【コラム・天風録】不況感に染まるな

 「失われた30年」という言葉が定着したのだろうか。さまざまな本のタイトルになり、テレビ番組にもよく出てくる。30年前に大学の門をたたいた身としては、無為な時を過ごしてきたと指摘されるようで寂しい気がする▲入学当時、確かに景気はよくなかった。それでも、卒業時には好転すると根拠なく信じていた。まさか30年も続くなんて…。今、赴任している東京で爆買いする外国人たちを見ていると、長引く低成長が恨めしくなる▲そんなもやもやした気分が意外なところで晴れた。職場近くであった東京大の入学式である。固定観念に縛られる認知バイアスを自覚し「調整する姿勢が重要」と、総長が式辞で語った。「先輩がつくった不況感に染まらず、時代を変えろ」と激励しているように聞こえた▲「失われた30年」も見方を変えれば「得られた30年」だろう。例えば、アニメや映画など日本文化の評価は格段に高まった。岸田文雄首相が今月訪米した際も、アニメ主題歌を世界でヒットさせた日本の若いユニットが、大統領との夕食会を彩った▲これからの時代をつくっていくのは若い人たちに違いない。まぶしい若葉のようにぐいぐいと伸びていけばいい。

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