長年プライベートでも親交があるというバカリズムさんと脚本家・オークラさんがドラマ『イップス』の取材会に出席。お互いがつくり出す作品の魅力やオークラさんから見た“役者・バカリズム”について語りました。
現在放送中のドラマ『イップス』は、“書けなくなった”ミステリー作家と“解けなくなった”刑事の絶不調コンビが事件を解決していくミステリーコメディ。
プレッシャーや心の葛藤によって普段は何も考えずにできていることが急にできなくなってしまう症状“イップス”を抱えている作家・黒羽ミコ(篠原涼子)と、刑事・森野徹(バカリズム)が偶然出会い、バディを組むことになり、事件を解決していく姿が描かれます。
本作の主演を務めるバカリズムさんと脚本・オークラさんが初回放送前に行われた取材会に出席。今回、脚本家と役者としてタッグを組むこと、お互いの“作家”として違い、本作のキャラクターがどのようにつくられたのかなどを語りました。
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久々の再会は子どもの話ばかり バカリズム&オークラ 久しぶりの再会は「子どもの話ばっかり(笑)」
──バカリズムさんとオークラさんは以前から親交があるそうですが、今作の森野の役柄について事前に話したことはありましたか?
バカリズム:話してないですよね(笑)。
オークラ:バカリズムが忙しすぎて、連絡を取るのが申し訳なくて(笑)。
バカリズム:いやいや!オークラさんも他の作品を抱えていましたから。1度、番組の収録で会いましたけど…。
オークラ:ほとんど互いの子どもの話ばっかりしていましたね(笑)。
バカリズム:そうでした。ただ、昔コントを一緒に作っていたときから、具体的な話ってあまりしていなかった気がします。だいたい、台本に書いてありますから。
オークラ:ちょっと野暮な感じもありますしね。あとは、バカリズムが脚本家としてもどんどんすごい存在になっていくから、僕も緊張しちゃって(笑)。
バカリズム:そんな!
オークラ:「俺の脚本のことどう思ってんだろう」とか(笑)。
──以前のインタビューで「とにかくセリフが多い」と話していました。
バカリズム:本当にセリフが多いんですよ!以前からオークラさんは、僕に長ゼリフとか、説明セリフを当てようとするところがあって。今回も「やっぱり」と思っています(笑)。
オークラ:僕のなかで、バカリズムは頭が良くて、説明がちゃんとできる人っていうイメージがあるからね。
バカリズム:でも、お互いに風呂なしの家に住んでいた頃からの付き合いだから、こうやって一緒にドラマをつくれるって感慨深いですよね。
オークラさんと初めてお会いしたとき、僕はまだ19歳で、オークラさんもまだ芸人をやっていましたから。家に泊まりに行ったり、一緒に銭湯に行ったりしていたんです。
2人で世の中やお笑い界に対する愚痴や不満を言いながら、仕事がもらえない時代を共に過ごしてきた間柄だから、フジテレビのゴールデンプライム帯で一緒に仕事ができることが不思議!
オークラ:ははは(笑)。まさにその通り。こういう形で一緒に仕事ができて本当にうれしいです。
バカリズム&オークラ お互いの“脚本”に思うこと
──今回バカリズムさんは役者として作品に参加していますが、近年ドラマの脚本を担当することも多くなってきています。お互いの脚本作品を見たときに“らしいな”と思うポイントはあるのでしょうか?
バカリズム:オークラさんは、コントにしてもドラマにしても、必ず「言いたいことがある」ということを感じます。僕はどちらかと言うと特に言いたいこともなく書いているんですけど。
コントをつくっていたときから「この作品では、こういうことを言いたい」と明確にある人なんだなと思っていました。
『イップス』で“言いたいこと”は、毎話の終盤、ミコさんが犯人に語りかけるなかに含まれているのかな、と。そういうメッセージが明確にあるので、向かうところが分かりやすい印象ですね。
──オークラさんは、バカリズムさんの脚本についていかがですか?
オークラ:コントのなかで一つルールを作って、そのルールをうまい具合に笑いにしていくところがバカリズムは天才的で。初めて見たときに衝撃を受けましたし、「この路線では勝てない」と思っていました。
それから僕は作家になり、メッセージ性とか「この人って、結局こういう人間なんだな」という部分を重点的に考えて書こうと考えるようになって。そこにどうお笑いを絡められるかということを意識して作品を書いていました…けど、バカリズムへの妬みもありました(笑)。
バカリズム:ははは(笑)。
オークラ:一緒に仕事をするなかで、だんだん自分の中でもすみ分けができるようになって、楽しくなってきていますけどね。
バカリズム:あと、たぶんこれは職業の違いだと思うんですけど、作品に入れ込むものが違うんです。芸人の僕はコントを数年後にもやることを想定して作品をつくっているので、基本的に“その時代のもの”はあまり入れません。でも、作家のオークラさんはトレンドのものを必ず入れてくるんですよ。それは意識的なのか分からないですけど。
今回のドラマでも第1話にサウナが出てきていますし、今まで考えたことがなかったけど「そういう違いか」と。
オークラ:確かに、テレビドラマをつくるときは、その時代にお客さんが触れているものを意識して入れています。
バカリズム:コントだけ作ってるのとはまた違いますよね。
オークラ:だから、今回のドラマでは職業も“今っぽい職業”にしているんです。サウナの熱波師とか。他にも“今っぽい犯行理由”とか、“今っぽいプライド”って時代によって変わると思うので、そこは意識していますね。
バカリズム:そうそう、ちゃんと若い人の文化を知っているんですよ(笑)。僕もおっさんだから「あぁ、こういう感じなんだ」と作品のなかで新しいことを知ることもあって。オークラさんはカルチャーに敏感ですよね!
オークラ:ちゃんと若い子としゃべらなきゃいけないなと思うんですけど、今、若い子と積極的にしゃべろうと思うと…時代的に誤解されちゃうじゃないですか(笑)。
バカリズム:そうなんですよね。若い子の砕けたしゃべり方も勉強したいと思うけど、おっさんから話しかけられたらキモイだけですから(笑)。本当にどこで吸収したらいいか分からない。
オークラ:苦労しますよね。僕は、信頼の置ける人としかしゃべらないようにしています。
森野のキャラは“当て書き” 森野のキャラは“当て書き”オークラの思うバカリズムらしさ
──今作のミコと森野のキャラクターはどのように作ったのでしょうか?
オークラ:いわゆる倒叙ミステリーなので、犯人が分かっているなかで、2人がくだらない話をする…と、最初はそういう漠然としたイメージでつくっていました。
でも、森野役がバカリズムになりそうだと聞いた頃くらいから、どんどんペンが進むようになって。「バカリズムだったらこんなことを言うんじゃないか」と。言い方が悪いですけど、バカリズムの“理論を持っているのに、ちょっと面倒くさいところ”とか、そういう部分をうまく表現できたらと思いながら、当て書きのように脚本を書いていました。
ミコに関しては、篠原さんとは直接お会いしたことがなかったのですが、ぶっきらぼうに突っ走るようなイメージがあったので、そこを盛り込んでキャラクターを作っています。
──森野は当て書きだそうですが、バカリズムさんは台本を読んで“自分らしさ”のようなものは感じていましたか?
バカリズム:“オークラさんが思う僕らしさ”というのは伝わってきました(笑)。
あと、オークラさんは僕を若い頃から知っているからなのか、割と体を張る場面が多いんです。まだなんとなく20代とか30代くらいのイメージなんですかね?運動神経が良くて、体が丈夫だと思われているんじゃないかと思っていて。
オークラ:後輩だし、「元気がいいな」っていうイメージがあるんですよね。あとは、内村(光良)さんがいるマセキ芸能社の人ですから。内村さんが動けるということは、その後輩も動けるのかな、と(笑)。
バカリズム:違う、違う!もう48歳だから!
バカリズムが“感情”を表現するようになった理由
──オークラさんから見た、“役者・バカリズム”の魅力を聞かせてください。
オークラ:バカリズムは、自分の感情が合理的につながっているものじゃないと演じにくさを感じるところがあるのかなと思うのですが、そこがハマるとどんな人も演じられる。だから、僕も感情は意識しながら書いていました。
なんか突然、どこかのタイミングで上手になったよね?
バカリズム:あぁ…そうですね、意識するようになったタイミングありました。
コントをやっていた最初の頃は、芝居を記号的に捉えてやっていたので、無機質というかただ不条理なコントをやっていたんです。でも、ある程度ネタのパターンをやり尽くしていて、さらに広げていくにはもう少し感情を入れたほうがいいんじゃないかと思って、考えを変えたんですよね。
オークラ:微妙な感情を表現するようになったのを見て、「あ、こんな芝居がうまいんだ」と思って、役者業もできるんだろうなって感じた瞬間がありました。
──本作の映像を見た感想を聞かせてください。
オークラ:まだ初回放送前の時点なので完成した映像は見られていないのですが、プロデューサーさんが現場で撮っていた動画を見せてくださったんです。
バカリズム:え、どうでしたか?「大丈夫なのかな?」と不安だったんですけど。
オークラ:すごい面白かった!自分の書いたセリフなのにバカリズムが読んだ瞬間に「これって、こんなに面白かったっけ?」とうれしくなる瞬間がよくあるんですけど、今回も面白くなっていてうれしかったですね。
またどんどんセリフを長くしちゃうかもしれないです(笑)。
バカリズム:今回、変わった演出があって、しっかりセリフを覚えてしゃべっても、途中でインサートが入るんですよ。せっかく覚えてしゃべているのに、その映像が使われなさそうだなと撮影しながら感じるシーンがあって。「覚えたのに!」っていう(笑)。
だから、皆さんにちゃんとお伝えしたい。インサートが入っていても、僕らは何も見ずにセリフを言っていますからね!
オークラ:ははは(笑)。
──これからのミコと森野に期待していることは?
オークラ:期待というか…合理的だけど少し偏った部分もあって、偏屈でちょっとクレイジーなバカリズムに対して、篠原さんが真っすぐ向き合い、情熱でぶつかり合うことを意識して脚本を書きました。それがうまくいっている感じがするので、今後の展開も楽しみですね。