原宿に銭湯!?東急プラザ原宿「ハラカド」内に「小杉湯原宿」誕生

安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

【まとめ】

・東急プラザ原宿「ハラカド」のB1Fに銭湯が開業。

・創業91年、高円寺の老舗銭湯「小杉湯」の2号店、「小杉湯原宿」。

・地下1階に「銭湯を中心とした街のようなフロア」、「チカイチ」を開業した。

年々減少する銭湯。その減り具合は下図を見たら一目瞭然だ。昭和43年(1968年)に17,999軒をピークに現在の1,654軒にまで実に約90%減となっている。

▲表 昭和33年からの組合加入銭湯数の推移 Ⓒ全国公衆浴場業生活衛生同業組合連合会調べ

自家風呂保有率がほぼ100%になった今、スーパー銭湯の台頭や事業承継の問題もあり、銭湯の数が減るのはある意味当然だ。一方で、利用者が下げ止まっているとのデータもある。

東京都内の銭湯の利用者数推移を見てみると、一浴場一日当たりの平均入浴人員は平成30年までは、120~130人台だったのが、令和元年から140人台で推移している。回復基調というには微々たる増加ではあるが、銭湯の数は減り続けているので、入浴する人の数は下げ止まっていると言えそうだ。(参考:東京都内の公衆浴場数の推移

背景としては、経営者の世代交代により、リニューアルが進み、個性を打ち出すことで客層が広がったことなどがあげられる。

■ 高円寺の老舗銭湯「小杉湯」

なかでも株式会社化し、ユニークな経営で知られるのが、東京都杉並区高円寺の「小杉湯」だ。創業昭和8年(1933年)、今年で91年目となる。

高円寺といえば、新宿駅から10分、都心に近いのに、戦後にできた古めかしい商店街が今も残る下町感漂う庶民的な街として知られる。なぜか夏の阿波踊りでも有名だ。ロック、古着、演劇、お笑い、アート、サブカル・・・高円寺を現すキーワードはあまたあるが、ようするに都会とは一線を画す、カオスな街とでもいおうか・・・

話を小杉湯に戻す。まずはホームページを見てほしい。え?これが銭湯の?というほどオシャレなのだ。どこかのカフェのようじゃないか。2016年に家業を継承した3代目平松佑介さんの想いがつまっている。目にとまったのは「ケの日のハレ」というコピー。その下に、「日々の連続に溶け込んだ些細な幸せ」、とある。

そして小杉湯にゆかりのある人々が登場する。彼ら一人一人が思い思いに自分を振り返り、未来に思いをはせる。そのストーリーに思わず引き込まれていく。読み進めていくうちに、なんとなく、小杉湯という存在に惹かれていくのに気づくだろう。

もはや銭湯という名がそぐわないような、なにか別の存在のような気がしてくる。

小杉湯は隣に、「小杉湯となり」という会員制シェアスペースを擁する。湯上がりにくつろいだり、仕事や食事をしたりすることを目的に作られた。1階が「食堂のような場所」、2階が「書斎のような場所」、3階が「ベランダ付きの個室」、となっている。

「街に開かれたもう一つの家のような場所」と称しているところからも、単に食事をしたり、ちょっと仕事したりする、都心のこじゃれたカフェやコワーキングスペースとは異質だ。

「街のお風呂」である小杉湯と一体となり、人と人が緩やかにふれあう場を作りたいのではないか、そんな気がする。高円寺という街にふさわしい、東京が忘れた、昭和の古きよき文化を再定義しようとしているのではないか。

■ 「小杉湯原宿」

前置きが長くなった。

その小杉湯が神宮前交差点に今月17日にオープンした新商業施設、東急プラザ原宿「ハラカド」の中に2店目となる「小杉湯原宿」を開業したのだ。

▲写真 東急プラザ原宿「ハラカド」ⓒJapan In-depth編集部

原宿に銭湯?と思う向きもあろうが、まずは「小杉湯原宿」をのぞいてみた。

真っ白なタイルが気持ちいい。壁いっぱいに広がる富士山の絵が目を引く。お風呂の大きさ・形は男女ともほぼ同じとした。高円寺の小杉湯で愛されている「ミルク風呂」と、熱湯、水風呂を交互に入る「温冷交互浴」を楽しめる。洗い場は9つ、2〜3人用の内気浴スペースがある。

▲写真 小杉湯原宿入り口 Ⓒ小杉湯

株式会社小杉湯平松佑介社長は、「高円寺の街に根ざし、愛されてきた小杉湯を本気で次の100年も残したいと思っている」という。

そのために、「企業やデベロッパーなどの民間企業・行政が”街の銭湯”という文化に共感し、経済的評価がつくモデルが必要がある」とも。

こうした小杉湯の想いに共感した東急不動産と、企画・設計段階から3年以上の月日をかけ開業にこぎつけた。

▲写真 株式会社小杉湯平松佑介代表取締役 ⒸJapan In-depth編集部

■ チカイチ

興味深いのは、小杉湯原宿のある「ハラカド」地下1階のフロアだ。銭湯を取り囲むように、なにやらいろいろな商品が並んだりしている。この場所が「チカイチ」と呼ばれるスペースだ。実はここ、小杉湯がプロデュースした「銭湯を中心とした街」なのだ。コンセプトは、「素のまま、そのまま」。「“素”に出会える場所、“そのまま”でいられる場所」、という想いを込めた。

花王・アンダーアーマー・サッポロビール・MYTREX(美容家電を扱う株式会社 Setsu Planning運営)が「チカイチパートナー」となった。「各企業の価値観やブランドの思いに浸れる場づくり」を目指したという。

単なる物販やテストマーケティングの場としてパートナーをえらんだわけではないという。

「ヨガマットとか、ランニング用にロッカーを使いたいかも、とか、意外と可愛い部屋があるとか、意外と靴良さそうだねとか、軽いところから入って、(普段出会わない人に)出会っていただいて、ファンになっていただこうと思っています」。

そう語るのは、小杉湯の関根江里子副社長。「体験を入り口にしたい」とも。

▲写真 株式会社小杉湯 関根江里子副社長 ⒸJapan In-depth編集部

チカイチパートナーはどのようにして決まったのか。

「これから先、会社の中期経営計画の中にこの場所がきっと組み込まれて、本当に大切な場所になるであろう企業さんとご一緒する、という考えがありました。最後の企業さんは、3月ギリギリに決まりまったんです」。

決まらなかったらゼロからやり直そうと思っていたそうだ。

▲写真 「チカイチ」銭湯一体のランニングステーションとストレッチスペース 提供:小杉湯

高円寺で生まれた”街の銭湯”が、インバウンドであふれるこの表参道・原宿・外苑前に根付き、新たな文化を生むことを楽しみにしたい。そして、いつか自分もお湯に浸かりに来ようと思った。「素の自分」を再発見するためにも。

プレオープン期間
4.17(水)-5.12(日)

-営業時間-

7:00-12:00(最終受付 11:15)
18:00-23:00(最終受付 22:15)

-入浴できる人-

渋谷区神宮前1丁目〜6丁目エリアに住んでいる人または、勤務地のある人(住所がわかるもの:免許証や保険証、勤務地がわかるもの:名刺、社員証、保険証など持参のこと)

-入浴料金(税込み)-

大人 520円
中人(小学生)200円
未就学児100円

「グランドオープン」
2024年5月13日(月)以降、営業時間:7:00~23:00

※詳細は今後HPなどに掲載予定。

トップ写真:小杉湯原宿の浴場 ⓒJapan In-depth編集部

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