[社説]辺野古に奄美土砂検討 生物多様性守れるのか

 名護市辺野古の新基地建設に伴う大浦湾側の埋め立てに、防衛省が鹿児島県・奄美大島で採掘した土砂の使用を検討している。来年初めにも搬入を始める方針という。

 政府は当初、県内のほか県外の6県から土砂を買い取る予定だった。だが、沖縄県が2015年に特定外来生物の侵入を防ぐことを目的にした「県外土砂規制条例」を制定したこともあり、埋め立て設計変更で「県内で全て調達可能」としていた経緯がある。

 条例は、公有水面埋め立てに使用する県外の土砂や石材を県内に搬入する際、採取地や外来生物の有無、混入防除策を届け出ることを義務付けている。特定外来生物が付着・混入している恐れがあると認められると、県は採取地で立ち入り調査ができ、知事は搬入や使用中止を勧告することができる。

 政府は今回、土砂を洗浄することで県外からの搬入が可能だと判断した。

 だが、専門家からは早速「これだけ大量の土砂を洗浄して特定外来生物を除去するのは不可能だ」との声が上がっている。

 条例が初めて適用された16年の那覇空港第2滑走路の増設工事では奄美大島から石材が搬入されたが、採取地で特定外来生物のハイイロゴケグモが見つかった。

 その後、高圧洗浄処理を行うようになったが、石材と違い、土砂は高圧洗浄すると流れてしまうという。

 防衛省の方針転換は、必要量の確保と遺骨土砂への県民の批判をかわす意図があるのだろうが、現実的な対策とは思えない。

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 新基地建設の埋め立てに必要な土砂量は2020万立方メートルに上る。特に大浦湾側は水深が深く、埋め立て面積も辺野古側の約3倍と広く、土砂の必要量は5倍超の約1707万立方メートルに膨れ上がる。

 政府は20年、沖縄戦の激戦地だった糸満市など沖縄本島南部を採取場所の候補に選定した。しかし、戦没者の遺骨が交じる土砂が使われる可能があることに県民は「戦没者への冒涜(ぼうとく)だ」と憤り、反対運動が広がった。

 防衛省は現在、沖縄本島北部から土砂を調達しているが、量が不足しつつあり、新たな調達先の確保が課題になっている。

 奄美大島は沖縄と共に世界自然遺産に登録されている。奄美の住民からは、基地を造る土砂の採掘のために豊かな森が破壊されかねないことを懸念する声が上がっている。

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 埋め立てに必要な土砂は膨大で、遺骨土砂が使われる可能性もまだ消えていない。

 沖縄戦では約20万人が犠牲になり、これまでに18万5千柱超の遺骨が収集されたが、県土には今も2千柱以上が眠るとみられる。

 何度も何度も反対の民意が示された「宝の海」の埋め立てを一般の埋め立てと同列に扱うべきではない。

 辺野古の海は、生物多様性の観点からも重要度の高い海域に指定されている。次世代に引き継ぐべき遺産だ。

 外来種が侵入すれば、生態系へ大きな影響を与え、取り返しがつかなくなる。

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