【週末映画コラム】気持ちのいい人情喜劇『あまろっく』/山田太一の小説をイギリス人監督が映画化『異人たち』

『あまろっく』(4月19日公開)

(C)2024 映画「あまろっく」製作委員会

理不尽なリストラに遭い尼崎の実家に戻ってきた39歳の近松優子(江口のりこ)は、定職に就くことなくニートのような毎日を送っていた。

ある日、「人生に起こることはなんでも楽しまな」が信条の能天気な父・竜太郎(笑福亭鶴瓶)が、再婚相手として20歳の早希(中条あやみ)を連れてくる。

平凡な家族だんらんを夢見る早希と、自分よりも年下の義母の登場に戸惑い反発する優子。ちぐはぐな2人の共同生活は全くかみ合わなかったが、ある悲劇が近松家を襲ったことをきっかけに、優子は家族の本当の姿に気付いていく。

通称「尼ロック」と呼ばれる「尼崎閘門(こうもん)」によって水害から守られている兵庫県尼崎市を舞台に、年齢も価値観もバラバラな家族が、さまざまな困難に立ち向かう中で次第に一つになっていく姿を描いた人情喜劇。監督は中村和宏。本作もまた、最近よく見られる特定の地方を舞台にした映画のカテゴリーに入る。

あり得ない設定に最初は戸惑うが、不思議なことに、だんだんと早希(中条)と優子(江口)の関係性に違和感がなくなってくる。これは2人の好演によるものだが、全てが笑いに転化されるような関西弁の効用もある。

大阪出身の中条もインタビューに答えて、「関西弁って、怖い言葉にも聞こえるかもしれませんが、優しさもあって。『何でやねん』『知らんがな』とか、そこで終わるんじゃなくて、あまり会話がかみ合っていなくても、『何でやねん』って言葉だけでツッコミになったりして。しらっとした空気がなくなるじゃないですか。最近は東京でも『知らんけど』とか使いますよね。だから関西弁は相づちにぴったりな言語だなと思います」と語っている。

そして、ぐうたらに見える竜太郎(若き日は松尾諭)が、実は「尼ロック」の役割を果たしていたのをはじめ、監督が全ての登場人物たちに愛着を持っている様子がうかがえ、多少の甘さは感じるものの、全体的には気持ちのいい人情喜劇として見ることができる。

『異人たち』(4月19日公開)

(C)2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.

12歳の時に両親を交通事故で亡くし、孤独な人生を歩んできた40歳の脚本家アダム(アンドリュー・スコット)は、ロンドンのタワーマンションに住み、両親の思い出を基にした脚本の執筆に取り組んでいた。

ある日、幼少期を過ごした郊外の家を訪れると、そこには30年前に他界した父母(ジェイミー・ベル、クレア・フォイ)が当時のままの姿で暮らしていた。

それ以来、アダムは足しげく実家に通っては両親のもとで安らぎの時を過ごし、心が解きほぐされていく。そんな中、アダムは同じマンションに住む謎めいた青年ハリー(ポール・メスカル)と恋に落ちる。

脚本家・山田太一の長編小説『異人たちとの夏』を、『さざなみ』(15)『荒野にて』(17)のイギリス人監督アンドリュー・ヘイが映画化。日本でも大林宣彦監督が映画化(88)した喪失と癒やしの物語を、現代イギリスに舞台を移して描いた。

盆を背景にした日本的な原作小説をどのように換骨奪胎したのかに興味が湧いた。ヘイ監督は自身の体験や心情を入れ込みながら、主人公を同性愛者とし、日本とは違う両親との関係性や主人公が抱える心の傷を描くなど、繊細なタッチの中で現代性や独自性を出してはいるが、いささか個人的な感情を反映させ過ぎた感がある。

この場合、市川森一が脚色した大林監督の映画の方が原作の良さを生かしていると感じた。

(田中雄二)

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