早期退職でUターン…運転が好きなだけでは「運転代行」の仕事は長続きしない【65歳アルバイトの現実】

運転は好きだけど…

【65歳アルバイトの現実】#20

運転代行編

◇ ◇ ◇

東京を引き払って故郷でバイト生活を始める人がいる。61歳の日暮さん(仮名)もその一人だ。精密機器の会社で長年営業職として勤めてきたが、2年前に早期退職し、妻とともに北関東の実家にUターンした。

選んだバイトは運転代行業。居酒屋などにクルマで出かけて酒を飲んだ客の代わりに運転して家に送り届ける仕事だ。同僚の相棒とコンビを組み、日暮さんが客のクルマを運転し、相棒は軽自動車であとを追いかける。客を送り届けたら軽自動車に乗って戻る。客のクルマを運転する人を「前乗り」、追いかけるのを「後乗り」と呼ぶ。ナイトクラブやスナックから電話で呼ばれることが多い。

客が支払う料金は「初乗り」が2000円。これに1キロごとに200円が加算される。たとえば5キロの場合は3000円。その中から前乗りの人は45%の1350円、後乗りは30%の900円を歩合給として受け取る。残りが会社の取り分だ。

「クルマ好きの人にピッタリの仕事ですよ」と日暮さん。田舎町ながら客はさまざまなクルマを所有している。キャデラックやベンツ、BMWなどがごろごろ。納車されたばかりの新車の高級車を運転することもあり、カーマニアの日暮さんは感激にひたりつつハンドルを握る。

前乗りを担当するには自動車の二種免許が必要。日暮さんは教習所に3週間ほど通って資格を取得した。約30万円の教習費用は会社が立て替えてくれた。3年以上勤務したら返済の義務はなくなる。

「忙しいのは金、土、日の夜。ひっきりなしに予約が入るので一晩で確実に1万円以上稼げます。お客さんから『もう一軒飲みに行きたい。良い店を知らないか?』と聞かれたらお世話になっているスナックなどを紹介。店のママさんに感謝されます。お客さんは2軒目のスナックで飲んで帰宅するときに再度ボクを指名してくれます」

ときには「今日は娘の結婚式だった。うれしいのでチップをあげる」と1万円札を渡されることも。その場合は1万円の中から正規の料金を受け取り、釣り銭をチップとしてもらう。ほかに「釣りはいらないよ」という客もいるため、月に12回勤務した場合、チップは計2万円ほどになる。会社から支給される歩合給が平均で14万円のため月収16万円。家賃のいらない実家暮らしで、妻もパートで働いているため16万円で十分だそうだ。

■客の自慢話に辟易

「ただし嫌なこともあります」

一番困るのはペラペラと自慢話をする客。「へえ、すごいですね」と適当に合わせていると、「おまえ、ちゃんと聞いてるのか」と激高し、料金を払ったあともクルマから降りずに絡んでくることがある。

人間関係も面倒だ。後乗りの相棒と2人1組になり、軽自動車の中で仕事の連絡を待つ。相手がぶっきらぼうな性格や高圧的な態度の場合は狭い車内の雰囲気が地獄となり、それが嫌で辞めていく人もいる。

「運転好きなだけの人も長続きしません。タクシーみたいに一仕事を終えるたびに日報を書かなきゃならない。その作業が面倒なため『こんな仕事とは思わなかった』と2、3日で辞める人もいる。1週間もったら長続きする仕事です」

バイトとはいえ、それなりの覚悟が必要だ。

(林山翔平)

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