見ていないのに「現行犯」逮捕 300円のいなり寿司万引き「誤認逮捕」で82時間拘束 逮捕は「認めなかったから」? 「人質司法」とも 2人の専門家が解説

4月16日、滋賀県近江八幡警察署は、「スーパーでいなり寿司を万引きした」として逮捕していた74歳の女性を、「誤認逮捕だったため釈放した」と発表した。

■犯行を目の前で見たわけではないのに「現行犯」

発端は4月13日。近江八幡市のスーパーの関係者から「万引きをした女性が店内にいる」と警察に通報があった。女性のカバンの中には、レシートのない、いなり寿司1パックが入っていた。調べに対し、女性は「知人からもらった」と容疑を否認したが、目撃者の証言などから、警察は女性を「万引きの現行犯」で逮捕した。

しかしその後、女性にいなり寿司を渡した知人男性が証言をし、スーパーの在庫数と販売数に矛盾がなかったことなどから、誤認逮捕が判明。女性は釈放された。

被害品とみられたいなり寿司1パックは300円。それを盗んだ疑いで逮捕された74歳の女性が、82時間にもわたって拘束され、結局、誤認逮捕だったとして釈放。いったいなぜこんなことが起きてしまったのだろうか。

■「準現行犯」逮捕ができる要件とは

そもそも、誰も女性の犯行の瞬間をはっきり見たわけでもないのに「現行犯逮捕」とは、どういうことなのか。元埼玉県警刑事の佐々木成三さんに話を聞いた。

現行犯逮捕には、「目の前で犯罪を起こした犯人を捕まえる『現行犯逮捕』」と、『準現行犯逮捕』があり、今回は『準現行犯逮捕』だったと思われます。

『準現行犯逮捕』は、「犯罪と犯人の明白性(犯人が犯罪を行ったことが明らかであること」と、「時間的接着性(犯罪を行い終わってから間もないこと)が明白にあること」が必要で、さらに
(1)犯人として追呼されていること(犯人として追われているか、犯人として呼びかけられている状態)
(2)盗品とか明らかに犯罪に用いられたと思われる凶器などを所持している場合
(3)身体や被服に顕著な証拠がある場合(例えば血痕がついていたりする場合)
(4)誰何(すいか)されて逃げようとした場合 ※誰何とは、何者か問いただすこと
の4つの個別的要件を充足する必要があります。

■「やったに違いない」という証言で思い込みか

今回は、「やったに違いない」という証言のもと、買っていない(レジを通っていない)商品を持っていたので、警察が「犯罪の明白性と時間的接着性」を誤認し、準現行犯逮捕をしてしまった」ということではないでしょうか。

つまり、罪を犯して間もないという前提条件の上に、盗品を持っていると思い込んでしまった。思い込みが先行してしまったと言いますか、警察の確認ミスは否めないと思います。裏付けがきちんと取れていなかった。誤認逮捕はあってはならないことです。
(元埼玉県警刑事 佐々木成三さん)

■300円の窃盗容疑で3日以上の拘束は妥当?

目撃者や警察の思い込みで82時間も拘束されてしまったというのか。女性が受けた精神的苦痛、肉体的苦痛はいかばかりか。そもそも、300円のいなり寿司1パックの窃盗容疑で、3日以上も拘束することが妥当なのか?

■証拠隠滅を恐れ身柄拘束したいという判断が

刑事弁護に詳しいアトム法律事務所の松井浩一郎弁護士は次のように話す。

否認をするには「本当にやっていない場合」と、「やったけど隠している場合」がありますよね。「やったのに隠している」と想定して、そのまま逃がしてしまうと、「いなり寿司だから簡単に証拠隠滅ができる」「逃亡してしまう」など、あらゆる可能性が出てきますから、警察としては、いったん身柄を拘束したいという判断が働きます。

しかし、本件では、目撃証言の信ぴょう性が担保されていたのか、本当に現行犯逮捕の要件を満たしていたのか、疑念が残る事案です。証拠隠滅を恐れて、先走って逮捕をしてしまった可能性があるのではないでしょうか。

(Qこれまでのご経験から、どんな目撃証言があったと推測されますか?)
非常に難しいのですが、例えば、逮捕された女性が、自分のエコバックを持って店内をウロウロしていたとか、何かしら不審に見えるような動きがあったとか、もしくは(いなり寿司が無くなっているという前提のもと)他に疑わしい人がいなかったとか、そういうところが考えられると思います。

(Qこれまで、こういったケースを担当したご経験はありますか?)
実際に万引きの誤認逮捕を扱ったことはありません。万引きの冤罪事件は珍しいと思います。万引きって、明らかにその人が盗むという行為が前提となっているので、そこに間違いというのは(基本的には)生じないんですよね。

(Qこの女性は、82時間も拘束されましたが、それに対する補償といったものはあるのでしょうか?)
今回の件は、まずは、被疑者補償規程に基づき、一定の請求をすることが考えられます。また、国家賠償請求も想定されるところですが、実際には難しいかもしれません。

仮に国家賠償の裁判を起こすとして、請求金額は、拘束された期間の具体的な損害(仕事に行けなかった等)や、精神的苦痛を受けた、名誉を傷つけられた、など色んな根拠から算定していきますが、大きな金額は難しいと思います。

■認めないと出してくれない「人質司法」

もしかしたら、罪を認めていたら、逮捕まではされなかったかもしれません。否認をしているからこそ「証拠隠滅の恐れがある」と認定され、逮捕された可能性があります。仮に本当に盗んでいたら、いなり寿司1個でも、ペン1本でも窃盗になります。ですから「違法なことをして、それを隠そうとしていると疑われ、逮捕された」というケースだったことはあり得ます。罪を認めていれば「逃亡のおそれや証拠隠滅のおそれがない」と判断され、逮捕まではされなかった可能性が高いです。

しかし、本件では、窃盗の事実は認められませんでした。「人質司法」としばしば言われますが、すなわち「認めないと出してくれない」というものです。昔多かった冤罪事件にもつながりかねない捜査手法の名残が、いまだに存在することは否定できません。「実際にやっていなくても、認めれば釈放される」という風潮では困りますよね。

誤認逮捕は、恐ろしい人権侵害です。事実関係を正確に把握し、事案の重大性なども考慮して、逮捕の必要性を見極めて頂きたいと思います。
(松井浩一郎弁護士)

■誤認逮捕の背景にあるものとは

今回の誤認逮捕の背景には、以前から言われてきた日本の警察や司法が抱える問題がありそうだ。指摘されて久しい課題は、令和の時代にも残ったままなのか。早急な解決を期待したい。

(関西テレビ「newsランナー」2024年4月19日)

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