いまや「定年後も働く」がスタンダードなスタイル。高齢者にはどんどん働いてもらって、人手不足を解消しよう! という国の目論見も見え隠れしています。しかしそこで問題になるのが年金制度。どうも納得できないことが多いようです。みていきましょう。
遺族年金受給者世帯の苦しい家計事情
万が一のときの社会保障である「遺族年金」。国民年金に由来する「遺族基礎年金」と厚生年金に由来する「遺族厚生年金」があり、どの遺族年金を受け取れるかは、亡くなった人の職業などにより異なります。また遺族年金を受け取れる範囲も、年金の種類によって異なります。
遺族年金を受け取っているということは、生活を支えるパートナーを亡くしたということ。それゆえに、受給者はどのような生活を送っているのか気になります。厚生労働省『年金制度基礎調査(遺族年金受給者実態調査)令和3年』で確認していきましょう。
まず、受給者の年齢と受給額についてみていくと、たとえば、子育て世代のサラリーマンの夫を亡くした妻(基礎年金+厚生年金を受給)の場合、手にできる遺族年金は平均158万円。月に13.2万円ほどです。
また受給者の就業状況をみていくと、夫よりも妻のほうが「働いていない」ケースが多い傾向にあり、遺族年金を受給する子育て世帯の妻の場合をみていくと17%ほど。また子育て世帯の妻について、働いている場合の雇用形態をみていくと、「パート、契約・嘱託等の非正規社員」で49.9%に対して、「正社員」は37.5%。
【遺族年金受給者の平均像】
■年齢
遺族基礎年金…夫47.0歳、妻46.0歳
遺族厚生年金…夫62.0歳、妻58.5歳
基礎年金+厚生年金…夫59.8歳、妻46.5歳
■受給額
遺族基礎年金…夫111.7万円、妻110.6万円
遺族厚生年金…夫17.3万円、妻109.6万円
基礎年金+厚生年金…夫120.7万円、妻158.0万円
■就業状況
遺族基礎年金…夫95.9%、妻87.6%
遺族厚生年金*…夫87.3%、妻66.0%
基礎年金+厚生年金…夫89.6%、妻83.2%
*夫:基礎年金歴なし、妻:基礎年金歴なし、中高齢寡婦加算あり
さらに遺族年金を受給する子育て世帯の妻について、仕事による収入をみていくと、非正規社員が多いこともあり8割が年収300万円未満。また年齢別に仕事による収入をみていくと、60代前半を除き、全世代で「100万~150万円未満」が最も多く、遺族年金受給&子育て世帯の厳しい状況を垣間見ることができます(図表)。
【遺族年金を受給する子育て世帯妻の勤労収入】
100万円未満…23.6%
100万~200万円未満…32.9%
200万~300万円未満…21.9%
300万~500万円未満…14.4%
500万~850万円未満…5.8%
850万円以上…0.5%
【図表】年齢別「受給者の仕事での収入」 ※遺族基礎年金、遺族厚生年金の双方を受け取る妻の場合
夫急死で「遺族年金の請求」を行ったが…まさかの「手続き保留」
――それまで家計を支えていた人に先立たれる
号泣の子育て中の妻。準備をする時間があればまだ何とかなりますが、急な出来事であれば、「どうやって、この子を育てていこう……」と、途方に暮れることでしょう。そんな遺族にとって、十分な額ではないにしろ、支えになるものです。
しかし「遺族年金の請求をしたからといって安心はできない」と経験談を語るのは小学低学年の男子と親子二人暮らしだという38歳の女性。昨年、5つ上の夫を急に亡くしたといいます。亡くなった夫は月収38万円ほどで、計算すると「月14万円」の遺族年金(基礎年金、厚生年金の合計)が受け取れることが分かったといいます。
年金事務所で遺族年金の請求手続きを済ませ、あとは実際に年金が振り込まれるのを待つのみ……しかし、その後、年金事務所から「手続きは保留」と電話が……つまり「遺族年金は払えない」という事態に、「えっ、何かの間違いではないですか?」と、驚きの声を挙げてしまったといいます。
実は亡くなった夫とは正式に籍はいれておらず事実婚。遺族年金は、内縁関係だったり、別居していたりしていても、生計同一関係を証明できれば受給されます。女性の場合、その証明書類が足りず、手続きが保留になっている……ということだったといいます。
このような場合、「ほかに資料はない」というと、生計同一関係が認められず、遺族年金を受け取れない可能性があります。たいてい、年金事務所から「こんな資料はないですか?」とリクエストがくるので、それにあった資料を提出すればOK。無事、手続きは完了し、遺族年金を受け取ることができるようになります。女性の場合も、追加資料を提出し、少々遅くなったものの、遺族年金の支給は始まったといいます。
遺族年金において、請求の肝となる「生計同一関係」。事実婚の場合、健康保険等の被扶養者になっているなら「健康保険被保険者証等の写し」、給与計算上、扶養⼿当等の対象になって いるなら「給与簿または賃⾦台帳等の写し」など、ケースによって求められる証明書類があり、それに合わせて手続きを行います。一度、不可となると、その決定を覆すのは至難の業。事前相談をするなど、万全な状態で手続きに望みたいものです。
[参考資料]