によるシチュエーションコメディの傑作で、舞台を駆け回る斉藤は実に活き活きとして、それまでの作品でも時折見せていたコメディエンヌの魅力が一気に開花していた。好評を受けて1997年にはほぼ同じキャストで再演もされている。

父親役の角野卓造、婚約者役(!)の佐藤慶とのやりとりの妙が素晴らしく、ストーリーの伏線回収も見事の一語に尽きた。個人的には90年代に観た舞台のナンバーワンと言っても過言ではない。演劇における斉藤由貴の女優開眼の瞬間ではなかったかと思えるほどだった。観る者を惹き込む強力なオーラと絶対的な存在感はその後もさらに培われてゆくことになる。

女優として歌手として、今も輝く続ける斉藤由貴

マイペースながら決して絶えることなく続いている歌手活動では、2021年にデビュー35周年記念として出されたセルフカバー・アルバム『水響曲』が記憶に新しい。きっとまた新たなレコーディングも近い将来聴かせてくれるに違いない。

神がかっていたあの『君となら』の初演から来年で30年となるのが全く信じられないくらい、斉藤由貴は女優として、歌手として、今も輝き続けている。デビュー当初からずっとその姿を見続けてきた身としては驚異を感じざるを得ないのだ。

カタリベ: 鈴木啓之

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