慶大が発表「女子新入学生向け」の食事支援が物議 “貧困男子学生は切り捨て”の声噴出…専門家からも疑問の声

福澤諭吉もあきれ顔!?慶應義塾大学の学生支援は役立つのか ※画像はphotolibrary

慶應義塾大学と主に外食産業を展開するワタミ株式会社が4月5日、学生への食事支援を行なうことを発表。しかし、その内容が男女で”差”があるとして、ネット上で大きな話題になっている。

慶大が企業と連携して行なう学生支援は今回が初の取り組みで、支援は次の2パターン。支援(1)は「地方から出てきた一人暮らし女子新入学生」向けのもの。もう一つの支援(2)は「家庭の経済的困窮により支援を必要とする学生」向けの物だ。支援(2)は、男女両方の学生へと向けて設定されているのだが、その内容に大きな差があるのだという。

「慶大が提示した支援(1)は”4月から一人暮らしを始めた女子学生(関東以外出身)”を対象に、支援が必要な学生を募集(4月11日で受付締切)。支援が必要と判断された学生、年間約200名を対象に、ワタミのミールキット『PAKU MOGU』『あっ!と ごはん』『定番おうちごはん』(すべて2人用)を、毎月8セット分、無料で提供するというんです」(WEBライター)

ワタミのHPによれば、『PAKU MOGU』は“子どもたちの完食を目指したミールキット”で、およそ15分の調理で主菜・副菜の2品が完成するという。『あっ!と ごはん』は、文字通りあっという間に主菜と副菜を1品ずつ作れる手軽さが売りだとか。『定番おうちごはん』は、なじみのある定番料理が楽しめるをコンセプトに、届いた食材をレシピ通りに調理すれば、おかず2~3品が完成するそうだ。調理の所要時間は30分~35分と、手軽さを売りにしているという。

「1セットあたりの価格は、『PAKU MOGU』『あっ!と ごはん』『定番おうちごはん』のいずれも週2日注文する場合で1240円(税込・以下同)。定期注文なら5%オフの1180円です。週に2回の配達が1か月になれば8セット届く計算ですね。つまりは、支援を受ける学生は9440円分の援助を受けられるということ。ミールキットは1セット2人分なので、女子学生が”一人暮らし”であることを考えると、ミールキットをすべて食べれば、実質16回分の食費が月の中で浮くわけです」(前同)

女子新入学生向けに限定された支援(1)とは異なり、支援(2)は「家庭の経済的困窮により、支援を必要とする学生」が対象とのことで、男女の区別は存在しないようだ。慶大の発表によれば、近日中に支援を開始するとのこと(現在は募集受付中)。人数は年間約370名を予定しており、毎月1回1食分、『ワタミの宅食』の調理済み弁当『スマートプレート(惣菜のみorご飯付き)』(通常週1回720円~730円)が無料提供される予定だという。

なお、『スマートプレート』は、もともとミドル世代に向けて開発された商品で、カロリーや塩分は控えめで、一度に多品目の食材を摂れる献立が特徴という。支援(1)も支援(2)も、費用はすべて大学側が負担すると発表されている。

■慶應大学の説明「一人暮らしは女子のほうが家賃がかかる」

ワタミが慶應大学の苦学生向けに提供する『スマートプレート』『ミールキット』は、ともに管理栄養士が献立を考えており、健康的な食事であることは確か。円安や燃料高の影響から物価高が続いている中での大学側からの食事無償提供に、喜びの声を上げた学生も少なくないことだろう。

ただ、前述した通り、女子新入学生のみを支援対象とした支援(1)と、男子学生も支援対象に含まれる支援(2)で、内容に大きな開きがあるのもまた事実。そのため、X(旧ツイッター)では、

《男子学生も使える(2)の支援のほうは、女子限定の(1)と比べて支援内容が薄すぎる》
《貧困男子学生切り捨てる理由になってないよ。男女分けないで家賃と親の収入環境で支援対象決めればいいじゃん》

などと違和感を抱く声も上がっている。慶大の公式Xでは《支援(1)は東京での一人暮らしは女子学生のほうが男子学生より住居費がかかることを踏まえての企画です》と説明をしているが、

《お金がかかるという点では、むしろ男性は必須カロリーが多い分、食費が女性より多くなります》

など、大学側が示した見解に対してツッコミが噴出し、炎上騒動にまで発展しているのだ。

■専門家も「説明が不十分」と指摘

慶大がワタミと組んでスタートさせようとしている女子学生向けの食事支援。X上には《「女子」に限る理由は全くわかりません》と大学側の説明に対して疑問の声を抱いたユーザーの意見も少なくないのだが、就活事情や労働問題に詳しい千葉商科大学准教授・常見陽平氏も「率直に、なぜ女子だけ支援が手厚いのかという説明が不十分」と問題点を指摘する。

「まず社会的な総論として、男女間に賃金格差があり、その差は少しずつ縮まっているとはいえ、まだまだ女性のほうが低い状況があるのは確かです。内閣府が調査したデータによれば、2021年時点で男性一般労働者の給与水準を100としたとき、女性の給与水準は75.2にとどまります。他にも非正規雇用の比率は女性のほうが高いなど、男女格差が社会の中に存在することは明らかです」(常見氏)

ただし、今回は社会人ではなく、あくまでも学生を対象とした話。「なぜ、女性に対する支援が必要なのかの論拠が示されていないのが、慶應大学の学生支援の問題点だ」と常見氏は話す。

「あくまで例ですが、大学生活においても女子のほうがアルバイトで稼げる給料が少ないとか、セキュリティ面を考慮した結果、“女子のほうが住居費がかかる”というのならデータを示してもらいたい。女性のほうが平均的にこれだけ高い家賃を払っている、というように具体的な背景とデータを明記してくれたら、新入女子学生だけを限定とした支援を行なうのも納得できます。

“明らかに女性が食費に困っている”という実態が慶大のプレスリリースには描かれていないので、唐突感があり、さまざまな憶測や批判を呼んだのではないでしょうか」(前同)

さらに常見氏は「ミールキットと弁当(スマートプレート)という支援内容の違いも気になる」と言う。

「支援(1)はミールキットではなく弁当でもいいわけですよね。考えすぎなのかもしれませんが、ミールキット=料理をするのは女性だという概念をもとに、支援内容を決めたのならば、これぞ旧来の価値観の押しつけです。女性だからといった性別を押しつけるような内容のCMは、過去に何度も炎上してきましたよね」(同)

もちろん、慶大が学生向けに提供する食事支援は、貧困に悩む学生の大学生活におけるセーフティネットになるのだろう。そんな中、常見氏はこう続ける。

「学生の食事生活を支援するのがダメだとは決して言いませんが、”なぜ、これがこの人たちに必要なのか”ということが、プレスリリースを読んでも書いてありません。もっと言えば、慶應大学はなぜワタミと組んで学生支援を行なうのか、という点も説明不足。支援に使われる費用は学費から捻出されている可能性もあるわけですし、これでは学内外から疑問の声が上がるのも致し方ありません」(同)

なお、なぜ支援内容を”女子新入学生”とその他の学生で切り分けたのか、支援(1)と支援(2)の内容の違いの根拠などについて慶應大学に問い合わせたところ、支援内容を管轄する「慶應義塾協生環境推進室」からは回答なし。広報室は“回答は差し控えさせていただきます”とのことだった。

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