「なんでずっとJ2にいるんだろう」GK若原智哉も驚く長崎の個々の高いレベル。分厚い選手層を磐田戦勝利で証明

J2で現在2位と好調のV・ファーレン長崎は、4月17日に行なわれたルヴァンカップの1stラウンド2回戦でJ1のジュビロ磐田と対戦。1-0で勝利した。

6-1で大勝した13日の徳島ヴォルティス戦(J2第10節)からスタメンをターンオーバーして臨み、シュート22本を打たれるなど苦しんだが、後半から途中出場したDF櫛引一紀がCKから挙げた1点を最後まで守り抜いた。

【動画】長崎が磐田に1-0勝利! 櫛引一紀の決勝ヘッド弾!
下平隆宏監督は「90分を通して非常に苦しいゲームだった」と認めたが、ここまでリーグ戦に絡めていないメンバーが磐田を相手に戦い抜き、勝利をもぎ取ったことで、「チーム全体の底上げにもつながったと思いますし、何よりもしっかりとリーグ戦の良い流れを継続できたこと、これが今日の勝利で一番大きかった」と収穫を語った。

もちろん、今年からJ2とJ3の全クラブに開放された大会で、次のステージに進めることも重要だが、新スタジアムが秋に完成することに伴い、公式戦のメインスタジアムとしてはラストイヤーとなるトランスコスモススタジアム長崎(通称トラスタ)をホームに、必ずJ1昇格を勝ち取るためのマイルストーンとなるゲームだった。

磐田の横内昭展監督は「去年も対戦して、戦力を見てもJ1でやっていてもおかしくないチームだと思ってますし、我々もやっぱりJ1に上がりましたけど、J2でも長崎みたいな強いチームもある。我々もJ1でやっているから安泰ではなくて、そういうクラブの後ろからの突き上げがある。我々もしっかりしたビジョンで取り組んでいかないと、また苦い経験をしなきゃいけない」と語る。

長崎は開幕直前に不測の事態で監督が代わり、難しいスタートとなったが、昨シーズンまで大分トリニータを率いた下平監督がチームをうまく統率して、ここまでの10試合で6勝3分1敗の戦績で勝点21を積み重ねてきた。ただ、短い期間でチーム作りをしていく流れで、ある程度、固定的なメンバーで戦ってきた側面もある。

ここからの長いシーズンで夏場だったり、過密日程も想定されてくるなかで、今回のルヴァン杯は1つのチャレンジでもあった。新戦力でも、これまで途中出場が多かったMF山田陸やDF成瀬竣平、そして愛媛FCとの激闘を制したルヴァン杯1回戦以来となる公式戦で、磐田の猛攻を守り抜いたGK若原智哉などの奮闘は、チーム内競争の活性化という意味でも大きいだろう。

若原は自身を含めて、苦しい試合を勝利で終えた手応えについて「やっぱり普段、試合に絡めてなかったので。僕自身もそうですけど、今日、試合に出ていた人は基本的にそういう人が多くて。みんな、この試合に懸けるものは大きかった。そのなかで、ジュビロさんは本当に良いチームで。クロスからの得点もリーグ戦で多かったので。そういうところを警戒しながら90分を通してやれたんじゃないかなって」と振り返った。

J1の京都サンガF.C.から期限付き移籍で加入した若原は、長崎に来て、第一に選手のレベルの高さに驚いたという。

「一人ひとりの能力が高いなって。サンガの時もシュートはみんなうまかったんですけど、それ以上にコースが良かったりとか。何て言うんですかね...なんでずっとJ2にいるんだろうという感じに思っていた」

そこに横浜FCでJ1昇格も経験している下平監督が来て、ボールポゼッションをベースとした戦術はもちろん、個性的なタレント集団の高い競争意識、そしてチーム一丸の姿勢を植え付けることで「みんなも今までJ2にいて、今年こそは絶対に上がるっていう気持ちが、より一層上がった」と実感している。

そして「ここに来るって決まった時から、J1に昇格させるという思い」を抱いていたが、磐田戦の成功体験によって、リーグ戦のポジション奪取への気持ちが強まったようだ。

磐田戦の終盤に投入されて、中盤を引き締めたMF加藤大は、ここまでリーグ戦の全試合にスタメン起用されているが「うちは本当に選手層が厚いと思いますし、リーグで出ている選手もポジションは確約されていない。勝ち続けていても、次の試合で替えられるかもしれない危機感を持ちながらプレーできていることが、毎試合、良い内容でやれている要因でもある」と語り、良い意味での危機感を表わした。

これまでのリーグ戦で主力として勝利に貢献してきたメンバーと、ルヴァン杯の勝利で自信を強めたメンバー。J2屈指のタレント力に、チームとして勝利を目ざす確かなベクトルを加えて、長崎はルヴァン杯でのさらなる躍進、そして今シーズンの最大目標となるJ1昇格に向かっていく。

取材・文●河治良幸

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