最高経営責任者(CEO)が重視する経営実践の要諦とは【現役のCEOが解説】

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CEOが経営を実践する際の要諦は何でしょうか。本記事では『最高経営責任者(CEO)の経営観―夢・理想の未来を拓く実践的技術』(ダイヤモンド社)から、著者の株式会社TS&Co.創業者兼代表取締役グループCEO澤拓磨氏がその問いに回答します。

経営実践の要諦

ここでは、経営を「実践」する際に特に重要と考える7つの要諦より3つを挙げ紹介したい。

経営実践の要諦1 経営を行い継ぐ人=最高経営責任者(CEO)が経営を行い継ぐ

「経営を行い継ぐ人=最高経営責任者(CEO)が経営を行い継ぐ」。この点が筆頭となる経営実践の1つ目の要諦である。

CEOは、

◎「経営を行い継ぐ人」である

◎経営当事者の中で、未来への自由と責任を享受し経営上の重要な決断や行動管理などを担う唯一の「全原因を創造できる存在」である

◎従って、Chief Executive Officerであるとともに経営に関するあらゆるテーマ・課題に精通し目を配る〝Chief Everything Officer〟、〝総合格闘家〟、〝総合芸術家〟たる覚悟が必要

また、CEOは、

◎「結果を出し続けること」を役割とする

◎主要な仕事は経営の限界を決める「短・中・長期の未来像を描く、描いた未来像へステークホルダーを約束した結果に引き上げる行動、後継者を育成する」の3つに尽きる

と述べた。

「経営を行い継ぐ人」であるCEOが全身全霊で本書で述べた経営を行い継ぐこと、これが筆頭となる経営実践の要諦である。

その際に、最重要となるのが時間配分である。CEOは、主要な3つの仕事を中心に、ROIの観点から幹の仕事と枝葉の仕事をシンプルに整理し、自身の得意不得意も考慮したうえで、劣後順位・優先順位を決断し、有限で希少なCEOの時間を、CEOが行うべき仕事に差配していくことが求められる。

また、仕事以外の私生活における大切な家族・恋人・友人などとの時間も決して軽視してはならないことも申し添えておきたい。

経営実践の要諦2 愛と感謝を胸に経営を享受する

「愛と感謝を胸に経営を享受する」。この点が経営実践の2つ目の要諦である。

現在に生きるわれわれ世代は、先人が拓き築いてきた比較的治安のいい社会、物質的な豊かさ、優れた文化などを享受し生きている。自身の体や心にしても、ひそかに悲鳴を上げることがいくらでもあったと思うが、それでも音を上げずについてきてくれた。

当たり前に思える幸せな日常や未来への希望を抱けていることにおいても、育ててくれた両親、家族なくしては考えられない。未来を拓く強さだけでは限界があることも認識しておいていただきたい。

影響力(人を動かす力)について述べる。果たして人は強さだけに引かれて行動を起こすだろうか。強さだけでは、愛や感謝に引かれて行動を起こす人間に応援してもらうことは難しいだろう。

また、強さを形成する要素を一人の人間ですべて満たすことができるだろうか。どんな優れた人間でも時間的・能力的・社会的制約は免れず、一人の人間がすべてを満たすことは不可能であり、必ず助けが必要となるだろう。

一人で生きているつもりでも、社会はそのように形成されていない。缶コーヒーのCMに使われたキャッチコピーの通り、「世界は誰かの仕事でできている」のだから。

そして、強さを追い求め、強さを得た果てには、何を追い求めることになるだろうか。私の経験に照らせば、愛と感謝を胸に、大志・小志を問わず志を持ち、世のため人のために尽くすことに強さを使うことが、世界と自分との最適な関係性を育み、新たな経営機会とブレークスルーを生み続けることに気付いて、追い求めることになるだろう。

CEOもまた、経営を好きになり偏愛にも似たレベルで経営を愛し、ステークホルダーや世界全般のおかげで経営を行えていることへ感謝し、経営を享受することで大義名分が立ち、経営実践の大きな原動力を得ることとなる。

これは、功成り名を遂げた人物が、成功の秘訣をインタビューで問われると必ず述べることでもある。人が何かを実践する際の原動力となる絶対的な要素であり、あらゆる領域において不変の真理である。

この点について、バークシャー・ハサウェイのウォーレン・バフェットは述べている。

〝私は今でもタップダンスをしている気分で会社に行っている〟

まさに、我が意を得たりである。

以上述べた通り、愛と感謝を胸に経営を享受することが、経営を「実践」するうえで極めて重要となる。

経営実践の要諦3 変化に対応する

「変化に対応する」。この点が経営実践の3つ目の要諦である。

経営を実践する際には、どんなに優れたCEOであってもわれわれが生きる世界では、森羅万象の真理である万物流転、すなわち変化に対応し、刻一刻と変化する環境に応じて取るべき行動を最適化し、機知縦横の働きをしていくことを怠ることはできない。経営は変化対応業、環境依存業といわれるゆえんである。

従って、置かれている環境次第では、不易流行の精神を礎に、たとえこれまでに結果を導出し続けた経営の仕組み・習慣・環境であろうとも、抜本的に変えることもいとわず、変化していく必要がある。

この原理原則をファーストリテイリングの柳井正は、著書『一勝九敗』(新潮文庫)の中で「経営とは汲んでも尽きない目標と課題の井戸」と表現した。この原理原則を好み、楽しみながら、変化に対応していけないようでは、CEOとして不適格といえるだろう。

やり切ったと思った途端に新たな課題が生じたことに気付く、あるいは、一難去ってまた一難、それこそが経営である。

そして、不適格なCEOが経営している限り、経営は、時間の経過とともに劣化する生もの同様、腐敗していくばかりなのである。古代ギリシャから欧州ではこういう、「魚は頭から腐る」。つまり、腐り始めるのは決して尻尾からではない。経営も同様に、CEOから腐っていくのである。

経営が対峙する変化は多岐にわたり、能動的変化と受動的変化、連続的変化と非連続な変化、可逆な変化と不可逆な変化、長期的変化と短期的変化、大きな変化と小さな変化、ポジティブな変化とネガティブな変化、想定内の変化と想定外の変化など、さまざまであるが、変化対応力を高めることができれば、変化は味方となる。

企業経営の世界では、とかく変化は経営の敵と見なされるきらいがあるが、即感、即断即決、即行が習慣となった変化対応力の高いCEO・組織においては、変化は競合に差をつける機会となる。まさに今後のウィズコロナ・ポストコロナの時代においては、変化対応力の高いCEO・組織とそうでないCEO・組織との間で大きな差が生じるだろう。

例えば、能動的変化と受動的変化への対応方法について事例を述べたい。

まずは能動的変化への対応方法について。私はCEOとして、自らの本能、超意識、無意識の変化に対する対応方法として、思考のセルフパラダイムシフトを図り、転換点を創り続け、非連続な結果に引き上げることを常に意識している。

企業経営の世界では、転換点を創り続け非連続な結果に引き上げることができるのはCEOのみであることから、自らの本能、超意識、無意識の変化に対する対応力は非常に重要である。

ここで折れ線グラフをイメージしてほしい。「転換点」とは、線が折れ曲がっている時点のこと。ベクトルが切り替わる瞬間だ。ベクトルがマイナスに変われば流れが急降下し、プラスなら急上昇し、連続性は失われる。このベクトルがプラスに切り替わる瞬間を意図的に創り続け、非連続な結果へと引き上げる。

コンフォートゾーンやストレッチゾーンという言葉をお聞きになった人も多いだろう。

◎コンフォートゾーン……慣れ親しんだ居心地のいいゾーン

◎ストレッチゾーン……背伸びが求められるゾーン

◎パニックゾーン……全く勝手が分からず強烈なストレスや負荷にさらされるゾーン

誰しもコンフォートゾーンにいれば快適だが、何が起きてもそこから出ようとしないでいれば、進化が見られないどころか周囲の変化が激しければ相対的に退化することとなる。

しかし、ストレッチゾーンやときにはパニックゾーンに挑戦し意図的に転換点を創れば、その結果、一時的にマイナスの影響を被るかもしれないが、一気にプラスに転じられる可能性もある。

この挑戦なかりせば、常識を超えた非連続な結果が生まれることも、CEOの役割と醍醐味である未来への自由と責任を享受することも難しい。連続的な結果とは、今日を昨日の続きと考える、怠け者の態度の産物といっても過言ではない。

また、転換点を創り続け非連続な結果に引き上げるために、ゼロベースで経営を見つめ直すことも常に意識したい。転換点を創るうえで非常に重要なのは、聖域を許さず実践してきた経営のすべてを疑い、ゼロから抜本的に経営を見つめ直すことである。

そして、変えるべきこと・変えるべきでないことを解き明かし、変えるべきことは思い切って変えることで転換点が生まれる可能性がある。

次に受動的変化への対応方法について。私は自らのバイオリズムへの対応方法として、セルフマネジメント(自身のパワー(〈体心〉の管理)や時間等の使い方に基づく運を管理)を常に意識している。

人間は常にベストコンディションであることはなく、バイオリズムに左右されるのだ。従って、いいときもあれば悪いときもあると割り切り、バイオリズムを味方に付け、人間の持つパワーを管理する必要がある。バイオリズムに無頓着な例を往々にして見かけるが、もったいない限りである。

基本は、時間管理と適切な休養・栄養・運動で、これは、CEOでもスポーツ選手(個人事業主でありその意味では経営者)でも共通である。例えば、私は以下のような時間管理と休養・栄養・運動を採用している。必要に応じて参考にしていただきたい。

◎時間管理……投資時間7・8割、消費時間2・3割、浪費時間限りなくゼロ

◎休養……1日8時間睡眠を確保、遅くとも23時30分までに就寝

◎栄養……朝昼を中心に晩は軽め、バランスのよい食生活を心掛ける。炭水化物とタンパク質を中心に摂取し、脂質・糖質・塩分の摂り過ぎに注意する。酒は飲まない。タバコは吸わない。

◎運動……週3~4日、8~12㎞/回、最大心拍数の60~80パーセントの速度でランニング

以上の要諦をやり切った先に訪れるのは、人事を尽くして天命を待つといった境地である。奇跡のような僥倖にあずかることができるとすれば、その瞬間ではないだろうか。

澤 拓磨

株式会社TS&Co.創業者兼代表取締役グループCEO

経営変革プロフェッショナル

※本記事は『最高経営責任者(CEO)の経営観―夢・理想の未来を拓く実践的技術』(ダイヤモンド社)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。

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