高齢の父親を世話する妹が次第に暴走し始め…周囲を困惑させた「身勝手な言動の数々」

清水峻祐さん(仮名)は都内の病院に勤務する医師です。同じく勤務医の妻と高校生の長男の3人暮らしですが、内科副部長を務めていることもあり、週末も学会やセミナーなどの予定がぎっしり入っていて「自宅にはほとんど寝に帰るだけ」という生活が続いています。

実家も都内にありますが、5年前に母親が亡くなると残された父親の衰えが目立つようになり、気になっていました。忙しい清水さんに代わって、そんな父親の面倒を一生懸命見てくれたのが5歳下の妹のなつみさんでした。

最初はなつみさんに感謝していた清水さんですが、やがてなつみさんは父親の介護に関して自分勝手な行動で周囲を振り回すようになります。挙げ句の果てには、父親の死後、なつみさんが預かっていたという遺言をめぐってとんでもない事実が発覚したのです。

「うちの兄妹は決して仲が悪いわけではないし、こんなふうになるとは考えたこともなかった」という清水さんに、騒動の顚末(てんまつ)を聞きました。

〈清水峻祐さんプロフィール〉

東京都在住

47歳
男性
勤務医
医師の妻と高校生の長男の3人暮らし
金融資産4000万円

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兄妹の仕事の状況から、介護は妹に任せきりに

父が亡くなったのは3カ月ほど前のことです。75歳でした。父は大学の教員でしたが、5年前に母が亡くなった頃から急速に身体機能の低下が進み、晩年は公的介護保険の要介護認定を受けていました。そんな父の介護を担ってくれたのが5歳下の妹のなつみでした。

本来なら私ももっと父の介護にタッチすべきだったのですが、夫婦とも地域病院の勤務医でコロナ禍以降ほとんど休みらしい休みもなく、父のことはほとんど妹に任せきりになっていました。妹はフリーランスの翻訳者で時間の都合がきいたこともあり、自分でもジェントロジー(加齢学)について勉強し、父の介護方針や施設選びなどに積極的に関与してくれました。私や妻も最初のうちは、そんな妹に対して申し訳ないけれどありがたいという気持ちだったのです。

次第に暴走し始める妹

「最初のうちは」と前置きしたのは、次第に妹の暴走が目立つようになったからです。

父は3年前から老人ホームに入居していました。私も見舞いに行きましたが、実家に近く、衛生環境も配慮され、また、スタッフも介護の仕事に前向きに頑張っておられる方ばかりで、父はいいホームに入れて良かったなと思っていました。

ところが、里心がついた父が妹に「家に帰りたい。家で死にたい」と洩らしたとかで、それを真に受けた妹が2年前に突然、「お父さんを家に連れて帰る。私が面倒を見る」と言い出したのです。

さすがにそれは無理だろうと、私も、父の担当のケアマネジャーさんも散々止めたのですが、妹は「父の意思だから」と半ば力ずくで父をホームから自宅に連れ帰りました。そして、義弟(妹の夫)を自分の家に残して、空き家になっていた自宅で父と暮らし始めたのです。

当然ですが、介護のプロでもない妹が要介護の父を24時間見ることなどできるはずもありません。案の定、10日もたたないうちに「全く仕事ができない」と音を上げました。

だからといって前のホームにすぐに戻れるはずもなく、ケアマネさんが新しい介護施設を探し直してくれることになりました。

ケアマネさんから私に直接連絡があったのは、それから3週間ほど後のことでした。

「なつみさんにお父さまの入居先の候補を何件かお送りしたのですが、『費用が高過ぎる』、『私の自宅から遠過ぎてとても通えない』という理由で、なかなかOKをいただけないんです。今はショートステイやデイサービス、訪問介護などで何とかつないでいますが、お父さまもスタッフがくるくる変わってとまどっていらっしゃいます。お父さまのためにも、早めに入居施設をお決めになった方がよろしいかと思います」

ようやく父の施設が見つかったものの……

妹に状況を確認すると、「あのケアマネさんはひどい。ご都合主義で全然父のことを考えてくれない」と逆にケアマネさんへの苦情をまくしたて、私にケアマネさんの交代を迫りました。私からその話を聞いたケアマネさんは、「お父さまの状態を考えると一刻を争います」と自ら身を引き、今度は新しいケアマネさんが施設探しをしてくれることになりました。

新しいケアマネさんと妹の間にもいろいろあったようですが、半月後には何とかオープン直前で欠員の出た老人ホームに父を入居させることができました。さすがに私も心配で無理に休みを取って父の顔を見に行きましたが、ホームでの父はニコニコしていて幸せそうでした。

大手企業が新規参入を視野に戦略的に作ったホームらしく、環境やスタッフの質も悪くなかったのですが、妹はまた「スタッフが挨拶しない」、「食事のレベルが低い」とケチをつけ始めました。

そして、私が「100点満点の施設なんてないんだし、お父さんにしてやってほしいことがあればスタッフの人に頼めばいいだろう」とやんわりなだめると、「お兄ちゃんは何もしないくせに」と烈火のごとく怒りだし、親戚中に「兄は忙しいからと父の介護を私に丸投げしている」と触れ回ったのです。

妹の身勝手はその程度では済みませんでした。

●父の死後、妹が預かっていたという父の遺言書の内容は衝撃的なものでした。後編【「お父さん、遺言書いて」妹が病床の父親に衝撃の指示。遺産独占をもくろむも「まさかの展開」に…】で詳説します。

※個人が特定されないよう事例を一部変更、再構成しています。

森田 聡子/金融ライター/編集者

日経ホーム出版社、日経BP社にて『日経おとなのOFF』編集長、『日経マネー』副編集長、『日経ビジネス』副編集長などを歴任。2019年に独立後は雑誌やウェブサイトなどで、幅広い年代層のマネー初心者に、投資・税金・保険などの話をやさしく、分かりやすく伝えることをモットーに活動している。

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