マイケル・ケンナ写真展「JAPAN / A Love Story 100 Photographs by Michael Kenna」が開催中 作者の作品解説をレポート

by 市井康延

世界的な風景写真家であるマイケル・ケンナ氏の大規模な個展「JAPAN / A Love Story 100 Photographs by Michael Kenna」が東京・代官山ヒルサイドフォーラムで4月17日(水)から始まった。1987年に初めて日本を訪れてから、全国各地を訪ねて撮影してきた。本展では3つの部屋に分け、未公開作、新作を含む約100点を展示する。

撮影は何時間もかけて…

初来日は34歳の時、東京・目黒にあったギャラリー・ミンのオーナー、城田稔氏の誘いで実現した。同ギャラリーから写真集『Michael Kenna, 1976-1986』が出版され、個展を開いた。以来、年に数回、日本を訪れることになる。

「日本的な感性やモノの見方に大きく影響を受けました」とケンナ氏は話す。

4月16日(火)、内覧会で自作を解説するマイケル・ケンナ氏。

ケンナ氏は10代の時、司祭を目指し神学校に通っていた。最初のころの写真では、全体的に暗いトーンで光を描くことが多かった。それが徐々にモチーフはシンプルに削ぎ落され、「白いカンバスを使ったミニマルなイメージ」が生まれていった。

ケンナ氏はハッセルブラッドの中判フィルムカメラを使うが、目の前の光景を忠実に再現しようとは思っていない。その場の光を読み解きながら、数分から数時間に及ぶ長時間露光を使う。

「予測可能なイメージよりも、偶然の写真の方が長く続く魅力があることを発見したからです」

9羽の鳥を捉えた1枚(「Nine Birds, Taisha Shrine, Honshu, Japan.2001」)がある。もとは神社の屋根とそこに集まる多くの鳥を撮影したものが、その仕上がりに納得できず、このトリミングに行きついた。

「何時間もかけてネガの可能性を理解したり、探求することは、僕のクリエイションにとって欠かせない時間であり、魔法のような要素です」

撮影時の様子

「じっくりと待ち、観察し、体験し、その瞬間を生きる。」

2004年から、国内の撮影には加藤剛氏が撮影ガイドに加わった。目的地は有名無名さまざまで、移動は車だ。

「移動中、『良い風景を見つけたから戻って』と言われることが時折あります。僕らが見過ごしている光景の中で、何かを発見されているんです」

会場にある「Berries and Falling Snow, Furano, Hokkaido, Japan.2004」もその1枚だ。

撮影ガイドを務める加藤剛氏(左)

55歳になった2008年には、およそ1カ月をかけて四国四十八箇所の巡礼に出た。仏教への関心から始められた旅で、中国やチベットなどアジア各地も巡り、その作品は写真集『BUDDHA(仏陀)』(2020年刊)としてまとめられている。

「さまざまな場所を回遊しながら撮影していくのが僕のやり方です。気に入った場所には季節を変え繰り返し通い、その風景と対話して時間を過ごします」

北海道・弟子屈町の丘にある樹々は、何度も訪れてきた場所の一つ。

「その木の1本になったつもりで、じっくりと待ち、観察し、体験し、その瞬間を生きる。宇宙の一部となり、季節のサイクルを経て、遠くの始まりから予測不能な終わりまでを巡っていることを想像するのが好き。写真は自発的な瞑想の一形態となることもあります」

「『何を撮っているのか』とよく聞かれます。人と自然や建造物などとの関係性が私の中では大きな関心事です。年齢を重ねるごとに不可知な部分は増えていく。私の作品に存在する空間は、見る人にそうした未知なるものを想像するきっかけになるのだと思います」

2024年5月11日~6月8日には東京・乃木坂のギャラリー・アートアンリミテッドでマイケル・ケンナ写真展「50 YEARS & JAPAN」も開かれる。

「JAPAN / A Love Story 100 Photographs by Michael Kenna」

開催期間

2024年4月17日(水)~5月5日(日)

開催時間

11時~18時(最終日は17時まで。入館は閉館30分前まで)

入場料

無料

会場

代官山ヒルサイドフォーラム
東京都渋谷区猿楽町18-8

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