「ポストスマホはない」Nothing カール・ペイCEOインタビュー。スマホとヘッドホン、日本市場に注力する理由とは?(西田宗千佳)

「ポストスマホはない」Nothing カール・ペイCEOインタビュー。スマホとヘッドホン、日本市場に注力する理由とは?(西田宗千佳)

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デザイン重視の製品を展開して注目を集めている「Nothing」が、日本法人である「Nothing Japan」を設立し、本格的にビジネス展開をスタートする。

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4月18日には都内でイベントを開催し、新しいオーディオ商品である「Nothing Ear」「Nothing Ear (a)」を発表した。

▲4月18日に都内でイベントを開催した

日本法人の立ち上げと新製品発表のために来日していた同社のカール・ペイ(Carl Pai)CEOに単独インタビューを行い、日本法人立ち上げの流れや同社の製品に対する考え方などを聞いたのでその模様をお届けする。

▲Nothing CEOのカール・ペイ氏。手にしているのは新製品のイヤホン群

日本仕様を用意して本格参入、ソフト更新速度を重視

──日本では、2年前から「ソフトローンチ」という形でビジネスをしていました。その状況をどう評価していますか?

ペイCEO:そうですね。以前から販売はしていましたが、日本市場向けに作られたものではありませんでしたから。

今回は3週間日本に滞在しているのですが、いかに日本でFeliCa対応が重要か、よくわかりました。電車に乗るたびに小銭で切符を買うのは面倒ですね(笑)

これまでは日本市場向けの製品がなかっただけでなく、現地のチームもなかった。しかし今回は、日本市場に真剣に取り組むため、体制を整えました。

ただ、日本での状況については「完全にはわからない」んです。なぜかというと、いままでの商品ですら、実は在庫が足りていないんです。

──あー、そういう状況だったんですか。

ペイCEO:はい。かなり需要が高くて。売るだけの十分な在庫がないと、今後どう支持されるかは、明確に見えてこない部分もあります。

この3週間ほど、日本で市場の声に耳を傾けています。製品への期待は高いのですが、消費者には選択肢があまりないと思うのです。アップルやPixel、サムスン、そのほか……という感じじゃないですか?

──確かにメジャーな製品に集中しているところはあります。

ペイCEO:大企業の製品の多くは、どんどん似たようなものになっています。だから、私たちが市場に新鮮さをもたらすことができれば……と考えています。

──どのような層に支持されたいと考えていますか? 現在はスマートフォンの製品寿命も長くなり、短期間での買い替えが期待しづらくなっています。一方で、若者は予算の余裕もない。長期的なサポート体制も含め、どのように市場に支持されたいと考えていますか?

ペイCEO:あまり年齢層は関係ないと思います。新しいことに挑戦したい人たちは、より創造的で、より表現力豊かだ、ということでしょう。

私たちの製品は、価格で言えばかなり優れていると思います。

ソフトウェアのサポートに関しては、スマートフォンメーカー全体を俯瞰した場合、私たちは最も素早くアップデートを提供するブランドの1つであるべきだと考えています。

例えば最近、「Nothing Phone (2a)のカメラはシャッター音が大きすぎる」というフィードバックを日本で受けました。そのためすぐに修正しました。

ポストスマホは「スマホ+イヤホン」である

──オーディオについてうかがいます。スマホと並ぶ製品として、なぜオーディオ製品を選んでいるのでしょうか? ご存知のように、オーディオ製品には多数のメーカーがすでにいて、レッドオーシャンでもあります。

ペイCEO:最近アメリカのメディアから、「非常に革新的な製品を作ると言っていたのに、他の会社がすでに作っているようなレッドオーシャンの製品を作っているだけじゃないか」と言われたこともありましたよ。

もっと革新的なハードウェアのフォームファクターを作っている会社は他にあります。おそらく、AIは非常に大きな産業になるでしょう。農業が生まれたのと同じくらい、世界を変えるものになると思います。

とはいうものの、私は消費者が「他のデバイス」を持ち歩くようになるとは思っていません。

──ということは、「ポストスマホ」はない、と?

ペイCEO:はい。商品の販売台数で見れば、スマートフォンが10億台、ワイヤレスイヤホンが3億台です。

もし私たちがこれらの本当に人気のある製品を、よりインテリジェントにし、新しい機能でよりユーザーに力を与えることができるのであれば、それこそが取るべき戦略だと私は思います。

個人的には、毎日携帯電話を充電して、さらに毎日他のデバイスを充電したいとは思わないですよ。

──では、オーディオ製品がヒットするにはどのような要素が必要だと考えていますか?

ペイCEO:「Nothing X」のアプリを使えば、iPhoneでもAndroidでも利用できます。

日本では、ユーザーの70%以上がiPhone+オーディオ製品だと思います。つまり「白いApple AirPods」を持っている人が多いということです。

でも中には「他の人と同じものは嫌だ」という人もいます。もっと特別なものを求めているのです。

──だからイエローの「Nothing Ear(a)」を作ったわけですね。

ペイCEO:はい。

なぜ私たちの製品を買ってくださったのですかと尋ねると、一番の理由は「デザイン」です。

でも、家電製品を買うときと同じように基本的な機能の良さも重要です。つまり音質や作りの良さですね。イヤホンはジムで使ったり、街でランニングしたりしますから、その時に装着したままでいられるような品質も必要です。

──だとすれば、いわゆるイヤホン以外の選択肢も必要になってきませんか?

ペイCEO:人によって異なるニーズを満たす製品を作るべきだと思います。

実は私のバックパックにはたくさんのプロトタイプが入っているんですけど、今日はそのへんのお話はあまりできません。

ただ最終的には、すべての製品がつながっている必要があり、すべてはソーシャルなものになっていて、ソフトウエアをもっとインテリジェントにする必要があります。

黒住氏とペイCEOを結ぶ「ソニエリの名機」の存在

──今後、さらにスマートフォンを開発することになると思いますが、どのような事業規模を目指しているのでしょうか? というのも、より大規模な大量生産が可能になればスケールメリットは大きくなりますが、やはり大きくなるとコントロールが難しくなりますし、ユーザー・コミュニティの維持も難しくなり、「量産品」になってしまいます。その規模や方向性はどう考えていますか?

ペイCEO:いい質問だと思います。なぜならスマートフォン業界では、一般論として、大きな規模を持たなければ、事業を継続することができないからです。コストが高くなり、キャッシュフローも良くない。他社より先にお金を払わなければなりません。

エンジニアリングもうまくいかなくなります。より多くの製品を売れば、より優れた製品を作るために、より多くのエンジニアを投入することができるからです。

だから、この業界には選択肢がない。そうでなければ、この業界から撤退するしかない。

私たちはそのことをずっと考えてきました。大きくなるにつれて、どうやって自分のDNAを保つのかが課題です。

昨日、何人かの友人とこんな話をしていました。

「スティーブ・ジョブズのアップルとティム・クックのアップルは全然違う。もしスティーブ・ジョブズが今のアップルを経営していたとしても、きっと大きな会社であることに変わりはないけれど、ビジネスや数字にフォーカスするのではなく、製品やイノベーションにフォーカスするのではないか」

我々もうまくいけば、将来に向けて、そういう文化を築くことができるでしょう。

──黒住吉郎さんが日本法人のマネージングディレクターに就任しました。彼はソニーエリクソン時代から携帯電話に関わり、その後ソフトバンク・楽天モバイル・アップルでスマートフォンに関わったベテランです。彼の参加について、どう考えていますか?

▲日本法人のマネージングディレクターの黒住吉郎氏。フィーチャーフォン時代には「ソニーエリクソン」のロゴを決めた人でもある。海外と日本の間で多数のスマホ製品化に関わった経験をもつ

ペイCEO:とても光栄に思っています。というのも、私たちは設立3年ちょっとのとても若い会社だからです。

最初の頃は、弊社に参加してもらうための信頼を得るのがとても難しかったんですよ。懇願してもうまくいかなくて。資金もなく、市場に製品もない状態でチームを作るのは大変なことなんです。

実は、私が最初に買った携帯電話のひとつはソニー・エリクソンの「T610」だったんです。本当にお気に入りで、端末内のテーマも自作していたくらいです。

▲黒住氏が開発に関わり、ペイCEOが愛したソニー・エリクソンの「T610」(2003年発売)。写真はエリクソンのサイトより

それから20年経って、T610を実際に作っていた人と一緒に仕事ができるなんて!(笑)

この業界は本当に狭いと感じていますし、光栄なことでもありますね。

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