【介護崩壊の危機】“ニセコバブル”に沸く北海道のリゾート地で巻き起こる大問題…訪問介護事業所が突然閉鎖“介護サービスが受けられない”事態も いずれ日本全体に及ぶ危機感を専門家が指摘

“ニセコバブル”とも呼ばれる、北海道ニセコ地区での物価高騰。実は、そのカゲで、日本全体にも及ぶような、大きな問題が持ち上がっていました。

今年2月、もんすけ調査隊では、北海道のニセコ地区の物価が高騰しているという情報を得て、調査を行いました。

調査員
「見てください。カツカレーが3200円です」

ホテルのレストランでは、カツカレーが3200円、 屋台の天ぷらそばが3500円、味噌ラーメンが2500円など。

確かにニセコエリアで、外食の物価が異常に高騰していました。その一方で…。

HTMグループゼネラルマネージャー グレッグ ターナーさん
「コロナ前と比較すると50%くらい、清掃の給料は上げている」

あまりにも人材が不足していたことから、 冬季の清掃スタッフの時給を1900円から2200円と、コロナ前から50%アップ。

また、コンビニや牛丼店でも2000円に近い時給で、募集していたのです。

倶知安観光協会 鈴木紀彦 事務局長
「今年は、世界的な雪不足もあり、日本の中でもニセコは非常に脚光を浴びた」

“ニセコバブル”と呼ばれ、日本中の注目を集めた、その陰で“とある問題”が発生していました。調査員はニセコエリアの、倶知安町に飛びました。

倶知安町民
「閉鎖するっていうのは厳しい」
「自分もだんだん、年をとって、いまも足が痛くて不自由だから困る」

実は去年12月、倶知安町にある訪問介護事業所のヘルパーステーションが閉鎖。さらに今年、グループホームと就労継続支援も閉鎖する予定だといいます。

倶知安町民
「働いている人も高齢だし、面倒をみてもらう人も高齢だけれども、いずれ我が身で、入るところがだんだん無くなるな…と。地元では入れなくなると思う」

閉鎖した施設からヘルパーのサービスを受けていた工藤さんは…。

訪問介護を利用していた工藤明文さん(71)
「前はヘルパーが何回も来てたから、弁当を買いに行くことはなかったけれど、買い物に行かなきゃならないから」

工藤さん、なんとか他の事業所にサービスを依頼できたのですが、以前は週3回来てもらっていたホームヘルパーを、週1回に減らさざる得なかったのです。

閉鎖した施設を運営していた社会福祉法人に、取材を依頼してみると…。

施設を閉鎖した社会福祉法人
「この件に関して、すべての取材をお断りしています」

そこで、閉鎖した事業所の利用者を引き継いだ、倶知安町社会福祉協議会に話を尋ねてみることに…。

倶知安町社会福祉協議会 初山真一郎 事務局長
(Qなぜ去年12月、訪問介護事業所は閉鎖されたのか?)
「考えられることは何点かあるが、従業員を募集しても、人が居ない(集まらない)ことが一つの原因だと思う」

倶知安町によると、社会福祉法人は、人手不足と採算がとれないことを閉鎖の理由に挙げたといいます。

取材した社会福祉協議会でも一時、時給1500円で募集を出していましたが、 この5年間、応募は1件もないとのことです。

倶知安町社会福祉協議会 初山真一郎 事務局長
「国の制度を活用しながら、時給単価は上げているが、確かに2000円までは難しい」

もちろん、人手不足は介護職だけではありません。

倶知安町民
「仕事を頼もうと思っても山(観光エリア)のほうが時給が高いので、皆さん、山に行ってしまう。商店でも人手は不足しているという」

観光業に関係する時給が上がったことで、 倶知安町全体で人手不足が加速しているというのです。

また倶知安町では、リゾート開発によって地価が高騰した結果、家賃も上昇。それも、人手不足の要因になっているのです。

倶知安町社会福祉協議会 初山真一郎 事務局長
「国の制度的には、職員の給料を上げるための処遇改善は、手当としてはあるが、運営自体は赤字がかさんでいくところが、一つの要因」

実は、全国の訪問介護事業所の4割弱は、赤字経営だというのです。

それにもかかわらず、厚生労働省は、4月から訪問介護の基本報酬を引き下げたのです。

そのため、今後ますます、閉鎖される事業者が増えると予想する専門家もいます。

北海道ホームヘルプサービス協議会 斉藤俊子 副会長
「当たり前に、介護保険料を支払って、本来、いろいろなことを選択できるはずなのに、現状では選択もできないし、希望のサービスを受けることができないのは大変だと思う」

さらに今回の事業所閉鎖に伴い、深刻な事態も…。

北海道ホームヘルプサービス協議会 斉藤俊子 副会長
「福祉サービスが少ないことで、不安で倶知安町から転出するかたも実際にいる」

この状況を倶知安町は、どの様に考えているのでしょうか?

俱知安町 宮崎雄一 副町長
「この度の事業所の閉鎖は、町としても非常に残念な思いがある」

突然決まった、今回の訪問介護事業所の閉鎖に、倶知安町も危機感を募らせていると、副町長は話します。

俱知安町 宮崎雄一 副町長
「介護や障害者の福祉サービスというのは、地域生活のためには不可欠。この様なことが起こらないように、できることから取り組んでいきたい」

昨年度から倶知安町では、介護福祉に関する資格の取得や研修に補助金を出したり、 アルバイトのマッチングサービス会社と連携し、 町内の人手不足の解消に努めたりしていますが、 具体的な効果が現れていないのが現状です。

もちろん、この社会福祉施設の破綻は、倶知安町だけの話ではありません。

北星学園大学社会福祉学部 安部雅仁 教授
「倶知安と近いような現象が生じ始めているので、全国的に広がる大きな問題だと思っている」

社会福祉の専門家は、警鐘を鳴らします。

北星学園大学社会福祉学部 安部雅仁 教授
「いま、国の施策として賃金を上げようと、その中で介護報酬点数、とりわけ訪問介護の報酬点数下げたので、これは確実にホテル・観光業・飲食業に流れてしまう」

厚生労働省は、2025年には介護職が32万人不足。2040年には69万人が不足すると予想しています。

一方で2022年は、新規就労者よりも退職者が多く、初めて減少に転じました。

その大きな原因となっているのが、介護職の賃金の安さ。全産業平均と比べると月7万円近くも少ないのです

北星学園大学社会福祉学部 安部雅仁 教授
「いまのままだと何が起きるのか…というと、介護保険料を払うだけ払って、もしかしたら自分が介護が必要になった場合に、十分なサービスが受けられるかという問題にも発展すると思う」

北星学園大学の安部教授は、インバウンド需要などで経済が活性化した、倶知安町のような自治体では増えた税金の一部を使って、介護職の賃金アップに充てるなど、そうした対策が必要ではないかと指摘しています。

国や自治体の財源が限られている中、簡単に解決できる課題ではないと理解しつつも、 介護保険料を払っていながら、サービスは受けられないという事態は避けたいものです。

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