MYTH & ROID春ツアー"VERDE"初日レポート「この顔を見るためなら、何だってしたい」

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連作のコンセプトミニアルバムの後編となる『VERDE』をリリースしたMYTH& ROID(ミスアンドロイド)。この作品を核に据えた春ツアーを開催している。モチーフの“彫刻をめぐる物語”に込めた想いも明かされた、初日の静岡公演をリポートする。

開演前のステージに光るグリーンのライト。木々のざわめきや鳥のさえずりが入るSE。スペイン語で“緑”を意味する『VERDE』をタイトルに、森が舞台のミニアルバムをフィーチャーするツアーの幕開けが、LIVE ROXY SHIZUOKAに迫っていた。

バンドメンバーが入ると観客が一斉に立ち上がる。グリーンの照明がビームになってフロアに飛び交う中、ハットを被ったギターのTom-H@ckが現れて拍手が起こった。続いてボーカルのKIHOWが入ってくると、照明は赤く変わり、そのままスッと荘厳に歌い始めた。

Tom-H@ckが腰を落として奏でるギターなど、バックのサウンドが激しくなっても、KIHOWはスタンドマイクの前で直立不動で静かに、しかし力強い歌を聞かせる。退廃的な世界観と同化したたたずまいは、神秘的ですらあった。

「VERDEへようこそ」とひと言告げて、センターに歩み出したKIHOWは一転、「L.L.L.」をアタマから激しく歌い出す。感情むき出しでハイウェイをブッ飛ばすようなスピード感に、観客も「オイ! オイ!」と拳を上げて乗っていく。

Tom-H@ckと交差して立ち位置を入れ替えながら、今度は激しくもクールな歌でゾクゾクさせる。「まだ出せるんじゃない?」とフロアを煽り、最後は「Kill it,kill it」からノーブレスのシャウトを英語でたたみ込み、右手を高く掲げてキメた。

いつものことながら、KIHOWはギアを自在に入れ替えるように、レンジの広い歌声を駆使していく。その豊かな表現力を冒頭から発揮し、オーディエンスの胸を波打たせていた。

コンセプトミニアルバムの前編『AZUL』からは、MYTH & ROIDの新機軸を打ち出した「RAISON D’ETRE」で心地良いグルーブが奏でられる。アイランドリゾートのクラブを思わす開放感に、心が沸き立ち体も動いた。

続く「ACHE in PULSE」は英語のささやくような台詞から、強靭なボーカルへと流れる。デジタルサウンドで押しながら、Tom-H@ckがドライブ感のあるギタープレイでアゲていく。2段で繰り広げるサビでは「エオ、エオ、エオ、エオ」とフロアから両手を上げての合唱で沸いた。

「前回の『AZUL』ツアーで静岡を入れて、皆さんの盛り上がりと温かさに触れて。そのステージの上でライブ中に、また戻ってこようと決めました」
MCでKIHOWがそう話すと、観客から拍手が送られる。そして、「話したことがなかった」というグッズの話題に。

『VERDE』にちなみ緑 をあしらったタオル、グリーンのLEDが光るリストバンドなどのこだわりを語る。Tom-H@ckから「こんな序盤にグッズを紹介するアーティストは初めて」とツッコミが入りつつ、パフォーマンスとは一変のユルい話が続いた。

Tシャツフロント部分の絵は画家でもあるKIHOWが手掛けたもの。『AZUL』ツアーが終わった昨年11月から取り掛かりつつ、描き終えたのはつい最近とのことだった。

「途中で意味がわからなくなっちゃって。『VERDE』に対する想いを絵で表現しようと思ったんですけど、深いところまで行き過ぎました。でも、いろいろなことを考えた結果、思うままに描くことができました」

10日ほど前にプロモーションで静岡に来たとき、Tom-H@ckがうな重を二人前と半分をたいらげたという話も出て、KIHOWが「こんなゆるふわなコーナーはもうおしまい(笑)」と切り上げた。

「セトリはかなりストイックなことになってます。懐かしい楽曲を歌おうと思います」と告げて ステージを再開。青いスポットライトを浴びたKIHOWはゆったり歌いながらアクセントを付けて、じっくりと染み入らせていった。

さらにアニメ『メイドインアビス 烈日の黄金郷』のEDテーマだった「Endless Embrace」とバラードを続ける。哀感を携えながら、悠久を思わす広がりのあるボーカル。夢の中をさまよう感覚にさせるのは、ライブで“非日常”を掲げるMYTH & ROIDの真骨頂でもあった。

ここで再びMC。Tom-H@ckが『VERDE』に込めた想いを語っていく。
「この15~20年、歴史の教科書に載るくらい、いろいろなことがあったと思うんです。僕たちも皆さんも、その20年を生き抜いてここにいます。僕は東北出身で、戻らない辛いこともたくさんあって。でも、人間、悲しみだけで人生を終えるために生まれてきてない。次のドアを開けなきゃいけないときが、誰にでもいつか来る。そのドアの開け方やドアが見えた希望を、MYTH & ROIDの世界観で描きたかったんです」

「『VERDE』は後編。現代に思うことを表現した作品です。簡単に言うと集団心理。SNSで理不尽なことが起きたり、間違ったことが大きな力で正しいと言われて信じてしまったり。声を上げた人が叩かれて、後々に実は正しかったとか、そういうことがある。だから、皆さんが良いと思ったものが、周りから良くないと言われても、大切にして欲しい……ということを詰めさせていただきました」

そんな話から、ツアーの軸の『VERDE』の世界へ物語の朗読と共に入っていく。
『AZUL』で海底に沈んだ街が、長い年月を経て浮上して再び活気を取り戻した。腐食した彫刻を神とする信仰。禁忌を破り、その像を描く少女の衝動を歌う「Palette of Passion」が、激しいギターのリフとヒリヒリするボーカルで奏でられる。何かを削り取るようなサウンドでグイグイ迫ってきた。

攻撃的なギターからのラウドロック「RESIST-IST」では、激しさがさらに極まる。
NHKの『J-MELO』に出演した際に披露した1曲。全編英語詞ながら、先のMCでTom-H@ckが「想いの30倍くらいの数々の強力な言葉で、テレビでは流してはいけないくらい(笑)」と話していた。ちなみにMYTH & ROIDのホームページには、他の曲も含め英語詞の和訳が掲載されている。そんな曲で、KIHOWのハイトーンで叫ぶ爆発力にシビれた。

街を追放された少女が、生きて出られないとされる森をさまよい、情熱を貫くことを決意。森が炎に包まれるが、目を開けると、そこに草原が広がっていて……。その森での彷徨の様子をKIHOWが軽やかに歌う。

『VERDE』のエンディングは、ピアノに乗った聖歌ふうの「Whiter-than-white」。「You’ll live on.Not alone.」と希望を歌い、伸びやかにビブラートも効かせた歌声が、すべてを浄化するように響きわたった。

物語を抜けて、KIHOWが語る。
「アーティストを続けていく中で、自分がこれ以上、違うものに変われるのか、考えていたタイミングがありました。目の前のことに取り組みながら、2年前の秋、初めての有観客ワンマンで見た皆さんの顔が、忘れられなかったんです。この顔を見るためなら、何だってしたいと思いました」

「今からでも変われると気づいて、視界が明るくなるような感覚があって。みんなをもっと大きなところに連れていきたい。今、そんな気持ちが一番強いです。これからも付いてきてください」

拍手を浴びて、「今日も皆さん、声を出したり手を上げたりジャンプしてくれてますけど、これから熱量がさらに上がります。最後まで出し切ってください」と続けて、ステージはいよいよラストスパートに。

バンド寄りのアレンジを施したスピード感のある曲を連発。
声は熱くもスタンドでクールに歌っていたKIHOWが、マイクを手に取りセンターに出る。自らクラップして煽り、観客も手を叩き、「Crazy Scary Holy Fantasy」へ。怒涛のシャッフルビートに乗って、速射砲のように言葉を叩き込んでいく。間奏ではTom-H@ckもお立ち台に上って、ギターソロを見せた。

間髪入れずキラーチューンの「JINGO JUNGLE」に行くと、観客は最初からジャンプして、さらに盛り上がる。KIHOWとTom-H@ckが同時にお立ち台に上がる場面もあり、「ウォウ、ウォウ、ウォウ」の合唱で一体感も高まった。めくるめく熱気に、KIHOWは「最高ーっ!!」と叫んだ。

ラストは「みんな最後に声を出して!」と、「We’re shouting」「Oh Yeah、Oh Yeah、Oh Yeah」のコール&レスポンスのウォームアップを繰り返す恒例からの、「TIT FOR TAT」になだれ込んだ。「オイ! オイ!」とジャンプして拳を突き上げる観客に、KIHOWは歌いながらさらに「声出してー!!」と随所で叫び続ける。

Tom-H@ckもストロークする腕を回して拳を上げながら、凄まじいほどのコール合戦となり、会場が熱くひとつになった。オチサビで一度クールダウンしたあと、また、「We’re shouting」「Oh Yeah、Oh Yeah、Oh Yeah」が繰り返される。

「ラスト行くよー!」で最後に最高潮に達して、大きな拍手が沸き起こる中でフィナーレ。ふたりが深くお辞儀をしてステージを去り、終演のアナウンスが流れたあとにも再び拍手が起こり、熱気の余韻はいつまでも冷めやらなかった。

Text:斉藤貴志

<ライブ情報>
MYTH & ROID One Man Live 2024 Spring Tour "VERDE"

※終了公演は割愛

4月20日(土) 仙台 MACANA
開場17:30 / 開演18:00

4月27日(土) 大阪・心斎橋SUNHALL
開場17:30 / 開演18:00

4月28日(日) 名古屋 SPADE BOX
開場17:00 / 開演17:30

5月12日(日) 東京・Shinjuku BLAZE
開場17:00 / 開演17:30

チケット情報:
https://w.pia.jp/t/mythandroid24/

ツアー特設ページ:
http://mythandroid.com/live2024-verde

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