アンドリュー・ヘイ監督が描く喪失と愛の物語『異人たち』

アンドリュー・ヘイ監督最新作『異人たち』がいよいよ2024年4月19日(金)公開。あらすじや、観賞前にチェックしておきたい3つのポイントもご紹介。アンドリュー・スコットとジェイミー・ベルのインタビューも!(文・タナカシノブ/デジタル編集・スクリーン編集部)

観る者の記憶と郷愁を呼び覚ますエモーショナルな愛の物語

1987年に出版され2003年には英訳され海外でも刊行された作家・山田太一作の長編小説「異人たちとの夏」を、『荒野にて』(2017)、『さざなみ』(2015)などの監督/脚本家、アンドリュー・ヘイが再映画化した映画『異人たち』(4月19日公開)。

1988年に日本でも大林宣彦により映画化された喪失と癒やしの物語を、現代イギリスへと舞台を移してヘイ監督ならではの感性あふれる脚色と演出で描き出す。

BBCのドラマ「SHERLOCK/シャーロック」のアンドリュー・スコットが主人公アダム、『aftersun/アフターサン』(2022)のポール・メスカルがハリー、『リトル・ダンサー』(2000)のジェイミー・ベルと『ウーマン・トーキング 私たちの選択』(2022)のクレア・フォイがアダムの両親をそれぞれ演じた。

「英国インディペンデント映画賞2023」では作品賞、監督賞、脚本賞ほか最多7冠達成、アンドリュー・スコットは第81回ゴールデングローブ賞主演男優賞(ドラマ部門)にノミネートなど本年度の賞レースでもスポットライトを浴びている本作は、死別した両親との交流、ミステリアスな隣人との恋の行方を描く幻想譚で、愛と孤独、喪失と再生、さらにはセクシュアリティといった根源的なテーマを探求し、観客それぞれの心の奥底にある記憶や郷愁を呼び覚ます。

そして、琥珀色の光がきらめく35ミリフィルムの映像美が、観る者をリアルとファンタジーの狭間へと誘う!

原作は名脚本家・ 山田太一の傑作小説!

「異人たちとの夏」(新潮社文庫刊)原作:山田太一

アンドリュー・ヘイが語る原作小説の魅力

物語の中心人物をゲイに変更した構想を、山田の家族は驚くほど尊重し、脚本を読み映画化を後押し。ヘイが惹かれたのは小説の中心的な構想。死別したはずの今の自分と同じ年齢の両親と再会することで家族の本質をエモーショナルに探れると感じたそう。

あらすじ

ロンドンのタワーマンションで暮らすアダムは、12歳の時に交通事故で両親を亡くした40代の脚本家。ある日、幼少期を過ごした郊外の家を訪ねると、そこには30年前に他界した父と母が当時のままの姿で住んでいた。アダムは足繁く実家に通って心満たされるひとときに浸る一方で、同じマンションの住人である謎めいた青年ハリーと恋に落ちていく……。

登場人物

アダム(アンドリュー・スコット)

ロンドンの新築タワーマンション上層階に住む40代のゲイの脚本家。両親を交通事故で亡くした悲劇によりトラウマを背負っている。

ハリー(ポール・メスカル)

アダムと同じマンションに住む青年。ある夜、アダムに声をかけロマンチックな関係に。ドラッグやアルコールの問題を抱えている。

父親(ジェイミー・ベル)

アダムの父親。アダムが幼い頃交通事故で他界。息子のセクシュアリティを知り驚くも、理解しようとしている。

母親(クレア・フォイ)

アダムの母親。アダムが幼い頃交通事故で他界。愛おしい息子のカミングアウトを素直に受け入れられずにいる。

~幻想的な夢の世界~ 愛と喪失の物語3つのポイント

喪失感に苛まれるひとりぼっちの男

12歳の頃に亡くなった両親の物語を書こうとしている脚本家のアダム。彼が背負っている悲しみは両親を喪失した事実だけではない。自身の感情が無視された経験や幼少期に負った心の傷も、彼の悲しみに大きな影響を与えている。

両親の死後もなお、彼らが行った心が痛めつけられるような言動に固執。起きてしまった間違いは誰かが解決できるようなものではないという現実に、胸が締め付けられる。

孤独の影をまとった二人の出会い

自分の中にある誰も理解することができない感情を抱えながら、隣人のハリーと新しい関係に乗り出そうと試みるアダム。ハリーはアダムを大切にし、愛されていることを思い出させるような存在。

しかし、そんなハリーの心にも明らかに傷がある。もがくアダムに好意を寄せるハリーは、過去の出来事に苦しんでいるのはアダムだけではない、多くの人々が全く同じであることを思い起こさせる。

この世を去ったはずの両親との再会

自分と同い年で亡くなった両親との再会を通して、幸せな家庭にも葛藤があることを包み隠さず描き、悲しみとはどのようにして人間の一部になるのかを知る物語。家族や両親の愛は子どもにとってシンプルとは限らないという本質も見せつけられる。

情緒不安定な父親を繊細に演じるジェイミー・ベル、同性愛嫌悪や固定観念の奥にも、母親の息子に対する溢れる愛を表現するクレア・フォイの演技が光る!

【インタビュー】アンドリュー・スコット&ジェイミー・ベル

アンドリュー・スコット

1976年10月21日、アイルランド・ダブリン出身。テレビシリーズ「SHERLOCK」ジム・モリアーティ役でブレイク。『007 スペクター』(2015)などに出演。

ジェイミー・ベル

1986年3月14日、イギリス・クリーブランド出身。映画『リトル・ダンサー』(2000)でデビュー。『SKIN/スキン』(2019)ではトロント映画祭で高い評価を受けた。

アダムと父の関係から感じたこと

──脚本を読んだ時、どのように感じましたか?

アンドリュー 記憶についての話を語るのであれば、どこかちょっとずれている感じがないと、むしろおかしい。夢を見ているような状況を、アンドリューはとてもうまく作り出したと思います。

ジェイミー アダムが必要としているのは、このコネクションを通じて自分を理解していくこと。この脚本は、キャラクターがとても現実的で、非常に細かいところまで考えられていると感じました。例えば、お父さんが『ごめんね』と言っても、それで全部解決というわけではない。それがとても人間らしいなって。この物語ではそれこそが大事なのです。

──映画を通してどのようなことを考えましたか?

アンドリュー この映画の究極のメッセージは、愛をあなたのゴールにしなさい、難しくとも対話をしなさいということ。愛があなたの人生にともにあるように、ということだと思っています。

ジェイミー どんな悲惨なことが起きたとしても、その後の人生は自分で作っていくのです。愛、コネクション、ほかの誰かと関係を築く機会が訪れたとしたら、飛び込んでいくべき。そういう関係を通じて、僕たちは自分について学び、成長していけるのだから。たとえその関係がひどい形で終わったとしても、その価値はあると思います。

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『異人たち』
2024年4月19日(金)公開
イギリス=アメリカ/2023/1時間45分/配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
監督:アンドリュー・ヘイ
出演:アンドリュー・スコット、ポール・メスカル、ジェイミー・ベ ル、クレア・フォイ

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