女性の半数以上が「非正規」の地獄…なぜ日本はこんなに貧しくなったのか「人を使い捨てる日本社会」男女200万人超が”不本意”

働く女性の半分以上がパートや契約社員、派遣社員などの「非正規雇用」だ。女性の就業者は3000万人を突破したが、非正規雇用は男性の約652万人(21.8%)に比べて女性は約1413万人(53.6%)とあまりに多い。社会や家族の姿が変化し、価値観が多様化する中、なぜ女性の「非正規」は多いのか。経済アナリストの佐藤健太氏は「『男性は仕事、女性は家事・育児』という昭和の価値観から脱却しなければ、女性の負担が重く、損をする時代は変えられない」と指摘する。

女性の就業率は上昇しているが、特に「35~44歳以上」で非正規雇用割合が高い

総務省の「労働力調査」(2023年)によると、わが国の就業者は男性3696万人、女性は3051万人で、女性は前年に比べ27万人増加した。15~64歳の就業率は男性が84.3%、女性は73.3%となっている。ただ、「正規の職員・従業員」は男性が2346万人であるのに対し、女性は1268万人と少ない。女性の就業率は上昇しているものの、特に「35~44歳以上」で非正規雇用割合が高いことがわかる。

高水準の背景には「雇う側のメリット」と「家庭の事情」の2点があげられる。人手不足を解消する際、企業にとっては人件費が安く、離職を促しやすい「非正規」の方が都合は良い。繁忙期や閑散期に柔軟に対応できる「調整弁」になる上、福利厚生も正規雇用と比べて限定的である点がメリットとなる。

この点だけを考えると、たしかに「使い捨てのように人を扱う企業はひどい」と感じるだろう。ただ、非正規雇用で働く人の中には「家庭の事情」で自ら選択する人がいるのは事実だ。夫や子供がいる女性は就業調整や家事・育児の時間確保を理由に「非正規」を選ぶ人の割合は高い。

不本意非正規雇用労働者は男性105万人、女性109万人

連合が2022年3月に公表した「非正規雇用で働く女性に関する調査」によれば、対象となった非正規雇用の20~59歳の女性のうち、「パートタイマー」は60.0%、「アルバイト」は17.4%、「派遣社員」は11.5%、「有期契約社員・嘱託社員」は8.9%などだった。「非正規」を選んだ理由を聞くと、「ある程度労働時間・労働日を選べるから」が39.0%で最も多く、次いで「通勤時間が短いから」(24.5%)、「家事に時間が必要だから」(20.4%)、「正社員の働き方は過酷だから」(15.9%)、「育児や介護に時間が必要だから」(14.8%)と続いている。

労働時間や労働日の選択に加え、「家庭の事情」も考慮しながら働いていることがわかる。「家事に時間が必要だから」「育児や介護に時間が必要だから」は配偶者や子供がいる人の方が高く、年収や労働時間による「就業調整をしたいから」も夫がいる女性の方が多かった。時間的なゆとりが「ない」とした人は38.0%だが、子供のいる女性は44.9%、シングルマザーでは55.1%に達している。

たしかに女性の就業率は上昇してきているものの、週間就業時間が「49時間以上」「60時間以上」の割合は働き盛りの30代後半から50代前半に低くなる。そこには子育て期などと重なり、「時間の融通がきく」という働く側の希望があるのは間違いない。「非正規」として仕事する理由に「正規の職員・従業員の仕事がないから」をあげる不本意非正規雇用労働者は男性105万人、女性109万人に上るが、その割合は男性が「45~54歳」「(配偶者と)死別・離別」が最も高いのに対して、女性は「15~24歳」「未婚」が高い。女性の正規雇用比率を年齢階級別に見ると、25~29歳の約6割をピークに低下しているのがわかる。

年収や労働時間による「就業調整」も非正規が多い理由

年収や労働時間による「就業調整」も非正規が多い理由の1つだ。夫婦どちらかの扶養に入りながらパートなどで働くケースは、年収によって税金や保険料の負担額が異なる。一定の年収を超えると税金や保険料の負担が発生する「年収の壁」が存在する。実際の手取りが減少するため、働く時間を調整して一定の年収を超えないようにするケースが発生してきたのだ。

先の連合による調査でも個人年収が「100 万円未満」という人は31.1%で最も多かった。配偶者がいる非正規雇用の女性は所得が「50~99万円」の人の6割弱、「100~149万円」の5割超が就業調整している。

政府は「働き控え」を少しでも解消するため2023年9月に「年収の壁・支援強化パッケージ」を発表した。働く時間を減らすことを防ぐために賃上げや手当支給などの取り組みを実施した企業には労働者1人あたり最大50万円を支援。年収130万円以上となっても、事業主の証明を添付することで引き続き被扶養者認定を受けられる時限措置や企業の配偶者手当の見直し促進なども盛り込まれた。

長く働いても所得が上がらず、不安定な待遇や働き方に悩む

だが、「非正規」は賃金や待遇の面でマイナスがあることは忘れてはならない。平均年収は「正社員」が約508万円であるのに対し、「それ以外」は約198万円で300万円の差がある。働く時間が短ければ所得が少なくなるのは当然だが、そもそもの賃金設定など労働条件が正社員よりも悪い点は否めない。

加えて、雇用保険や健康保険などの制度適用率が低いことも気がかりだ。厚生労働省の「就業形態の多様化に関する総合実態調査」(2019年)を見ると、正社員は「雇用保険」(92.7%)、「賞与支給制度」(86.8%)、「福利厚生施設等の利用」(55.8%)が適用されている。だが、「それ以外」では「雇用保険」(71.2%)、「健康保険」(62.7%)、「厚生年金」(58.1%)、「賞与支給制度」(35.6%)、「福利厚生施設等の利用」(25.3%)と差がはっきりしている。

長く働いても所得が上がらず、不安定な待遇や働き方に悩む人は少なくない。だが、かといって正社員登用を希望すれば給与が増えたとしても、家事や育児の問題、転勤などに頭を抱えることもあり得る。税金や保険料といった「年収の壁」だけではなく、非正規雇用の割合が高い理由はそれぞれに存在している。

長々と続いてきた「昭和の価値観」

連合の調査で興味深いのは、今後希望する働き方として「有期契約・嘱託社員」の44.9%、「派遣社員」の38.3%が正規雇用を志向する一方で、「パート」では39.2%が非正規雇用を志向している点だ。「非正規雇用のまま、現在の勤め先で働きつづけたい」は年齢が上がるほど高く、50代では40.0%に上っている。収入を増やしたい人は8割近くに達するものの、「自分のやり方・ペースで仕事がしたい」という人も約78%存在しているのだ。

政府は女性活躍推進をうたい、働き控え解消に向けた施策を展開している。だが、いまだ「非正規」の女性が多い背景には、長々と続いてきた「昭和の価値観」があることを忘れてはならないだろう。「男性は仕事」「女性は家事・育児」というモデルは、共働き世帯が6割超となった令和時代にはそぐわない。共働きであっても家事関連時間の8割近くを妻が担っている状況は、不適切にもほどがあるだろう。長時間労働なども是正されなければ、国がいくら笛を吹いても女性の活躍は壁にぶち当たる。連合の調査でも半数近い人が「女性だけに働くことと家事・育児の両立を求める風潮に疑問を感じる」と回答している。

政府は少子化対策や女性活躍推進をうたうならば…

家事・育児の分担については、年代の低い男性の方が「自分が率先してやるべきことである」と感じている人が多い。それは1つの光明と言えるが、非正規雇用の女性が結婚や出産の意欲が低下している点は気がかりだ。政府は少子化対策や女性活躍推進をうたうならば、非正規の待遇改善とともに、令和時代にふさわしい取り組みを早急に推し進める必要がある。

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