「駒田徳広さん『冬のリヴィエラ』は味わい深い」【F.P.M.中嶋氏インタビュー後編】

試合後、笑顔で帰宅する駒田徳広(1987年6月)

3月に「プロ野球音の球宴・ディスクガイド」を刊行したレコード収集家、F.P.M.中嶋氏のインタビューの後編では、より具体的な野球音源の魅力を直撃。おすすめの名曲から、野球音源全盛期の裏側、さらには音楽の〝セ・パ格差〟まで、じっくり話を聞いた。

――特におすすめしたい野球音源は?

中嶋 〝歌う野球選手〟というカテゴリーでは、王貞治さんの「白いボール」は、もはや定番として、「ヤング・ジャイアンツ 歌の球宴」というLPレコードに収録された、定岡正二さんの「セクシー・ユー」や、駒田徳広さんの「冬のリヴィエラ」は味わい深いです。家族モノでは元ロッテのサブローさんと結婚された中嶋美智代さんの「雨のスタジアム」も印象的です。歌詞の中に「インフィールドフライ」「エンタイトルツーベース」のような細かい野球用語が出てくるアイドル歌謡は他にないと思いますね。個別で歌がうまい選手、という意味では江本孟紀さん、小林繁さんでしょうか。平成でいえば元オリックスの藤井康雄さんも、ご実家がカラオケ喫茶ということもあってすごくお上手ですね。

――野球音源の全盛期は昭和なのか

中嶋 野球音源の黄金期だった70年代後半~80年代は、歌謡曲というジャンルや、レコード会社そのものがすごく元気だった時代で。毎年「老若男女問わず、誰もが知っているヒット曲」がありましたし、そんな勢いの中で野球音源も「企画モノ」として大量に生まれていたんです。当時の大御所作詞家・作曲家が関わっている曲も少なからずありますから、しっかりとした作りの曲は多いですね。

――球団によって曲数にバラつきがある

中嶋 もちろん偏りはあります。球団をモチーフにした曲も含めて、膨大な量があるのはやはり阪神タイガースですね。タイガースと名がつくものは全て集めるような、熱心なファンの方が多いからでしょうか。後は中日ドラゴンズ、広島東洋カープの音源も多い印象です。

――その2球団も熱心なファンが多いことが一因に?

中嶋 というよりは地元のテレビ局・ラジオ局が、それぞれ応援番組や情報番組を持っていて、その中の企画として多く作られているということが影響していると思いますね。同じ地元球団を取り上げる上で、他の局と差を作るために野球音源が使われていると言いますか。反対にジャイアンツは本拠地が東京なので、周りのテレビ局やラジオ局は必然的にキー局という事情で、どうしても全国を相手にしないといけないんです。そのぶん各局でジャイアンツのためだけにレコードを作るという土壌はあまりなくて。曲数としては阪神・中日・広島よりも控えめになっていますね。

――ちなみに野球音源にもセ・パ〝格差〟は…?

中嶋 それは強烈に感じます…(苦笑)。パ・リーグ球団の音源はおしなべて少ないです。応援しているファイターズもやっぱり少なくて。球団歌の「ファイターズ賛歌」、明らかにアニメソング感が丸出しだった「それゆけぼくらのファイターズ」、あとは80年に投手タイトルを総なめにした木田勇さんが直後のオフシーズンに出したレコードや、親分こと大沢啓二さんのレコードなど、数えるほどしかなかったです。

――最近は楽曲をリリースする野球選手が減っている印象だ

中嶋 ここ数年で言えば、ファイターズの「きつねダンス」等は話題になりましたが、オリジナルのヒット曲という意味では出ていないですよね…。その理由として、不景気でレコード会社に余裕がなくなったということは否めないと思います。
――野球選手が出演するテレビ番組も変化した

中嶋 イチローさんが登場した頃から野球選手が〝アスリート化〟していったと思うんですよね。それこそ昔は正月番組で〝セ・パ〟対抗の歌合戦がありましたけど、今は野球選手が出演したとしても運動神経を発揮するタイプの番組じゃないですか。選手はストイックに競技をするものだ、という風潮の変化は強く感じますね。ダルビッシュ選手や、大谷選手も大昔であれば、絶対レコード会社から声をかけられていたはずですから。

――今後の目標は

中嶋 かなり少なくはなりましたけど、まだ持っていない〝盤〟と出合う機会もたまにあるんです。今までのんびりと野球音源を集めてきましたから、これからも焦らず収集活動を続けられたらと思います。

――最後に野球ファン・野球音源ファンに向けて一言を

中嶋 このディスクガイドはコレクション自慢という意識はさらさらなくて、これまでのレコード収集の経過報告として出版しました。ぜひこれをきっかけに野球音源を知ってもらって、皆で奥深くコク深い世界を一緒に楽しんでいけたらうれしいです。

☆えふぴーえむなかじま 1964年生まれ。野球レコード収集家。90年代初頭より野球にまつわる楽曲のコレクションを始め、98年からは〝野球音源〟のみを使ったDJイベントを開催している。今年3月には756の楽曲・音源を紹介する「プロ野球音の球宴・ディスクガイド」を出版した。

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