半導体の抑止「シリコンの盾」がなくなる日 台湾有事を覚悟するべきなのか(中西文行)

TSMCは米国から助成(建設中のTSMC米フェニックス工場)/(C)共同通信社

岸田文雄首相は、日米首脳会談で「中国包囲網」とも思える日米関係を一段と強固にした。また、日韓首脳は北朝鮮も警戒し、米国との軍事関係を一段と緊密化、4月11日から12日まで日本の海上自衛隊と米海軍、韓国海軍の共同訓練が韓国・済州島の南方海域で行われた。

親米の台湾は、このような演習には加わらない。今後も日米韓軍事演習に台湾が加わることはないし、米国が参加を促すこともないだろう。台湾は国家ではなく中国の一部と見ているからだ。

中華人民共和国を「中国」の唯一の代表と認めるアルバニア決議(アルバニアなど23カ国が共同で国連事務局に提出)が1971年10月25日に国連総会で採択され、抗議した中華民国(通称台湾)は国連から脱退。中華人民共和国が「中国」を代表する国家となった。

日本は72年の日中共同声明により中華人民共和国政府を「中国の唯一の合法政府」と承認して国交を樹立し、中華民国政府(台湾当局)との国交を断絶した。

ただ、国交断絶後も民間の実務関係を維持するため、日台相互に非政府組織の連絡機関(日本は日本台湾交流協会、台湾は台湾日本関係協会)をそれぞれ設置して現在に至っている。

1月の台湾総統選挙で、中国が「台湾独立勢力」と非難する民進党の頼清徳が当選したが、立法委員選挙では民進党は過半数を割り、国民党に次ぐ第2党に転落した。

米国の恐れる中台統一。中国では「台湾総統選挙」を「台湾地区での選挙」と報道していた。香港の独立運動は消滅し、社会も沈静化である。これは米国には想定外と思われ、習政権のもと2030年までに起こりうる中台統一に対処。軍事産業の要の半導体製造、その世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)を66億ドルの巨額補助金を交付し米国に誘致した。

台湾は安全保障上の観点から半導体生産を重視してきた。台湾有事の際に半導体の供給網が混乱することを中国や国際社会に認識させて抑止力とする戦略は「シリコンの盾」と呼ばれているが、TSMCの米国誘致で、この盾がなくなる。

先端半導体(回路線幅10ナノメートル未満)の生産は、世界全体の92%が台湾に集中している。TSMCは半導体の受託生産で世界シェア56%を握っており、米政権は30年までに世界の先端半導体の2割を国内で生産する目標を掲げている。

韓国では19年以来となる日中韓首脳会談の5月開催に向けて調整が進められているというが、岸田政権はどう中国に対応するだろうか。

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