Xで大炎上“ママチャリの人”の道路交通法上の問題は 「法律とリアルな実態」を弁護士が解説

“ママチャリの人”がXで大炎上  画像はphotolibarary

4月14日以降、X(旧ツイッター)上に"ママチャリの人"というワードが急浮上し、波紋を広げ続けている。事の発端は、Xへと投稿された1本のドライブレコーダー動画だ。

「拡散してしまっている動画は、日本における自転車の中で最も一般的で多数を占める、いわゆるママチャリを運転している女性が、車の前に立ちふさがり、運転席のほうに向かって写真を撮影するなど、威嚇していると思える行為が収められたものです。これに対し、X上では厳しい声が多数上がっています。

映像では、車が青信号の交差点に近づいたタイミングで、チャイルドシートを付けたママチャリが右折してきたため、車側は急停止。すると女性は自転車に乗ったまま、車へと向かって大声で叫んでいるんです。最終的に女性は、スマートフォンをポケットから取り出して、誰かに連絡をとるのかと思いきや、カメラを車へと向けて撮影するような素振りをしています」(WEBライター)

実際に、何が原因でママチャリ利用者と車の運転手の間でトラブルが起きたのかは不明だ。しかし、動画を見る限り、ママチャリは赤信号にもかかわらず、交差点を左右確認をする素振りもなく、“逆走右折”したようにも見える。

「そのうえで、逆ギレしているように見えるので、女性に対して《ふてぶてしい態度で驚き》といった厳しいコメントが続出し、大炎上騒動へと発展しているんですよね。

また、《自転車は手前で待って、信号変わってから、渡って右だろ》《この人おそらく自転車が車両扱いということを知らないし、逆走してる意識がない》など、ママチャリ利用者である女性の交通ルール違反に関する言及も多いですね」(前同)

■道路交通法を破った際の罰則

現在、X上で大きな注目を集めている動画にも登場する自転車――。そんな自転車は運転するにあたって免許は不要だが、自動車などと同じ交通規則が定められている”軽車両”扱いだ。そのため、道路を走る際にはさまざまな交通ルールを守る必要がある。しかし、幼少期から免許不要で乗ることができる自転車について、そのルールをきちんと把握していない、あるいは知っていても守らないという人も少なくないだろう。

弊サイトでは、道路交通法に詳しいアトム法律事務所の松井浩一郎弁護士に、今回ネットで大きな話題になっている自転車の交通ルールについて話を聞きた。

「道路交通法上自転車は原則車道を走り、かつ左側を通行しなくてはいけません。右側を走ると違反になります。破ったときの罰則は、懲役3か月以下または5万以下の罰金です。逆走は事故にもつながりかねませんし、本当に危ない。だからこそ左側通行と決められているわけです」(松井弁護士)

軽車両扱いのため、車道を走る自転車。とはいえ、自転車が右折するときは、車と異なり”二段階右折”が義務づけられている。

「二段階右折とはつまり、進行方向の信号に沿って曲がるということで、右折しようと思ったら2回信号を渡る必要があります。二段階右折をしなかったときの罰則は、2万円以下の罰金又は1000円以上1万円未満の科料です」(前同)

罰則が設けられているものの、松井氏は「そうした交通ルールを破った自転車がやみくもに摘発されることもない」と、その実態を話す。

「どちらかといえば罰則が設けられているのは抑止力が目的です。危険な交通障害を発生させないようにという狙いが大きいのではないでしょうか」(同)

■公道での進路妨害、無断撮影の法的な問題は――

今、X上で話題となっている女性の自転車の運転。法律の専門家によれば、厳密にはアウトとなるとのこと。一方で、女性が車の前に立ちふさがったり、スマホで撮影したりする行為についてはどうなのだろうか。

「車では、パッシングなどを繰り返し、他のドライバーへと危険行為を繰り返す“あおり運転”というものがあります。しかし、今回の動画の女性のように、車の目の前で止まって進路妨害をしているだけでは“あおり”にはあたりません。“あおり”があったとみなされるのは、あくまでも急な進路変更を行なったり、急ブレーキをかけたりするなど、交通障害を発生させる妨害運転があった場合です」(前出の松井弁護士)

一方で今回、自転車を運転している女性が被害に遭ったとも言える写真・動画のSNSへの投稿や、そして道路上の撮影行為はどうなのだろうか。

「写真撮影についてですが、撮影するだけなら罰則はありません。法律上公道はある程度、自分のプライバシーを放棄している場所という考え方なんですね。

ただし、撮影した写真を個人が特定できる形でSNSなどへと拡散した場合は別です。撮影された側が名誉毀損や精神上の苦痛を受けたなどという理由で、民事上の損害賠償請求をすることができる可能性はあります。この場合は撮影者及び、投稿者に悪意があったかどうかが違法性の争点になると思います」(前同)

仮に交通違反をしていないとしても、マナーを守らなければ今回のように別のトラブルへと発展する可能性は大きい。ただでさえ、自転車事故は後を絶たないのだ。松井氏は「最近ますます自転車を厳しく取り締まろうという動きはある」と指摘する。

背景には、スマホを見ながらの運転や、電動キックボード、モペッドと呼ばれる電動自転車などの存在もある。自転車による交通違反が問題視される中、政府は今年3月、自転車にも反則金を課す制度を盛り込んだ道交法改正案を閣議決定したばかりだ。

一瞬にして命を失う重大な事故につながりかねない道路上。自転車における交通ルールが厳格化されるのも、やむを得ないことなのだろう。

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