「メイド・イン・チャイナ」の素顔とは?過酷労働の裏で紡がれる若者たちの日常とらえた『青春』 中国ドキュメンタリーの巨匠ワン・ビン最新作

『青春』©A Light Never Goes Out Limited. All Rights Reserved.

「メイド・イン・チャイナ」の真の姿

上海を中心に広がる<長江デルタ地域>。経済規模は、ここだけで日本のGDPをはるかに上回る。この巨大経済地域の小さな衣料品工場で、朝8時から夜11時まで働く中国の若者たちがいた――。中国ドキュメンタリーの巨匠、ワン・ビン監督の最新作『青春』が2024年4月20日(金)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開となる。

長江下流域、浙江省湖州市の織里(しょくり)は上海から150キロの位置にある。子供用衣料品製造の中心地であるこの町には、長江で繋がる各地の農村地域、主に安徽(あんき)省や河南(かなん)省などから若い労働者が集まってくる。

彼らは寮の部屋をシェアし、廊下で軽食をとり、スマホで仲間と連絡を取り合いながら、わずかな自由時間を楽しんでいる。思いもよらぬ妊娠、つまらぬ諍い、恋の駆け引き、賃金交渉、そして帰省……。彼らの青春の日々が記録される。

「世界から見えない人たちの〈生〉を記録する」

上海を中心に大河・長江の下流一帯に広がる、長江デルタ地域。ここだけで日本のGDPをはるかに上回る大経済地域だ。しかし本作が描くのは、長江デルタの大企業でも大工場でもない。長江デルタの織里(しょくり)という町の衣料品工場で働く、10代後半から20代の若い世代の労働と日常だ。

彼らの多くは農村部からやってきた出稼ぎ労働者。彼らのような若者も、実は長江デルタの経済を支えている一員であることを認める人はほとんどいない。世界は彼らに注目しない。しかし、ここには驚くほどにみずみずしい青春がある。本作は、自分がやるべき仕事は「世界から見えない人たちの生を記録すること」と語るワン・ビン監督の真骨頂にして、初の青春映画である。

アクション映画で、恋愛映画で、経済の映画で、そして何より青春映画

雑然とした作業場。猛烈なスピードでミシンをかける姿はアクション映画のようで、振り付けられたダンスのようだ。若い男女の恋愛をめぐる駆け引きはボーイ・ミーツ・ガール。あちこちで起こる言い争いは、暴力への沸点をはらむ。そして、5元をめぐる経営者とのささやかな攻防。これまでも、被写体との距離やフレーミング、すくいとる瞬間などに天才的な感覚を見せてきたワン・ビン監督ならではと言えるだろう。

この映画は約20分のエピソードを9つのセグメントで描いている。登場する彼らすべてがここで生きていることを圧倒的に肯定し、それぞれの登場人物を注意深く見つめる。ワン・ビンの視線は、やがて中国という巨大な国に生きる一つの世代全体の運命を浮かび上がらせてしまう――必見のドキュメンタリー体験である。

『青春』は2024年4月20日(金)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開、特集上映「ワン・ビン傑作選」同時開催

© ディスカバリー・ジャパン株式会社