「ミャクミャクがしゃべった!」、ちょっとブキミだけどかわいらしい"正体不明"のキャラクターが大活躍する、日本の不思議なキャラクター文化

by 勝田哲也

【大阪・関西万博】

開催期間:2025年4月13日~10月13日

会場:大阪・夢州

4月13日、「Expo2025 大阪・関西万博」の公式Xにおいて、イメージキャラクターの「ミャクミャク」の動画が公開された。ミャクミャクはスポットライトの下、たどたどしく「こんにちは」と挨拶した。

かわいらしい……だがちょっと考えると、やっぱりちょっとコワイ。ミャクミャクは輪郭が溶けている四肢を持ち、顔に当たる部分が赤いリング、そして複数の目がついている。”妖怪”や”怪物”の様に見えるデザインである。ミャクミャクを初めて見た人は、これが公式キャラクターであることにびっくりするのではないだろうか?

しかし、まさにここに日本のキャラクター文化の一端があるのではないか? ミャクミャクは公式キャラクターとして大きくアピールされ、看板などに大きく描かれ、ゆるキャラは全国のイベントに積極的に参加、店舗でもミャクミャクのキャラクターグッズが販売されている。

「ちょっと怖くない?」、「わけがわからない」という声もありながらも、それも"味"としてミャクミャクは活躍しているのだ。この機会にもう一度ミャクミャクというキャラクターを改めてその設定から考え、彼が展開する面白い世界を考えていきたい。

細胞の連なる頭と不定形の水の体を持つミャクミャク、公式で"正体不明"のキャラクター

ミャクミャクは大阪・関西万博のシンボルとして、世界中から愛され、親しみを持たれる公式キャラクターを目指し、2021年11月1日~12月1日の間に応募された1,898作品の中から選ばれ、2022年3月に最優秀賞として選出されたキャラクターだ。

ミャクミャクをデザインしたのはデザイナー/絵本作家のやましたこうへい氏。2020年に選定された大阪・関西万博のロゴマークがベースとなっている。ロゴマークをデザインしたのはシマダ タモツ氏を代表者とするグループTEAM INARI(チーム イナリ)だ。ミャクミャクのデザインは「ロゴマークをそのままキャラクターに出来ないかな?というアイデアから生まれた」という。

大阪・関西万博のロゴマーク。ミャクミャクのデザインはこのロゴがベースとなっている

そこでまずロゴマークを見ていきたい。ロゴマークのコンセプトは「踊っている。跳ねている。弾んでいる。だから生きている。大阪・関西万博。1970年のデザインエレメントをDNAとして宿したCELLたちが、2025年の夢洲でこれからの未来を共創する。関西とも、大阪府ともとれるフォルムを囲んだメインシンボルだけでなく、CELLたちは、文字や数字を描きだし、キャラクターとしてコミュニケーションする。自由に。有機的に。発展的に。いのちの輝きを表現していく。」というものだ。

ミャクミャクは赤いリングに水の体を得た

不定形の赤い細胞のつながりに幾つもの目があるというロゴマークは発表時話題を集めた。そしてミャクミャクはこのロゴマークに”体”が備わったデザインなのである。ロゴマークがより具体的な「キャラクター」となったといえるだろう。

ミャクミャクのキャラクターとはどんなものか? 公式ページから引用したい。

細胞と水がひとつになったことで生まれた、ふしぎな生き物。その正体は不明。

赤い部分は「細胞」で、分かれたり、増えたりする。
青い部分は「清い水」で、流れる様に形を変えることができる。
なりたい自分を探して、いろんな形に姿を変えているようで、人間をまねた姿が、今の姿。
但し、姿を変えすぎて、元の形を忘れてしまうことがある。
外に出て、太陽の光をあびることが元気の源。雨の日も大好きで、雨を体に取り込むことが出来る。
開幕前から自分のことを皆さんに知ってもらい、2025年に開催される大阪・関西万博で多くの人に会えることを夢見ています。

このように公式プロフィールで、はっきりと”正体不明”と書かれている。細胞と水からできた謎の生物なのである。ちなみに今回"声"が公開されたのは"進化"したためだという。そう、ミャクミャクは大阪万博に向け今進化している最中であり、今後どのようになっていくのか、様々な可能性を秘めているのだ。

ミャクミャクは姿もデフォルメされていて、声もかわいらしく、全体的にかわいらしいキャラクターと言えるが、その中にやはりちょっと不気味さ、怖さがある。赤いリングは細胞の結合体だし、いっぱいの目が生えている。しかも体は不定形の水で、人の形を模して四肢を備えてるのだ。「彼は何なのですか?」と聞けば「正体不明です」という答え。ただの「かわいらしいキャラクター」で収まらないところがある。

そしてその正体不明のキャラクターが公式キャラクターなのだ。ミャクミャクのゆるキャラは全国各地のイベントに登場し2025年開催の大阪万博をアピールしている。キャラクターグッズも作られ店頭に並ぶだけでなく、ミャクミャクの姿を大きく描いたPOPなども並び始めている。この不思議で、ちょっと怖さも感じさせるキャラクターが日常に存在するという奇妙な感覚は、やはり独特なものがあるだろう。

開催まであと1年、今やミャクミャクは大阪・関西万博の顔として大きくアピールされている
開催チケットはそのまましっかりしたミャクミャクグッズとなっているのが面白い

「奇妙なキャラクターが爆発的に流行る不思議な世界」というのは、現代や未来を扱ったゲームや小説、マンガなどで積極的に取り上げられるシチュエーションである。ミャクミャクも外国人に見せると「日本の大阪万博の公式キャラクターだって?」と奇妙に思われるかもしれない。ミャクミャクのデザインや設定は日本という不思議な国ならでは、と思われる奇妙さがあると思っている。

その上で改めて「Expo2025 大阪・関西万博」や、「大阪府・大阪市万博推進局機運醸成部」でのミャクミャクの活躍を見ると、ミャクミャクのデザインを面白がっているような段階は既に遠い昔の話であることを思い知らされる。ミャクミャクは既に大阪・関西万博の"顔"として凄まじい活躍をしているのである。

百貨店「大丸梅田店」では2023年の5月にミャクミャクの公式グッズショップがオープン、万博のチケットもミャクミャク一色だ。「JALミャクミャクJET」は空を飛んでいるし、「大阪・関西万博ミャクミャクラッピングバス」は日本交通・京都交通が運行している。大阪市役所にはミャクミャクの巨大モニュメントがある。

大阪を始め、続々とオフィシャルショップがオープンしている
JALミャクミャクJET
大阪・関西万博ミャクミャクラッピングバス

そしてミャクミャクのゆるキャラの活躍は思わず応援したくなるほど。日本のみならず世界でその姿をアピール、さらには大阪の議会に出席するなどまさに八面六臂。正直、この記事を書くまでここまで彼が活躍しているとは知らなかった。ここまでメジャーに活躍している彼は、もはや「不思議で奇妙な存在」とはいえないだろう。そんな段階はとうに過ぎ、立派な公式キャラクターとして、様々な人の期待を背に受け、活躍しているのだ。この幅広く、多彩な広報活動ができるところが、日本のキャラクタービジネス、キャラクター戦略であるとも言える。

大阪市役所のミャクミャク巨大モニュメント
日本各地だけでなく、世界でミャクミャクは活躍している
ミャクミャクはユニークなキャラクターグッズも多く、チェックするのも面白い

考えてみるとスゴイ話である。赤と青の非常に印象的なカラーリング、多数の目がついた赤い球体が連なる頭部、体は不定型なものが人の形を模している、このモンスターそのままの基本要素がありながら、「かわいらしい」ミャクミャク。初めて見た人、そこまでチェックしていなかった人には「面白いキャラクターだな」というところだが、関係者、関係会社にとってミャクミャクは既に確固たる看板であり、大阪・関西万博開催のメッセージそのものなのだ。

ミャクミャクという正体不明の存在をしっかりキャラクターグッズ化し、ゆるキャラが活躍し、アイコン化するこのキャラクター文化と、キャラクタービジネスには圧倒的なパワーがある。もうまごうことなくミャクミャクは大阪・関西万博の顔であり象徴として確立されているな、と思う。

一方でオカルト好きの筆者は、この現象を面白く感じるのだ。冷静になって考えるとミャクミャクはやっぱり正体不明で、謎なままだ。そのキャラクターがここまで大きくアピールされている、もてはやされているのは、どこか奇妙なところがある。不思議なキャラクターを前面に出した"お話"とか"ゲームの世界"のような、ちょっとした非現実感がある。ミャクミャクを笑顔で受け入れる微笑ましい世界、これはやっぱり特別な空気を感じる。とても面白い"現在"が進行していると思う。今後も注視していきたい。

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