2024年いよいよアニメ化! 魚豊氏の超話題作『チ。』の魅力を先取りしよう

ビッグコミックス『チ。―地球の運動について―』第1巻(小学館)

『ビッグコミックスピリッツ』(小学館)にて、2020年から2022年にかけて連載された、魚豊氏の『チ。—地球の運動について―』。本作は15世紀ヨーロッパを舞台に、異端思想として禁じられた「地動説」の証明に命を捧げた人々の物語だ。

魚豊氏が史上最年少24歳での「第26回手塚治虫文化賞マンガ大賞」受賞となった本作のアニメ化決定が発表されたのは、2022年6月のこと。そして昨年末、2024年に放送がスタートすることが明かされた。制作は大人気アニメ『葬送のフリーレン』を手掛けたマッドハウスだというから、期待も一入だ。

そこで待望のアニメ放送開始を前に、『チ。』の魅力をまとめてみた。

■タイトルに隠された3つのテーマ

カタカナ一文字から成る本作のタイトルは、とても独特で印象的だ。実は、この「チ」には3つのテーマが隠されている。そのうち1つはサブタイトルなどからも想像がつくだろうが、ここでは敢えてどれも明かさずにおきたい。

代わりに作中では明かされない内容について触れると、『チ。』の「。」は、大地が停止している状態を示しているそうだ。タイトルロゴを見ると、この句点にはヒュッと線が入っている。それにより止まっていたものが動く状態になり、「地球は動くのか、動かないのか」を表現したのだという(2021年作者インタビューより)。これだけでも、この作品がいかに緻密に練り上げられたものか感じ取れると思う。

物語が進むにつれ、それぞれの「チ」の意味が明らかになり、そのどれもが繋がっていることに気づく。すべての「チ」を知ったうえであらためて噛みしめるもヨシ、考えながら観るもヨシ。どちらのスタンスでも楽しめるが、作品のテーマに沿うなら後者をお勧めしたい。

■「チ」に突き動かされた人間たちの生きざま

『チ。』の舞台である15世紀のヨーロッパでは、地球中心の「天動説」こそが宇宙の真理だと信じられている。本作はあくまで“地動説が迫害される世界”を描いたフィクションなのだが、作中では、その信念の背景にある宗教観や、それが歴史の渦に呑まれて大きく変わっていく様子が描かれている。歴史好きな人にはたまらない題材だろう。

また、登場人物ひとりひとりの生きざまにも注目してみてほしい。この物語に登場するのは、良くも悪くも地動説によって人生が変わってしまった人間たちだ。合理的に世の中を渡ってきた少年が、文字すら読めなかった貧民が、自分のことしか頭になかったエゴイストが、なぜ拷問の苦痛や死の恐怖を超えるほどに地動説に魅せられたのか。

それは、宇宙の真理を追究したいという情熱、この世界の美しさを知ったときの感動、それらを後世に託すことで生まれる希望のなせる業だ。

3つの「チ」にも含まれるこの特性は、おそらく人間特有の衝動だろう。それは時に迷いや悲劇を生む危ういものだが、最後にはやっぱり「チ」の尊さを信じたくなる。ぜひ彼らの生きざまを見届け、自分の中にある「チ」を存分に奮い立たせてもらいたい。

■この世界は、きっと何より美しい

歴史の流れや人間の生きざまという人文学的な感動を抜きにしても、やはり本作のテーマである天文学から得られる感動は大きい。人間の価値観が時代によって移ろう間にも、惑星は決まった軌道で静かに動き続けている。この事実にロマンを感じずにいられようか……。

地動説論者の一人であるフベルトのセリフに、「神が作ったこの世界は、きっと何より美しい」というものがある。彼らは地動説によって神を否定したいのではなく、神を肯定しているからこそ、この世界の美しさを証明したいのだ。

“神=創造主”という前提は特定の宗教観のものだが、『チ。』を通して、この世界が美しいということは信じられるかもしれない。それは今の世を生きるうえで、大きな希望につながるのではないか。

以上、『チ。』の魅力をまとめてみた。

アニメ放送は今年スタートということ以外、いまだ詳細は明かされていない。少なくとも春クールではなさそうだから、7月期か10月期スタートになるのだろうか? 待ち遠しいが、宇宙から見れば一瞬にも足らない時間だ、大人しく待つこととしたい。

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