細谷が追うも「強み」放棄、「全員」が消極的に【U23日本代表パリ五輪予選「初戦の悪夢再び」に備える「10人での戦い方」】(2)

細谷真大は最前線で献身的にボールを追ったが…。撮影:中地拓也

サッカーでは、思いもよらないことが起こるから面白い。11人対11人で戦うはずが、そうではなくなることもある。U-23日本代表は現在、パリ五輪出場権を目指して奮闘中だが、その初戦で思わぬ苦戦を強いられた。相手より1人少なければ苦戦は必定であるが、単なる不運で済ませてよいものか。サッカージャーナリスト大住良之は、あえて「否」と異議を唱える。

■日本が放棄した「ストロングポイント」

退場で「数的劣位」になるまで、試合は圧倒的に日本のものだった。何より日本がまさっていたのが、攻撃から守備への切り替えだった。ボールを奪われた瞬間に、即座に切り替えて相手を追い詰め、そこに2人目、3人目がやってきてボールを奪う。そして、そこから相手ゴールを目指す―。現在のJリーグでもごく普通に試みられているプレーで、大岩剛監督もそうしたチームづくりをしてきた。

その結果、試合はほぼ中国陣で進むようになっていた。切り替えと判断の速さ、そしてボールを奪いにくる相手をいなし、かわし、打開する個とグループの力では、圧倒的に日本が上回り、攻撃のスピードでも大きくまさっていた。

ところが、10人になってからの日本は、そうした「ストロングポイント」をあっさりと放棄し、相手のフィジカルの脅威に直接さらされることになるのである。

■相手ボールホルダーに対する「守備」が中途半端に

ひとつのポイントは山田楓喜(東京ヴェルディ)と平河悠(FC町田ゼルビア)のプレーだった。2人は相手のサイドバックの攻め上がりをケアしなければならない役割を負っていたが、それに集中するあまり、攻撃に出ていく余裕がなくなった。相手のサイドバックがより高い位置を取ると、日本チームの「形」は「6―2-1」のような形となってしまった。

こうした中、相手ボールホルダーに対する守備が甘くなった。最前線は細谷真大(柏レイソル)ひとりで、ボールを持ったセンターバックに行くと、横に30メートルも離れたもうひとりのセンターバックにパスされる。細谷がここまで行くことはできない。当然、中盤からひとり出てきて対応しなければならないのだが、誰が行くのかはっきりしないケースが多く、中途半端になって、そのセンターバックから前線の選手につながれることがたびたびあった。

この大会にはVARがある。至近距離からでも相手が蹴ったボールが少しでも手や腕に当たれば、VARは「待ってました」と証拠の映像を見つけ出し、主審に報告する。この試合でも、サイドから鋭いクロスが入り、その恐れのある状況が何回かあった。PKが生まれなかったのは幸運と言ってよかった。

■全員が消極的になって「攻撃を放棄」する形に

しかし、最大の幸運は、中国にこの日本のまずい試合運びを生かす力がなかったことだ。前半にはミドルシュートがバーを直撃し、後半立ち上がりにはMF謝文能が抜け出すという場面があったが、これは日本のGK小久保玲央ブライアン(ベンフィカ)が前進して足と手に当てて防いだ。

しかし、いくら「数的劣位」であると言っても、これほどボールを保持され、攻め込まれる必要があったのか。もっとしっかりとボールをつないで攻撃する時間をつくる力を持った選手がそろっていたはずなのに、これほどまでに全員が消極的になり、攻撃を放棄する形になったのは、うなずけない。

ひとつの現象として、10人になってから「個の突破」を試みようという選手がいなくなったことがある。パスを受けると、日本の選手はパスを出すところばかり探していた。ボールを受けた選手が相手のチャレンジをかわし、置き去ることができれば、その瞬間には「数的劣位」は解消する。そうしたきっかけをつくろうとした選手が、後半なかばに佐藤恵允(ヴェルダー・ブレーメン)と藤尾翔太(FC町田ゼルビア)の投入までいなかったのは、本当に残念だった。

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