1ドル155円接近に政府・日銀は策ナシ 防衛費43兆円は突破確実で忍び寄る「円安増税」

防衛費「倍増」計画の予算43兆円は完全な見込み違い(岸田首相=代表撮影)

約34年ぶりの円安が一段と進んでいる。為替介入の新・防衛ラインとされる「1ドル=155円」間近だが、政府・日銀は打つ手ナシ。庶民生活に「円安大増税」が忍び寄る。理由は防衛費「倍増」計画の甘い見積もり。想定をはるかに超える円安により、5年で43兆円の巨額予算は破綻寸前だ。

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17日、円相場が1ドル=154円台後半まで一気に値を下げたのは、またしても米国要因だ。FRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長が日米金利差を縮める利下げに消極的な認識を示し、市場は円を猛烈に売り浴びせた。最近は6月実施と予想された米国の利下げ機運が後退するたび、円安が加速するの繰り返し。政府・日銀も、利下げ観測に振り回されっぱなしである。

「市場心理を左右する利下げ判断を米国が握る以上、政府・日銀にできることは口先介入くらいしかない。為替介入に動いても日米金利差が変わらなければ効果は薄い。日銀の植田総裁が『当面、緩和的な金融環境は続く』と約束した手前、日本が大幅に利上げして金利差を縮めるわけにもいかない。八方ふさがりです」(市場関係者)

実は岸田政権にとって、155円に迫る円安水準は完全な見込み違い。2022年12月、総額43兆円の防衛費を盛り込んだ「防衛力整備計画」を策定した際の想定為替レートはナント、1ドル=108円だった。

想定レートに従い、27年度までに購入する兵器や武器をリストアップ。必要経費を積み上げて43兆円と算出したが、当時から額面で47円、約44%も円安が進んでいる。計画通り米国からの爆買いやライセンス生産で高額兵器をそろえれば、43兆円を突破するのは確実。超過分はさらなる国民負担につながりかねない。

調達コストは爆騰

すでに円安や資材価格の高騰により、防衛省の調達コストは跳ね上がっている。今年度予算によると、大型輸送ヘリ「CH47」の単価は陸自の使用機種で1機175.5億円、空自機種で196.4億円だ。19年の「中期防衛力整備計画」(中期防)で見積もった平均単価は76億円で、それぞれ約2.3倍、約2.6倍も増えている。

最新鋭ステルス戦闘機「F35A」の単価は、中期防の116億円から今年度予算は140億円に。政府が防衛力強化に不可欠とする「イージス・システム搭載艦」の建造費は、2隻で約7840億円。20年に想定した4800億円超から1.6倍、3000億円も増加しているのだ。

防衛省は今年度予算を1ドル=137円の想定で編成しており、実際の調達額はさらに膨らむ恐れがある。円安が進むほど、防衛費43兆円の枠に収まらず、増税リスクは高まっていく。

「43兆円は米国の要求通り『GDP比2%』の規模ありき。為替レートの変動など意識せず、数字合わせで作成したものです。兵器調達は米国頼み。円安が続けば兵器ローンの後払いやメンテナンス代も膨らみます。超過を逃れるには米国に頭を下げ、兵器の購入量を減らすしかないのですが、今の日米関係では到底、不可能です」(軍事評論家・前田哲男氏)

政府は防衛費増額の財源として法人税・たばこ税・所得税を増税し、1兆円強を賄う方針だが、開始時期の決定は2度も先送り。まだ財源は確保できていないのに、防衛省の有識者会議や自民党の国防部会からは円安を意識して「43兆円の枠を見直せ」との声が上がる。円安増税は避けられそうにない。

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