日産の「NissanConnect」とパナソニックの「音声プッシュ通知」を連携した新サービスの狙いとは?

by 大河原克行

2024年4月19日 発表

日産自動車とパナソニック オートモーティブシステムズとパナソニックは「NissanConnect」と「音声プッシュ通知」を連携した新サービスの開始を発表した

日産自動車とパナソニック オートモーティブシステムズ、パナソニック くらしアプライアンス社は4月19日、日産自動車の「NissanConnect」サービスとパナソニックが提供する音声プッシュ通知を連携した新サービスを開始すると発表した。

新サービスは、家庭内の家電を通じてクルマの移動情報や状態を音声で通知するサービスで、具体的にはクルマの充電情報やクルマで家族が帰宅したことを、パナソニックの家電を通じて音声で通知したり、出発時間にあわせて車内のエアコンを稼働させる「乗る前エアコン」設定をうながす通知を行なったりする。

パナソニック オートモーティブシステムズ 新規事業推進室長 加藤博司氏

パナソニック オートモーティブシステムズ 新規事業推進室長の加藤博司氏は、「クルマとくらしをシームレスに連携し、より豊かなくらしを提供する新しいサービスになる。日産自動車とは第2弾、第3弾のサービス連携の検討も開始している」とコメント。

また、日産自動車 コネクティドカー&サービス技術開発本部コネクティドカーオフボード開発&オペレーション部担当部長の神吉理衣氏は、「NissanConnectサービスで実現しているアプリへの情報提供や通知を、家電と連携させることで、ドライバーだけでなく、家族にも知らせることができ、体験が広がることになる。あらかじめ設定しておけば自動で通知が実行されるのが特徴である。これは家電のIoT化を推進しているパナソニックとの連携だからこそ実現できた。コネクテッドカーは、これからのクルマのプラットフォームであり、日産自動車のビジネスを支える上でますます重要になる。今後も新たな切り口でパナソニックとのサービスを充実させたい」と語った。

日産自動車 コネクティドカー&サービス技術開発本部コネクティドカーオフボード開発&オペレーション部担当部長 神吉理衣氏

また、パナソニック くらしアプライアンス社 DX・顧客価値革新本部長の今村佳世氏は、「パナソニックは、ほどよいつながりの実現により、一人ひとりのウェルビーイングの実現を目指している。NissanConnectサービスと、音声プッシュ通知サービスが連携することで、宅内だけでなく、宅外との連携が可能になり、お客さまの心のウェルビーイングの実現に近づく。ほどよいつながりを可能にし、より豊かなクルマのあるくらしを提供する。移動中、移動前後の体験価値を向上するサービスの礎が構築できる」と位置づけた。

新サービスの実現においては、パナソニック オートモーティブシステムズが全体戦略の検討や事業推進を担当、パナソニック くらしアプライアンス社は音声プッシュサービスの自動車との連携部分を開発。日産自動車はNissanConnectと家電連携の開発を担当した。日産自動車のNissanConnectと、パナソニックの音声プッシュ通知のAPIを連携することで、両サービスのID認証を行ない、ユーザーを紐づけて、シームレスな情報伝達を実現しているという。

なお、音声プッシュ通知は無料で利用でき、NissanConnectの利用者は、新サービスの利用に伴う追加料金は発生しない。現時点で、利用者数の目標は公表していない。

パナソニック くらしアプライアンス社 DX・顧客価値革新本部長 今村佳世氏

今回の連携によって、5つのサービスを提供する。2023年夏にPoC(Proof of Concept:概念実証)を行ない、好評だったものをサービスとして用意したという。

1つめは、「お出かけ前の通知」である。NissanConnectアプリを通じて、出かける目的地や出発時間、到着時間を入力すると、出発時間が近づいていることを、パナソニックのIoT家電から通知する。

2つめは、「乗る前エアコン推奨通知」だ。IoT家電から、「もうすぐ出発の時間です。セレナの『乗る前エアコン』をONにする場合は、スマホのアプリから行なってださい」などと通知し、乗車前の快適な車内空間づくりを支援する。

3つめが、「ゾーンアラート通知」である。NissanConnectアプリの地図から、特定エリアを設定し、クルマがそのエリアを通過した際に、連携しているIoT家電が音声で「アリアが設定エリアに入りました」などと通知する。目的地に無事に到着したことや、自宅に帰ってくる様子が分かる。

4つめは、「充電に関する通知」。自宅の充電ステーションにクルマをつなぐと、充電を開始したり、終了したりといったことをIoT家電が音声で通知する。

最後は「防犯通知」である。ドアの開閉を検知し、家電を通じてカーアラームが作動したことを通知する。また、深夜の時間帯などに車が始動すると、それを検知して音声で通知し、アプリを通じて、車両位置を確認できる。

パナソニック くらしアプライアンス社 DX・顧客価値革新本部デジタルプロセス開発センター CX・IoT技術総括の大穂雅博氏は、「パナソニックのくらしのプラットフォームに、初めてクルマがつながる。出発前のいらいらを減らし、乗車したときに暑くて仕方がないといった車内環境を、IoT家電が一緒になって解決することになる。スマホの通知だけでは、ほかの通知に埋もれてしまったり、通知内容を能動的な操作で確認しなくてはならなかったりするが、IoT家電による音声通知では、こうした課題が無くなり、スマホを持っていない家族も、リアルタイムで通知内容がわかる。宅内から宅外まで、暮らし全体をサポートして、新たな価値を提供する。今後も顧客と伴走しながらサービスを進化させていく」と述べた。

パナソニック くらしアプライアンス社 DX・顧客価値革新本部デジタルプロセス開発センター CX・IoT技術総括 大穂雅博氏

NissanConnectサービスは、2019年から本格的にサービスを開始しており、現在、約17万人が利用している。2019年以降に発売した9車種で利用でき、安心を支えるサービスに加えて、快適さやワクワク感を高めることができるサービスを提供。出発前から運転中、目的地、帰宅後までのシームレスな顧客体験を実現することを目指しているという。

車両に内蔵されているNissanConnect 専用車載通信ユニットである「Telematics Control Unit」と、情報センターが通信することで、ドライブや充電などに便利な情報を提供することができる。

出発前には、「乗る前エアコン」で車内を快適にし、ルート設定を自宅のスマホから行ない、クルマを降りた後もデータを引き継いで、スマホで目的地まで案内する「ドアtoドア ナビ」などを提供。自宅のスマートデバイスと連携して、クルマの状況を確認したり、操作したりできるという。

運転中に、事故を起こしたり、あおり運転などがあった場合には「SOSコール」によって、専門のオペレータと対話が可能になったり、ProPILOT 2.0の自動運転を支える高精度の3D地図データをタイムリーに受け取ったり、充電スポットを考慮したルートプランの提案などにより、快適な運転をサポートするという。Amazon Alexaを使ったボイスアシスタントでは、クルマのなかから、自宅の照明を点けるといったことも可能だ。

日産自動車の神吉氏は、「今後、外部との連携をさらに広げて、お客さまの生活を豊かにしていきたい」と語った。

新サービスの概要

一方、パナソニックくらしアプライアンス社では、IoT家電や外部サービスを、クラウドでつなぎ、テレビやドアホン、シーリングライト、ロボット掃除機といった家電が、情報を声で知らせる「音声プッシュ通知」を、2021年10月から開始している。

忘れがちな「ゴミの日」や「薬の時間」、出かける前に便利な「今日の天気」など、くらしに役立つ情報を音声で通知。知らせる内容は自由に設定できるため、「歯磨きの時間」「習い事の時間」など、IoT家電が子供に声掛けをするといった使い方もできる。

また、家電との連携では、洗濯機で洗濯が終わると、テレビに洗濯が終了したというメッセージを配信。干し忘れをなくして外出ができるようになるという。同社によると、音声プッシュ通知により、洗濯の干し忘れが20%改善されたという。また、幼稚園に出かける時間であることを通知すると、子供がそれにあわせて準備をしたり、炊飯器が炊き上がりを通知すると、子供が食事の準備をするといったことにつながったりしている事例も紹介した。現在2万人が利用しており、利用者の90%以上が継続利用しているという。

また、パナソニック オートモーティブでは、パナソニックグループの家電やデジタルAVの知見を活かして、新たなモビリティ体験の創造を目指しており、新事業推進室では、車内システムやデバイスによる事業ではなく、社外との連携や、くらし領域へ展開する新たなサービス事業を生み出すことを目指している。

オートモーティブシステムズの加藤氏は、「パナソニックグループが持つくらし領域の様々な顧客接点と、自動車メーカーが持つ移動領域の様々な顧客接点を掛け合わせることで、新たな移動体験サービスを生み出すことを目指している。2024年度は、今回の日産自動車との連携サービス以外にも、いくつかの新サービスの提供を予定している」と述べた。

今回の日産自動車との連携では、第1弾として、クルマの情報を、IoT家電を通じて、音声で知らせるものになるが、今後は、クルマが家庭に向かっていることがわかれば、自動でIoT家電を制御して、快適な室内環境を作ったり、冷蔵庫内の欠品があればドライバーに買い物を勧めたりといったサービスも検討していくという。

「今回、サービス基盤の連携が可能になったことから、新たなサービスを次々に展開できる。パナソニックグループが持つ様々なサービスを日産自動車に紹介しているところである。移動を含む日々のくらしがもっと心地よくなる世界を創り続ける」と加藤氏。

調査によると、インターネットを介して外部とつながるコネクテッドカーの普及台数は2023年度には3410万台となり、全体の44%を占めているという。これが、2030年度には4990万台に増加し、普及率は70%に達すると予測されている。

また、エアコンや洗濯機、電子レンジなどにネットワーク機能を搭載したIoT家電の国内出荷台数は、2023年度には1353万台に達し、2030年度まで2桁成長が続くと予測されている。

パナソニック オートモーティブシステムズの加藤氏は、「IoT家電とコネクティドカーがそれぞれ進化するなかで、双方をつなげることで生活が便利になり、移動が心地よくなる世界をつくりたい」と抱負を述べた。また、パナソニックでは、くらしのプラットフォームのなかに、今後、生成AIを組み込む考えも明らかにした。

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