熊本地震の災害援護資金、3割が滞納 被災者の生活困窮、再建進まず

 熊本地震の被災者に生活再建目的で県内16市町村が貸し付けた災害援護資金について、返済が滞っている人が約3割に上ることが17日、熊本日日新聞の取材で分かった。滞納は241人の計1億2449万円。被災者の困窮が主な要因で、生活再建も進まない現状が浮かび上がった。

 災害援護資金は国や熊本県、熊本市が原資を負担。震災で家が壊れたり世帯主が負傷したりした一定の所得未満の世帯に、最大350万円を貸し付ける制度。当初3年間は返済が猶予されるが、原則10年で返さなければならない。熊本地震の場合、早い人は2026年に完済期限を迎える。

 貸し付けと回収の窓口となっている県内16市町村に今年2月末時点の状況を聞いた結果、723人に総額12億8651万円を貸し付けていた。276人が返済を終え、額は利息を含めて計5億5407万円。貸付残高は計4億487万円となっている。

 自治体別では、熊本市の貸し付けが554人計9億4256万円で最多。次いで益城町の80人計1億9150万円、御船町の23人計3940万円だった。

 滞納者がいるのは10自治体で、熊本市が224人計1億1040万円で最も多かった。益城町が8人計592万円、御船町が2人計150万円の順。阿蘇市、宇城市、八代市、大津町、菊陽町、嘉島町、西原村は1人ずつで、25万~154万円だった。

 滞納者に対し、自治体側から訴訟を起こしたケースはなかった。自己破産した熊本市の1人に対しては98万円を免除した。

 熊本市では、189人が利息込みで計3億6775万円を完済。益城町で45人が計1億1312万円、御船町で14人が計2408万円の順だった。

 熊本市健康福祉政策課は「条例を改正して年ごとや半年ごとの償還に月賦償還を加えたり、運用を見直して滞納分を分納で返済できるようにしたり、借受人の負担を減らす工夫をしている。償還期限の10年までまだ時間があるので、滞納者と話し合いを続けて完済できるようにしたい」としている。(後藤幸樹)

 ◆災害援護資金 災害弔慰金支給法に基づき、世帯主が1カ月以上負傷した世帯や家屋の全半壊世帯などに最大350万円を低利で貸し付ける制度。原資は国が3分の2、残りを都道府県や政令市が負担し、貸し出しの窓口となる市町村が回収する。

 

高齢、低所得、コロナ影響…滞納者への対応難しく

 熊本地震の被災者に県内16市町村が貸し付けた災害援護資金で、約3割の人の返済が滞っていた。市町村によると、滞納者は高齢者や低所得者が多く、窓口となる市町村は「相手は生活に苦しんでおり、返済を求める時は気を遣う」と対応の難しさに頭を抱える。

 滞納の理由として、各自治体は「借り受けの半数以上が65歳以上で、所得も低い」(熊本市)や「新型コロナウイルスの影響による収入減」(益城町)、「生活困窮」(大津町)を挙げる。返済意思の低下を指摘する自治体もあった。

 内閣府によると、市町村は滞納分を回収できない場合、自前の財源から肩代わりして返還する必要がある。東日本大震災では岩手、宮城、福島3県で約9千人が約63億円を滞納(昨年末時点)。7市町が返済を求める訴訟を計227件起こしている。

 阪神・淡路大震災でも滞納が相次ぎ、最終的に自治体が債権放棄し、借受人の返済を免除した例もある。

 熊本県内の自治体の担当者は「面談で粘り強く返済をお願いする」「生活困窮者には慎重な対応が必要」と滞納者に寄り添う姿勢が目立った。一方で「きちんと返済している方との公平性を保たないといけない」との意見もあった。

 被災者支援制度に詳しい熊本大法学部の濵田絵美准教授(民法)は「生活に苦しむ被災者の再建を目的とした制度で、ある程度の滞納者がいることは想定できる」と指摘。ただ、原資は税金であることを踏まえ、各市町村に着実な返済に向けた取り組みを求めると同時に「国は貸し付けから給付型への制度変更など支援拡充を検討すべきだ」と提言する。(後藤幸樹)

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