花の都が抱える“不都合な現実” 今こそ暴かれる、パリの素顔に切り込んだ衝撃作『バティモン5 望まれざる者』

『バティモン5 望まれざる者』© SRAB FILMS - LYLY FILMS - FRANCE 2 CINÉMA - PANACHE PRODUCTIONS - LA COMPAGNIE CINÉMATOGRAPHIQUE – 2023

パリ郊外(=バンリュー※1)に存在する、都市再開発を目前に控えた居住棟エリアの一画=通称「バティモン5」。治安の悪いエリア一掃を目論む行政と反発する住人たちが、ある事件をきっかけに、ついに衝突する。前作『レ・ミゼラブル』でその名を世界に轟かせたフランスの新進気鋭監督ラジ・リが、“排除”と“怒り”の衝突を描いた緊迫の最新作『バティモン5 望まれざる者』が、5月24日(金)より公開される。

このたび、ラジ・リ監督からのメッセージ映像と、「バティモン5」の若者たちが、腐った権力からの理不尽な抑圧に立ち向かうために決起する本編映像が解禁となった。さらに、森達也(映画監督・作家)、川和田恵真(『マイスモールランド』監督)、美波(俳優・アーティスト)、井上咲楽(タレント)ら総勢18名からコメントとイラストが到着した。

今こそ暴かれる、パリの素顔に切り込んだ衝撃作

パリ郊外(=バンリュー)。ここに立ち並ぶいくつもの団地には、労働者階級の移民家族たちが多く暮らしているが、このエリアの一画=バティモン5では、再開発のために老朽化が進んだ団地の取り壊し計画が進行している。そんな中、前任者の急逝で臨時市長となったピエールは、自身の信念のもと、バティモン5の復興と治安を改善する政策の強行を決意。だがその横暴なやり方に住民たちは猛反発、やがて、これまで移民たちに寄り添い、ケアスタッフとして長年働いていたアビーたちを中心とした住民側と、市長を中心とした行政側が、ある事件をきっかけについに衝突!やがて激しい抗争へと発展していく——。

ラジ・リ監督は、本作は自身が育った公営団地を入念に観察、登場人物やエピソード、シチュエーションなども実際に出会った人々とのエピソードが本作の糧になっていることを明かし、「日本でもたくさんの方に観ていただけると嬉しいです」とコメント。続く本編映像では、自分の言いなりにならない市民に業を煮やし、まるで嫌がらせのように<未成年は、20時以降外出禁止>という条例を突如発令した横暴な市長に対し、若者たちが、自分たちの権利を守るために決起。「次の市長選に出馬するための手続きをした」「立候補者はアビー・ケイタ」「有権者に訴える権利がある」と宣戦布告を宣言するシーンとなっている。

監督は、前作『レ・ミゼラブル』でその名を一躍世界に轟かせた、新鋭ラジ・リ。役者として、また、1994年にアーティスト集団クルトラジュメのメンバーとしてキャリアをスタートした彼は、1997年、初の短編映画『Montfermeil Les Bosquets(原題)』を監督、2004年にはドキュメンタリー『28 Millimeters(原題)』の脚本を、クリシー、モンフェルメイユ、パリの街の壁に巨大な写真を貼ったことで有名になった写真家・JR(ジェイアール)と共同で手がけるなど、今、注目を集める新進気鋭のアートティストの1人でもある。2022年にはパリ郊外のスラム地区での暴動を映し出したNetflix映画『アテナ』の製作・脚本を手がけ話題を呼んだ。

ラジ・リ監督のもとに『レ・ミゼラブル』製作スタッフが再集結

前作『レ・ミゼラブル』では、自身が生まれ育ったパリ郊外の犯罪多発地区モンフェルメイユを舞台に、そのエリアを取り締まる犯罪防止班(BAC)と少年たちの対立を、手に汗握る圧倒的な臨場感で描き出し、観るものの心を鷲掴みに。結果、作品は、「第72回カンヌ国際映画祭」審査員賞受賞、「第45回セザール賞」4冠最多受賞(観客賞、最優秀作品賞、有望男優賞、編集賞)、「第92回アカデミー賞」国際長編映画賞ノミネート、「第77回ゴールデングローブ賞」外国語映画賞ノミネートなど各国の映画賞を総なめにし、世界に衝撃を与えることになった。それから4年、ラジ・リ監督のもとに『レ・ミゼラブル』製作スタッフが再集結し、再びバンリューが抱える問題を持ち前の臨場感に新しい視点を交えて生み出したのが本作だ。前作と地繋がりのテーマを採用しつつも、そのドラマはより人間臭さを帯びながらさらに社会性をまとい、観るものを圧倒する力強さで進化した作品となっている。

移民たちの居住団地群の一画=バティモン5の一掃を目論む「行政」とそれに反発する「住人」による、“排除” vs “怒り”の衝突。本作では、恐れと不満の積み重ねが徐々に両者間の溝を深くし、憎しみのボルテージが加速していく様が息もつかせぬ緊迫感で描かれる。このコミュニティ内にある「権力」「革新」「暴力」の3つの視点を交錯させることでバンリュー地区の実態、ひいては花の都パリの知られざる“暗部”を炙り出していく。この街で不都合なものとは一体何なのか、望まれざる存在とは何を指すのか——その真髄を映し出した本作は、まさにラジ・リ監督の真骨頂と言えるだろう。

2024年夏季五輪を控えて盛り上がりを見せるパリ。世界的な注目を集める大都市が人知れず抱え続ける問題を、サスペンスフルかつエモーショナルにクローズアップした衝撃作がここに誕生した。

※1:フランス語で郊外を意味する banlieue(バンリュー)は「排除された者たちの地帯」との語源をもつ。19世紀より労働者の街として発展し、戦後は住宅難を解消する目的で大量の団地が建設された。団地人気が低下する1960年代末より旧植民地出身の移民労働者とその家族が転入し、貧困や差別などの問題が集積する場となった。

<コメント>

あたそ(ライター)
冒頭のビル爆破から、嫌な予感はしていた。権利を持つ者/持てない者、フランスにおける強者/弱者。見える世界はまったく異なり、映像から伝わる大きな怒りや理不尽さ、無理解、憎しみに胸を痛めつつ見ていた。日本だって似た問題を抱えている。これは、私たちから遠く離れた社会で起きた話ではなく、すぐ隣で起こりうることなのだと思う。

石井光太(ノンフィクション作家)
移民は「暴力を振るう恐ろしい外国人」だと? それは絶対に違う。国、政治家、国民が、弱い立場の移民を暴力へ駆り立てていくプロセスを、この映画をもって知れ!

井上咲楽(タレント)
私が知っているパリではなかった。行政から見た「不都合な現実」に生き、排除を望まれる者たちの怒りや悲しみがスクリーンを越えて訴えかけてきた。身の回りの政治にとっての「不都合な現実」はどれくらいあるのだろうと想像せざるを得なかった。

内田樹(神戸女学院大学名誉教授)
この映画の登場人物たちの中に100%正しい者はいないし、100%の悪人もいない。みんな、それぞれに守るべきものがあり、そのためにそれぞれの仕方で限度を超えた行動をとる。どこまでなら人を傷つけることが許されるのか、どこまでなら感情をむき出しにすることが許されるのか。『人間が人間らしくあることのできる限度』はどこまでか。それについて深く省察することを映画は観客に求める。

金井真紀(文筆家・イラストレーター)
落書き、低所得、移民、犯罪……「バンリュー」と聞いて、外にいるわたしたちはそういうことばを安易に連想する。だからカメラは中に入っていく。団地の中へ、暮らしの中へ、「反抗的」と烙印を押される人の心の中へ。外と中のボーダーを越えたい人に観てほしい。

川和田恵真(映画『マイスモールランド』監督)
今のフランスにある複雑なレイヤーが見事に描かれ、暮らす場所、人種、宗教、それぞれが立つ場所によってここまで見えるものが違うのだということがありありと伝わった。誰かの都合や怒り、復讐のために他者の家や安心を奪うことはあってはならない。アビーが市長になるような、そんな未来があって欲しいと切に願う。

佐々木俊尚(作家・ジャーナリスト)
「お洒落で小綺麗なパリ」ではない、いま最も熱く昏いフランスの「団地映画」。汚れた公設団地で暮らす移民たちの絶望があますところなく描かれ、どこにも出口のない迷路に、観ている側も殴られるように思いきり連れ込まれる作品だった。

SYO(物書き)
作り手が我々と同じ時代を生き、傷ついている安心感。
物語も感情も技法も今・この瞬間の感覚で出来ている。
だからわかる。突き刺さる。魂が揺さぶられてしまう。
現実を描く風で現在を描けていない映画とは訳が違う。
この団地に吹き溜まる痛みは、世界とつながっている。

スプツニ子(アーティスト/ 東京藝術大学デザイン科准教授)
衝突する世界で見つける、人間性の深淵。この映画が問いかけるのは、私たちの社会における“排除”とは何か。

武田砂鉄(ライター)
権力者が「必要のない人」を作り出す。
理由を奪う。生活を奪う。尊厳を奪う。
どう抗えばいいのか、突きつけてくる。

ダースレイダー(ラッパー)
フランス革命によって誕生した民主主義精神は、その後に成立する国民国家体制と合わさることで大きな矛盾を抱えることになる。どこまでが、誰が主権を有するのか? その矛盾が当のフランスの移民たちの団地であるバティモン5で一気に噴出する。僕らはこの問題を乗り越えることが出来るのか?

寺尾紗穂(音楽家/文筆家)
誤解が偏見を呼び
偏見が憎悪を呼ぶ
絡まった移民問題は
感情的な対立を伴う

この映画に希望はない
ただ作品が示す俯瞰的視点が
人々に共有されたとき
そこに希望が生まれるだろう

名越啓介(写真家)
移民として厳しい環境で育った監督の本作品は、様々な角度からの視点があった。
小さい頃から主人公と同じような現場を目撃し、考え、悩んで、笑って、同じような日常を過ごしてきたからこそ生まれた作品だと思う。 それだけでなく一歩引いた外からの目線も表現されていて監督の冷静な人間性も垣間見れた。世界中の「よくある」移民団地の問題の中から、「よくある」で片付けられない「滲み出た本質の声」が聞こえてくる素晴らしい作品だった。

プチ鹿島(時事芸人)
ニュースで現状を知っているつもりだった?と突きつけてくるような作品。「理不尽」という言葉が頭を巡るが、「諦めるのはもうやめよう」などハッとするセリフもあちこちにある。パリ五輪の今年にぜひ観て欲しい。

増田ユリヤ(ジャーナリスト)
私自身、何度も取材で足を運んだバンリュー。生々しい現実が見事に描かれていて胸が詰まる思いがした。それでも差別や排除に正面から立ち向かうアビーのような女性や移民の支援に情熱を注ぐ人々が確かに存在する。それがフランスだ。フランス人とて3代遡ればルーツは移民。誰もが平穏に暮らせる日々を願ってやまない。

美波(俳優・アーティスト)
「あなたの知らないパリがある。」
フランスで日々深刻化している移民問題。人々が安心して暮らせるユートピアは、この地球上にあるのだろうか。決して他人事では済ませて欲しくない。私たちの国でも起こっている様々な人権問題に目を背けないようにしたい。

森達也(映画監督・作家)
フランスは移民の国だ。だからハレーションは起きる。政治も(日本と同様に)問題だらけだ。でもというかだからこそ、アビーの「政治家が変わらないなら、私たちが声をあげなきゃ」の言葉には強く共感できる。つらい映画だ。でも観てよかった。

森千香子(同志社大学教授)
五輪で沸くパリの周縁で進行する、郊外団地の再開発。立ち退きの危機に瀕した移民が行政に決死の戦いを挑む。監督の個人的経験に基づいた衝撃作。

『バティモン5 望まれざる者』は5月24日(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開

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