「先生もがんでした」 児童に闘病経験を明かす校長、主治医とともに「がん教育」 広島市

「がんだけでなく、いろんな病気の人が周りにいることを知って」と児童に話す久保田校長

 2人に1人ががんになる時代。家族や自分が患者になり得る身近な病気といえる。近年は早期発見や治療で完治できるものもあり、小中高でもがんに対する理解を深める「がん教育」が必修になっている。誰もががんのことを当たり前に話せて、支え合えるように―。広島市東区の早稲田小では、がん経験者の久保田聖子校長(59)と主治医が児童に語りかける。

 「先生もがんでした」。子どもたちから「えーっ」と驚きの声が上がった。2月下旬、早稲田小で6年生約50人を前に久保田校長は、自分自身の闘病経験を語り始めた。

 ステージ3の大腸がんが判明したのは2020年10月。リンパ節に転移していた。「助からないかも」と思うと周囲にがんのことを伝えられなかった。

 以前から血便など体の異変を感じていた。人間ドックで精密検査の必要性を指摘されても先延ばしにしていたことを後悔した。家族から説得されて受診した後はすぐに手術となり、抗がん剤治療が始まった。体はしんどいし、不安も募った。

 「教師の仕事を辞めないといけないかな」。そんな時、主治医で広島記念病院(中区)の矢野雷太医師(46)の「今、がんは働きながら治すのがスタンダードなんですよ」という言葉に勇気付けられた。それから自身もがんを学んだ。主治医ともよく話し、納得できる治療ができたという。

 手術から1カ月後、職場に戻ると、心の支えになったのは、学校の子どもたちや教員仲間の普段と変わらない穏やかな会話だった。みんなが「先生おかえり」と迎えてくれて「無理したら駄目ですよ」と声をかけ続けてくれた。

 子どもたちを前に、矢野医師も「家族や友人が話を聞いてくれたり、その人の普段を知っている人が何げない会話をしてくれることが心の支えになる」と伝えていた。

 久保田校長は23年から、矢野医師にお願いして一緒にがん教育に取り組んでいる。この日の授業でも、矢野医師が早期発見で治療の効果が高まることなどを説明。「誰でもがんになる可能性がある。でもそれは誰のせいでもない。みんなががんについて知っておくことが必要です」と強調した。

 児童は「早めに見つけることで治せる病気と分かって安心した」「家族にも伝えたい」と話していた。

 文部科学省が学習指導要領に明記した「がん教育」は20年度から小学校、21年度から中学校、22年度からは高校で全面的に始まった。ただ、その内容は幅広く、治療や予防など専門的な知識も必要なため、医師やがん経験者たち外部講師の協力は欠かせない。

 しかし国の調査では、外部講師を活用した授業は全国でも小中高合わせて1割程度にとどまっているのが現状だ。中国地方でも22年度は広島13・6%▽山口10・5%▽島根12・8%▽鳥取16・5%▽岡山6・3%と低調ぶりは否めない。

 久保田校長は「子どもにとって身近な自分自身が体験を話すことで、がんを自分や家族のこととして捉えてほしい」と話している。

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