リング上のアクシデントで緊急搬送 5日で50万円超の入院生活は「めちゃくちゃ太っちゃって」

6日に35歳の誕生日を迎えた“悪魔”中島安里紗

緊急搬送の状況を自ら振り返る

21日、後楽園ホールでの大会で、“悪魔”中島安里紗が復活を果たす。思えばリング上で起こったアクシデントにより緊急搬送→初の入院生活を余儀なくされたのが1月11日だったが、あれから4か月。今回は復帰を目前にした心境と、緊急搬送された際の状況を語ってもらった。(取材・文=“Show”大谷泰顕)

「この一戦というのは自分も18年間プロレスをやってきた中で、一番と言ったらあれなんですけど、今までとはまた違った“覚悟”を持って上がるリングになると思います」

令和女子プロレス界において“悪魔”の異名を持つ中島安里紗が4カ月ぶりの復帰戦を間近に控えた今、「覚悟」という言葉を用いて、自分の復帰にかける思いを口にした。

年明けからまもない1月11日、SEAdLINNNG新木場1stリング大会でそれは起こった。

“太陽神”Sareeeと“神”&“悪魔”コンビを組んでのタッグマッチ。対戦相手は夏すみれ、高瀬みゆきだったが、中島がコーナーでロープにはがい絞め状態になったところを、対戦相手の高瀬が後ろからスリーパーホールド(裸絞め)にとらえる。高瀬の腕とロープで四方から首を絞められた格好になった中島は、そのままその場にしゃがみ込んだ。

緊迫の状況を中島が振り返る。

「試合中に記憶が飛ぶことは結構あるっちゃあるんです。でも、いつも記憶をなくした時は、その後に(リング上で記憶が)戻ると、ヤバいどうしよう!? みたいに焦るんですよ、めちゃくちゃ。だけどその時はそういうのもまったくなくて。『あー、やっちゃたな……』みたいな。カラダは動かないけど、すごいのんびりしてるみたいな感じ……。どこかを動かそうと思った数秒後に動かせる、くらいな感じでしたね」

その後、中島は戦闘不能状態に陥り、リング下で倒れたまま。半ば朦朧(もうろう)としながらも「Sareee、頑張れ!」といった心の声を叫んでいたという。

結果的に試合はSareeeが夏を仕留めたが、試合終了のゴングを聞いても中島は倒れたまま動けず、結局、救急車で緊急搬送される事態に至った。

当日の夜遅く、SEAdLINNNGから発表された説明によると、「軽微な頚椎損傷」。その後の診断によると、「あそこで何が起こったというよりも、元々ヘルニアがあって、それが思ったより進行していた」(中島)とのこと。

ともあれ、大事を取って中島はそのまま人生初の入院生活を送ることになるが、そこからは“悪魔”と呼ばれた中島ならではの驚異的な回復力を発揮する。

「入院生活は快適でした、めちゃくちゃ(うれしそうに)。たまたま救急で運ばれた場所が個室しかない病院だったので、転院するのも大変だったからってそのままそこに入院したんですけど、翌日くらいから、手の動きとかも戻ってきて。普通に動けるようになっていたので、もう2日後くらいから、この人なんで入院してるんだろう? みたいな。お医者さんもそんな雰囲気で、普通にホテル住まいみたいな感じでした。景色はいいし、夜景は綺麗だし……はい、ゆっくりさせてもらいました」(中島)

4か月ぶりの復帰戦を行う中島安里紗が参戦する後楽園大会

快適な入院生活は5日で打ち切り

自然と笑みがこぼれてしまう、というような雰囲気で快適な入院生活を振り返った中島は「読書が好きなので本を読んだり、テレビも見放題。DVDプレーヤーとかもあったし、Wi-Fiをつなげばスマホの動画も見放題だったし」と、つかの間の休息ながら、以前から望んでいた生活を手に入れた。

一般的に入院生活を経験すると、かなり体重が落ちて痩せてしまうと耳にするパターンが多いと考えていたが、中島の場合は真逆だった。

「太りました。普段は三食食べないので。それを早朝から叩き起こされて……。いや、起こしていただいて、三食キッチリ出るので太っちゃって。めちゃくちゃ太って。退院してから節制しました」(中島)

通常であれば、道場での練習によって相当のカロリーを消費するため、摂取量と消費量のバランスで体重が落ちるのだろう。

結局、中島の快適な入院生活は5日で打ち止めとなり、晴れて退院となった。

かかった入院費用は5日で57万円! もちろん会社の経費や保険が適用されるので、中島の財布は傷まないだろうが、それにしてもなかなかの金額を弾き出しつつ、それからは、普段通っている主治医の下に週に一度通院。検査と診察が行われた。

中島本人としては早期復帰を望んでいたものの、「自分の意思に関係なく、最終的にはお医者さんの判断に委ねるしかなかった」(中島)が、この度、晴れて21日の後楽園大会でリングに復帰することが決定した。

「今は復帰戦に向けてガッツリ練習をやっています」と話す中島は、自分がリングに上がれない間には「後輩たちの成長をめちゃくちゃ感じました」と話しながら、団体の所属選手が誰もいないにもかかわらず、「松本浩代やSareeeが強さを見せてくれているのが嬉しかった」と語った。

さて、注目の復帰戦だが、中島はSareee、そして藤本つかさとタッグを結成し、松本、中森華子、高瀬との6人タッグマッチに挑む。

いくつか案はあったに違いないが、最終的にこのメンツに落ち着いたのは、中島の思いがそうさせた面も少なからずあるという。

「対戦相手の松本浩代はこの試合で欠場に入るので、バトンタッチじゃないですけど、このリングの軸として大事な部分(闘い)を守ってくれた分、しっかり私が受け取っていきたいと思うし、それがなくても節目節目で対戦してきた相手だったので、今回もそういう試合になるんだろうなと思いますね。それと中森華子とは同期だし、高瀬とはこの間、試合が(途中で)終わっているので特別な相手だし、パートナーも特別だし。自分のプロレス人生の中でもすごくこの試合が大事な一戦になると思います」(中島)

会社側にメインイベントを認めさせる

ちなみに、中島が話す「パートナーも特別」は、最近、“神”&“悪魔”コンビとして注目されてきたSareeeにも当てはまるが、それ以上に関係が深い、藤本つかさを指すのだろう。

藤本は2022年3月、一般男性と結婚し、所属していたアイスリボンを休業。そのまま妊娠→出産→子育てに専念していたが、「今回どうしても私の復帰戦のリングに、つっか(藤本)にいてほしかった」(中島)という熱烈なラブコールを受けて、2年ぶりの復帰を決めた。

というのは中島と藤本は、かつて“ベストフレンズ”という名のタッグチームを結成し、アイスリボンとSEAdLINNG双方のタッグ王座を獲得した実績もある。つまり中島からすれば藤本は、これ以上ない、文字通りの“ベストフレンズ”な、最も信頼のおける間柄になる。

実際、9日に実施された会見上、中島は復帰戦に臨むに際し、「こういう大事な時って、絶対、私はつっかに隣りにいてほしくて。ホントにただの私のわがままなんですけど、わがままなのも私だと思うのでお願いしました」と経緯を説明。

さらに付け加えると、中島はこの一戦をメインイベントで行うことをSEAdLINNNG側に認めさせた。当日はタイトル戦も組まれているだけに、それを押し除けてのメインイベントは異例中の異例。それだけこの一戦にかける中島の思いの強さは他の追随を許さない。

一方、藤本は、試合中に突然動けなくなり緊急搬送された中島の件に触れ、「中島安里紗をもってしてでもプロレスはいつ何が起こるかわからないんだなと、プロレスの怖さをそこで改めて知りました。もし次、安里紗に頼まれることがあったら、その時は全てを受け入れようと思っていました」と話し、両者の強い結びつきを感じさせるコメントを発している。

いずれにせよ、中島がレスラー人生における最大級の「覚悟を持って」と口にする以上、今回ばかりは相手側もそれに呼応する必要性が求められる。

裏を返すと、復帰戦の中島に対する遠慮や忖度だけは御法度になる。

事実、中島は「そうやって遠慮とかされるのは嫌なんですよ。ケガした私が悪いんですけど、それは嫌ですね」と語り、今気づいたといった雰囲気で、「ああ、だから遠慮なんかいらないんだって思わせます、キッチリ」と結んだ。

おそらく中島の「殺人エルボー」が火を吹けば、自然と相手側からは「舐めんなよ!」とばかりに烈火のごとき“怒り”が湧き上がってくるに違いない。

それを踏まえて中島はこう口にした。

「はい、だから先に私が火を点けにいきたいと思います」

つまり今回だけは今まで以上に「情けは無用」。しかも“悪魔”がリング上で情けをかけられたら、それは“悪魔”どころか“プロレスラー”でもない。

21日の後楽園ホール、中島は無事にリングへの復帰を果たせるのか。今こそ、令和女子プロレス界の“悪魔”と呼ばれる女子プロレスラー・中島安里紗の「覚悟」を見届けよ!“Show”大谷泰顕

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