なぜ高井幸大は逞しさが増した? GS突破が懸かるUAE戦でも“ディフェンスリーダーは俺だ!”と言わんばかりの活躍を【U-23アジア杯】

今から11か月前、高井幸大(川崎)はアルゼンチンの地で奈落の底に突き落とされた。

若き日本代表の一員としてU-20ワールドカップに臨み、右SBで全3試合に出場。高さとフィジカル対策で、冨樫剛一監督(現・横浜ユース監督)から本職ではないポジションを任された。しかし――。

グループステージ突破が懸かったイスラエル戦。1-0でリードしていたが、残り15分を切ってから2失点し、ノックアウトステージ行きを目前にして日本はその権利を手放した。

アディショナルタイムの逆転ゴールは高井の目の前で奪われた。もう一歩だけ前にいればオフサイドが取れていたかもしれなかった。試合翌日に話を聞けば「自分のせいだと思っている。ラインのところはボールを見すぎた」と自責の念に駆られていた高井。だが、その経験は今思えば無駄ではなかった。

4月16日に行なわれたU-23アジアカップのグループステージ初戦。中国との一戦で、大岩剛監督が率いるU-23日本代表は、開始8分にMF松木玖生(FC東京)のゴールで先制。だが、17分にCB西尾隆矢(C大阪)が相手に肘打ちを見舞ってしまい、一発退場に。

まさかのアクシデントで、日本は数的不利での戦いを余儀なくされる。そこで存在感を示したのが、スタメンで起用されていた高井だ。

チーム最年少の19歳は、192センチの高さを活かした空中戦の強さと身体を張った守りで、中国攻撃陣を封殺。押し込まれる時間帯が長くなり、得意のビルドアップはあまり見せられなかったが、MOM級の活躍を見せたGK小久保玲央ブライアン(ベンフィカ)とともに奮闘。1-0の完封勝利に大きく貢献した。

かつての高井であれば、雰囲気に飲まれて、冷静さを欠くプレーが見られたかもしれない。しかし、この日はそんな姿は微塵も見せず、“ディフェンスリーダーは俺だ!”と言わんばかりのパフォーマンスだった。なぜ、高井は安定感が増したのだろうか。

まず、着実に実績を詰めていることが大きい。昨季はU-20代表でアジアと世界の舞台で戦い、ひとつのミスが敗戦に直結する怖さを知った。その経験をクラブに持ち帰り、J1で14試合に出場。今季は開幕から先発に名を連ね、ここまで5試合で出番を得た。しかも、得意としている右ではなく、左CBでの起用。プレーの幅を広げる要因になった。

【PHOTO】U-23日本代表の中国戦出場16選手&監督の採点・寸評。無失点に貢献の小久保、高井を高評価

さらに、思考力が高まった点も見逃せない。高井は言う。

「あまり自分のプレーに満足していないし、そうなった時に自チームでどれだけやれるかがキーだなと思って、去年も今年も考えながらやってきた。そこが良いサイクルになっている。ダメな試合もあれば、良い試合もある。そのなかで考えたことがたくさんあるし、それを続けられたことが良かった」

日々のプレーを振り返り、トライ&エラーを繰り返してきた。もちろん、今までも考えていなかったわけではないが、より高いレベルで戦うために、向上心を持って常に自分に矢印を向けてきた。その結果、一つの答えとして辿り着いたのが、コーチングの部分だったという。

「集中する際の声かけをすごく意識するようになった。声を出すことで集中するし、周りも見えるので自分にとって良いこと」

集中力の維持は課題のひとつだった。ふとした時に切れてしまう癖があり、それがプレーの不安定さに繋がっていた。だが、自ら発信することが集中力のキープにつながり、パフォーマンスが大幅に改善された。自信も深まったことで、国際舞台でも堂々と戦えるようになった。

顔つきが変わり、精悍さが増したように思える。それを高井に伝えると、「本当ですか? じゃあ、良かったです」と笑顔を見せた。その表情からは充実感が見て取れる。

19日のUAE戦はグループステージ突破を左右する大事な一戦。西尾不在の最終ラインを取りまとめ、守備陣の要として日本を勝利に導く使者となる準備は整った。

取材・文●松尾祐希(サッカーライター)

© 日本スポーツ企画出版社