バス業界2024年問題 深刻な運転手不足で減便・廃線・一元化 一方で利便性向上で利用者定着めざす取り組みも 長崎

時間外労働の規制(いわゆる2024年問題)は物流や医療、建設業界だけでなく、《旅客輸送》でも対策が求められています。バス業界では運転手の労働時間短縮で運行ダイヤに変化が生じ利用者にも影響が及んでいます。
運転手不足は深刻で、減便や路線廃止が行われる中、長崎県内では2つのバス会社が運行する路線の一元化運行や、利便性向上のためのサービス改善などが試みられています。

【住吉光アナウンサー(以下:住)】:
長崎の暮らし経済ウイークリーオピニオン今週も平家達史NBC論説委員(以下:平)とお伝えします

【平】今回のテーマは「バス業界2024年問題」です。

【住】2024年問題というと、医療・建設・物流業界で時間外労働時間に上限が設けられましたが、貨物だけではなく、旅客輸送も関わってくるんですね?

【平】国の働き方改革関連法によって、時間外労働時間の上限は、原則月45時間、年360時間と定められています。それに加えて『改善基準告示』というルールも適用され、拘束時間や休息時間の上限についても見直しが行われました。

例えば、バス業界では、拘束時間の上限が1日16時間から15時間に短縮され、1日の休息時間が継続8時間以上から9時間以上に変更されました。

【住】拘束時間が短くなると《出勤・退勤時間》に影響が出てきますよね?

【平】例えば、これまでは『午後11時まで働いた』場合、翌日は『午前7時から出勤が可能』でしたが、4月からは『出勤可能時間は午前8時』になりました。

バスの利用者は朝7時~8時にかけて多いですから、この時間帯のバスの便数を確保するためには《最終便を繰り上げざるを得ない》ということです。

【住】夜と朝で別の運転手が運転することはできないのでしょうか。

【平】バスの運転手不足も深刻なんです。全国のバス運転手数は、大幅に減っていて、2030年には路線の維持のための人数が《3.6万人不足する》と見込まれています。(日本バス協会調べ)

【住】2024年問題に運転手不足が重なると、バスの運行にも影響が出ますよね?

減便や廃線、重複路線の一元化 撤退したバス会社も

【平】需要の多い朝と夕方の通勤通学時間帯の利便性を維持するために、乗客数の少ない《夜間の便数を減らす》などの対策を行っています。
また、サービス水準の維持と運行効率化を実現することで公共交通を維持すべく、県営バスと長崎バスの共同経営による《運行事業者の一元化》が行われています。

長崎バスは、4月から平日で運行便数を196便減便し、最終便は最大45分繰り上げました。さらに福田地区を走る路線など合わせて16路線が廃止されました。

県営バスも、平日の運行便数は44便減便し、最終便は長崎市中心部から郊外向けが最大25分の繰り上げとなり、風頭線など2路線が廃止となっています。

また長崎バスと県営バスは、重複していた4つの路線(本原・立山・矢の平・立神線)について、今月から共同運行を始めました。

利用者(50代・長崎市):
「運転士さんの残業時間とかもあるのでしょうがないのかもしれないんですけど、地域によってはとても不便になっている方もいらっしゃるので、そこはどうなのかなという風に思います」

利用者(70代・長崎市):
「(長崎市)本原まで行かないといけないからね。長崎バスが行ってたから7,000円の定期券を買ってて、それで済んでたんですけど、もう行かなくなったから。県営バスの定期を(追加で)買ってね、両方使うから経済的にも痛みがきますよ」

【住】2024年問題と運転手不足の影響を考えると、一定の理解をせざると得ませんが、利用者にとっては負担が増え、不便になる面も多いようですね。

【平】長崎県内、各社の《平日の路線バスの減便率》をまとめました──

県営バスは3%、長崎バスは6%、させぼバスを含む西肥バスは8.8%の減便率です。
去年、全国の8割のバス会社が減便や路線の廃止を行っていて、例えば、香川県の「ことでんバス」では25.1%が減便となっているなど、かなり高い減便率の地域もあります。また、大阪の「金剛バス」は去年12月、運転手不足を理由に路線バス事業から撤退しました。

運転手確保のため 働き方改革 と若手の確保

【住】路線バス事業から撤退というのはショッキングですね。運転手不足を解消する動きはあるのでしょうか。

【平】県営バスでは、平日の需要の多い時間帯の運転者を確保するために『休日制度』を変更しました。

県営バスでは、9年前から《土日固定の休み》を希望できる制度を設けています。
これまで人数が制限されていたものの、4月からは、約2割の運転手(希望者ほぼ全員)がこの制度を利用し《土日休み》が取れるようになりました。

一方で《土日も勤務する運転手》に対しては、休日日数を年間13日増やしました。

長崎県営バス運転手 平山潤さん(57歳・運転手歴23年):
「自分の時間を持てる時間帯が増えたんじゃないのかなと。疲れが次の日まで取れないということがやはりありますので、そこは体を休めるということに時間を費やしたいという風には思っておりますけど」

【住】現役の運転手の働き方を改善するとともに《若手運転手の確保》対策も求められますね。

【平】県内の路線バス会社では、大型自動車二種免許を持っていなくても、入社後に免許を取得するための支援制度を設けたりして、運転手に養成するなどの対応を行っています。

“利用してもらう”ためのサービスを拡充

バス利用者の利便性を向上させるための、新しい取り組みも始まっています。

佐世保市の西肥バスは去年2月、現在のバスの運行状況がわかるスマートフォンアプリ「西肥バスナビ」と「スマートバス停」を県内で初めて導入しました。

県営バスと長崎バスも今年、同様のサービスをスタート。スマートフォンだけでなく、一部のバス亭では、現在地や遅延情報などをリアルタイムで確認できます。

利用者(70代):
「助かりますよ。見やすくて」
「遅れている時もあるので『遅れてないな』と思ったりとか、混雑情報とかすごく便利です」

利用者(70代):
「助かりますよ。私、目が悪いからね。《これまでの時刻表》を見たって分からないけど、《デジタルバス停》を見れば『あーあと何分ね』とか分かるから、だいぶ助かりますね」

利用者(50代):
「凄く便利になりました。《デジタルバス停》が正確で、もうすぐ来るなというのがすぐわかるので、とても便利で毎日見てます」

利用者(50代):
「本当にありがたいです。我々から見ると」

長崎自動車 自動車部 吉田弘和次長:
「バスを待っている間の不安であるとかイライラを解消すべく導入させていただいて、さらに利用していただければと」

さらに長崎バスでは、行先表示に《主要観光地》などを表示したり、乗り間違い防止のため、《通過したバス停名》は表示から消していくなどの工夫も始めました。

吉田次長:
「将来にわたってバス路線を維持していくためには、まずは皆さんにご利用いただくことが重要であり、必要と考えております。もっと身近な長崎バスを目指してサービス改善に努めていきたいと思っております」

【住】便数が減ると乗り過ごせないので、こうしたサービスがあると便利ですね。

長崎市では生活と切っても切れない

【平】バス会社も企業ですから、経営の安定のためには、地元の方々にも、観光客にも乗ってもらう工夫が必要です。一方、利用者としては、バスの減便や路線廃止を避けるためには、やはり『バスを利用することが大切』です。

また、行政にも『バスを維持する取り組み』が求められます。例えば、滋賀県では、公共交通を支える “交通税”の導入が検討されています。また、広島市では、バスなどの設備の所有者と運行会社を分ける“上下分離方式”の導入が検討されています。

全国の都道府県庁所在地と政令指定都市の1世帯当たりのバス代をみると、長崎市は全国3位であり、私たちの生活とバスは切っても切れないですから『交通政策』より広い『都市政策』という枠組みで、知恵を出し合って、路線バスを維持していくことを考えていかなければならないと思います。

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