ドラフト候補に挙がるも…コロナ後遺症でプロ野球への道を絶たれる「血液に酸素が回らない…」 24歳の若者、次なる道は「スッポン養殖」 80歳の大先輩から“事業承継”

プロ野球を志していた鳥取県米子市出身の1人の男性。
新型コロナによって夢が断たれたあと、彼が第2の人生として選んだのはなんと養殖業でした。
80歳の高齢男性との出会い、そして、幼なじみの協力・・・。
新たな夢に向かって走る男性を取材しました。

日本の棚田百選のひとつ「うへ山の棚田」や、山あいに広がる自然豊かな街並みが広がる兵庫県香美町小代区。

そんなのどかな街にビニールハウスを見つけました。
何かの野菜を育てているのかと思いきや、そこにいたのはなんとスッポン!
そう、ここはスッポンの養殖場だったんです。

米子市出身の安藤優汰(あんどうゆうた)さん(24)と北浦雄亮(きたうらゆうすけ)さん(27)。
2人は去年の夏ごろから、ここでスッポンの養殖をしています。
ただ、いちから始めたわけではありません。

安藤優汰さん
「養殖をやりたいという方向で固まっていたので、その中で増田さんから事業承継していただけるという話があって。初期投資も少ないですし、もちろんやらせてくださいということで、1週間後くらいにこっちに来ました」

小代のスッポン養殖はおよそ50年の歴史がありますが、高齢化もあり、続けているのは小代内水面組合の組合長・増田時雄(ますだときお)さん(80)、ただ1人となっていました。

体力の限界を感じ始めていた増田さん。そんな時に、ちょうど話を聞きに来た安藤さんたちへ、事業承継することを決めました。

「水分が多いですか?」
「水分が多いちゅうと、こっちをよけ入れてやらんと」

養殖の現場を担当している安藤さん。日々、増田さんから様々なことを学んでいます。

安藤優汰さん
Q.増田さんは色々丁寧に教えてくれる?
「だいぶ丁寧に教えてくれますよ、毎日一緒にやっています。コーヒー飲みながら話を聞いたりとか」

増田さんは、ほかにもキャビアを作るためチョウザメの養殖を行っていてます。
安藤さんたちはこれも引き継ぎました。

安藤優汰さん
「自分の肌で覚えてと言われました。いつになったらお腹減ってるとか、その魚の動きで分かるって教えてもらったんで、そういうのも徐々に勉強してます」

しかし、そもそもなぜ20代と若い2人が養殖を始めたのでしょうか?

安藤優汰さん
「ずっと小学校から野球をしていて、プロ野球選手も見えていたんですけど、コロナになって野球ができなくなって」

安藤さんは元野球選手。
大学1年の時、明治神宮大会で準優勝。社会人でもプレーし、ドラフト候補にも挙がっていました。

しかし、新型コロナが彼の人生を180度変えました。

安藤優汰さん
「血液に酸素が回らない後遺症になってしまって、長く歩いたり走ったりもできなかった」

いつ治るとも分からないコロナの後遺症。
安藤さんは家族のためにも野球に見切りをつけました…。

第2の人生として考えたのは、元々好きだった魚にまつわる仕事。
そのなかで、知り合いにスッポン養殖のアイデアをもらい、幼なじみで
東京で会社経営をしている北浦さんを誘って、増田さんのもとを訪ねたのです。

北浦雄亮さん
「お互い釣りが好きだったので、陸上養殖と言われた時は、おもしろそうだというふうに率直に思いました」

安藤優汰さん
「いま北浦さんから経営も学ばせてもらっていますし、いろんな自分の全然知らない部分を教えてもらっているので、そういうのも含めて、本当に一緒にやれて良かったと思う」

2人は今年1月、「月とすっぽん」という会社を設立。
安藤さんが現場を、北浦さんが経営を担当し、これまで増田さん1人では手が回らなかった顧客開拓などにも取り組み、事業を軌道に乗せつつあります。

小代内水面組合 増田時雄組合長
「やっぱりわしらのできんことをやってくれるからね。でも、まだ分からんことがいっぱいあるからね。どんどん前へ進んどるけど、ちょっとブレーキもかけてやらんといけんところもあるし」

ここでのスッポンの養殖は、親スッポンが生んだ卵をふ化させ、本来成長に3~4年かかるところをビニールハウスと温泉水を使うことで成長を早め、1~2年で出荷できるようにしています。

いまでは、京都の料亭などでも安藤さんたちのスッポンが使われるようになったほか、スッポン鍋セットや
チョウザメの切り身、キャビアなどのネット販売も好評だということです。

ということで、栄養素やコラーゲン満点!自慢のスッポン鍋の味を記者も味見させてもらいました。

安松裕一記者
「まずはスープから頂きます。うん、すごく味が濃厚で、スッポンの臭みというものは感じられません」

そして、身の部分のお味は?

安松裕一 記者
「食感は鶏肉に似てますね。臭みもなくてとてもおいしいです」

80歳から20代への事業承継。
北浦さんは、自分たちが成功事例を作ることで世の中を変えたいと話します。

北浦雄亮さん
「ほかの若い方にも、自分たちで事業を起こすだけじゃなく、ほかの方から引き継ぐという事業承継もひとつの選択肢として持ってもらえると、今後、後継者不足という社会問題を解決していけるんじゃんないかと思っています」

様々な壁にぶつかることもあるかもしれない…それでも安藤さんは大きな夢に向かって努力することを誓いました。

安藤優汰さん
「日本も越えて海外とか、そういう世界的な人気商品になっていけるようなものを作りたいです」
Q.日本じゃない世界?
「そうですね。一番先は世界を目指してしっかり養殖していきたいです」

増田さんのノウハウに2人の若い力が加わった小代のスッポンとチョウザメ。
いつか世界を驚かせる日が来るかもしれません。

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