陸自射撃場の屋内化方針 佐世保・江上地区 「移転遠のく…」戸惑う地元 市が今夏、国に初要望

佐世保市が国に屋内化を要望する早岐射撃場。地元の江上地区は移転を求めている=佐世保市有福町

 長崎県佐世保市は今夏、同市有福町の陸上自衛隊早岐射撃場の屋内化を国に求める。市が同射撃場の騒音対策で政府要望に盛り込むのは初めて。屋内化で騒音の軽減は期待されるが、地元の江上地区が求めてきたのは射撃場そのものの移転。地元の願いと異なる市の方針に「実現が遠のくのではないか」と戸惑いの声が漏れる。
□戦争のよう
 「バン、バン、バン、バン、バン」。4月中旬、射撃場から直線距離で約400メートルしか離れていない民家。のどかな場所に似つかわしくない射撃音が響き、緊張感が漂う。近くに住む女性(68)は「テレビで見るウクライナの戦争のよう」。射撃は訓練日の午前8時ごろから午後5時ごろまで断続的に続き、窓も開けられないほどだという。
 「移転が絶対」。江上地区自治協議会の栗山一彦会長(83)は長年の騒音被害を理由に訴える。屋内化の動きに「移転が決まるまでの暫定的な措置であるべきだ」と指摘する。2023年6月、自衛官候補生だった男が岐阜市の射撃場で起こした死傷事件も移転要望に拍車をかけた。
□苦渋の決断
 射撃場移転は、佐世保弾薬補給所(前畑弾薬庫)を針尾島弾薬集積所に移転する計画に「苦渋の決断」で同意した交換条件だった。それから既に17年。これまで市議会の一般質問で騒音問題をたびたび指摘してきた古家勉市議は「市が求める前畑弾薬庫の返還を実現するために地元が了承した気持ちを理解してほしい」。地元にとって屋内化は、交換条件の約束を反故(ほご)にする行為にも映る。
 水陸機動団の創設以降、訓練はより実戦的となり、射撃場周辺は以前に比べて連射音が響くことが多くなった。市によると、連射時は騒音レベルを上回る75~80デシベルを観測。地下鉄の車内やパチンコ屋の店内に相当し、かなり大きな声を出さなければ会話が成立しないレベルとされる。
 訓練日数は23年度までの5年間平均で約165日。多い年では231日に上った。今後、大村市の陸自竹松駐屯地に新たに配備された水陸機動団の連隊が使うことも想定され、回数はさらに増える可能性がある。
□喫緊の課題
 「騒音の解消が喫緊の課題」。佐世保市基地政策局の担当者は地元の要望を認識しつつ、屋内化を求める理由を説明する。敷地面積約77ヘクタールある早岐射撃場の代替地を見つけるのは時間がかかるとして「屋内化が一番防音効果がある」と話す。
 ただ、地元は市から屋内化を求める方針を聞いておらず、移転の旗印を下げるつもりはない。屋内型に整備した鳥取県米子市の射撃場は約13億円費やしており、早岐射撃場近くに住む男性(74)は「国は多額のお金を使って整備した後に移転させるつもりはあるのか。屋内型にして終わりにならないか」と疑念を抱く。
 宮島大典市長は定例会見で、屋内型にした後の移転の可能性について「周辺住民の反応がどうなのかしっかりと検証する必要がある」と述べるにとどめる。市の要望は8月ごろ。防衛省がどう回答するのか注目される。

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