クルド人が集住する埼玉県蕨市を訪ねてわかった…SNSで過熱するヘイトと現実のギャップ

抗議活動に囲まれる蕨駅前のクルド人排斥運動デモ。しかし参加者は…(C)日刊ゲンダイ

【話題の現場 突撃ルポ】#4

「国を持たない最大の民族」といわれるクルド人。埼玉県川口市や蕨市には約2000人が集住しているとされ、難民など複雑な事情で来日するクルド人も少なくない。

ネット上では、クルド人の排斥を訴えるヘイトスピーチが目立っている。ゴミ出しや騒音の問題など、文化の違いから日本人との軋轢が発生していることは確かだ。しかし、ネット上では「偽装難民」や「犯罪外国人」といった臆測や偏見に基づく投稿も散見され、問題となっている。彼らはどんな思いで生活を送っているのか。

日刊ゲンダイは3月下旬、蕨市でクルド人の子供たちの支援活動を行う女性Aさんに同行。実態を探った。Aさんはこう言う。

「子供たちに勉強を教えてあげることもあれば、日本語が得意でないご両親と学校の間に入ったり、役所などの手続きを手伝ったりしています。時には授業参観に行くこともあります」

高校進学を控えるクルド人の女の子の家を訪れると、彼女は数日前に卒業式を終え、もらったばかりの卒業アルバムを見せてくれた。

「この子は一番仲のいい女の子。この男の子は超頭がいい。それで、これが担任の先生! めっちゃイケメンでしょ!」

幼少期に来日したため日本語を覚えるのに苦労したそうだが、楽しい学校生活を送れたようだ。

別のクルド人の家庭を訪れた際には、記者が初めての訪問だったにもかかわらず、郷土料理をふるまってくれた。小麦の生地にひき肉などの具をのせ焼き上げたピザ風料理のラフマージュンと、ヨーグルトの飲み物をごちそうになった。

現地では、ヘイトによる影響をそこまで感じることはなかった。

「『死ね』『日本から出ていけ』といったヘイトスピーチをネットで見つけてしまって、学校に行くことが怖くなってしまったクルドの子もいたと聞いています。けど幸いにも、私の周りの子供たちはあまり影響を受けていないようです」(Aさん)

「ネット住民は現地には来ない」

3月中旬にはこんなことがあったという。

「ネウロズというクルドの春のお祭りがあったのですが、会場でトラブルが起こることを恐れて、公園を管理する自治体が開催に難色を示しました。交渉の末、なんとか開催できたのですが、外国人排斥を訴える団体が大勢会場に来るんじゃないかと心配でした。その時は私たちも反論しなければと心の準備をしていたのですが、実際に来た外国人排斥団体は3人程度と聞き、大きなトラブルにならずホッとしました」(Aさん)

今月14日には、蕨駅前でクルド人排斥を訴える団体のデモがあった。「暴走危険クルドカーの恐怖」「根絶せよ!クルド犯罪と偽装難民」と書かれたプラカードを掲げ、「不法滞在のクルド人は国に帰れ!」とスピーカーで叫んでいた。

とはいえ、デモの参加者は10人程度。デモに異を唱えるカウンター行動の人数の方がはるかに多く、100人近くが集まった。

在日クルド人をめぐる議論は、ネット上で過熱している側面が否めない。ある中学生のクルド人の女の子はこう話す。

「問題を起こす人がいるのも確かですが、普通に暮らしているクルド人もたくさんいます。それなのに、一部のクルド人が起こした問題を何度も拡散され、中には誤った情報もあります。ネットの人たちは、ネットで有名な人の言うことをそのまま信じるだけ。自分たちが蕨に足を運ぶこともなければ、私たちと直接話して、私たちのことを知ろうともしないのはなぜなのですか」

ネットにある情報はごく一部。実際にその場所に行ってみなければ、わからないことだらけだ。現地に足を運ぶことで、相互理解の糸口を見つけることもあるはずだ。

(取材・文=橋本悠太/日刊ゲンダイ)

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