BSイレブン競馬中継実況アナ舩山陽司さんの“もう一つの顔”は格闘家 「チェストプレスは115キロ。49歳で自己ベストです」

「日本製の服はXLでも腕が通りません。この半袖シャツはフランス製のLです」と舩山さん(C)日刊ゲンダイ

「あの腕、太すぎじゃないか?」──BSイレブン競馬中継土曜版で万馬券キャラとして番組を盛り上げる舩山陽司さんを巡っては、そんな声も聞かれる。表の顔は競馬を中心とした現役の実況アナウンサーだが、もうひとつの顔は格闘家だ。舩山さんに話を聞いた。

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「きょうは暑いですね」と半袖シャツ姿で弊社会議室に現れた舩山さん、イスに座るとハンカチで汗を拭いながらこう言った。

この日の東京の最高気温は4月にして夏日の26.8度。取材開始の午後4時はまだ夏を思わせるような暑さが残り、少し歩くだけで汗ばむ陽気だった。袖口からのぞく上腕は引き締まっていて、二頭筋が浮いている。筋トレをやり込んでいるのが一目瞭然。この筋肉はスゴイ。

「でも、左腕はここまでしか上がらなくて。ほらこの通り。筋トレのやり過ぎです」

右腕はバンザイできても、左腕は床と平行な“前へならえ”が精いっぱいだそうだ。なぜ?

「全国のお祭りでは奉納相撲が行われることがあります。その中でもっとも古くからあるのが奈良・春日大社若宮おん祭りでの奉納相撲です。昨年、その大会に向けて練習していたら、やり過ぎで左肩を壊してしまったんです。若い時から格闘技をやっていると、痛みを我慢して試合に出たりするクセがあるので、やり過ぎちゃうんですよ」

■立教大相撲部出身。近所のジムで四股とすり足

1992年、立教大に入学すると、相撲部に入部。卒業した今も時間をつくって後輩に稽古をつけに行ったり、トレーニングをしたり。仕事の合間をぬって、せっせと汗を流す。相撲は日本相撲連盟2段、日本相撲協会初段の腕前で、前述の奉納相撲は3度の優勝経験がある凄腕だ。

「筋トレは近所のジムに週に2回、1回2時間くらいです。30分ほどしっかりとストレッチをしてから、四股を30回くらい踏み、すり足を5往復かな。土俵の直径が4.55メートルで、すり足の片道はそれくらいです。さすがにジムですり足をするのはかなり異様で、人が少ないときに見られないようにやります。それを終えたら、マシンを使って上半身と下半身のトレーニングです。コロナ禍前に80キロが最高だったチェストプレスは、肩を痛める直前に115キロ。49歳で自己ベストです」

たくましい体は、このトレーニングのたまものだ。自称「腕の太さはアナウンサー界日本一」というのも、あながちウソではなかろう。

「日本製の服はXLでも腕が通りません。この半袖シャツはフランス製のL。BSイレブンの服? すべて自前です」

日本の標準的な規格では収まり切らない体の持ち主は、2019年に横浜のマスターズ大会でも優勝している。

「実は、肩を痛める前に五十肩の軽い痛みがあったんですが、『運動していれば五十肩にはならないだろう』という思い込みがあって、受診した整形外科医に指摘されても『そんなはずはない』と筋トレを続けていたんです。痛みが本格化したのは自業自得で、ひどいときは、肩から指先にかけて24時間電気が走っている状態。ほとんど眠れませんでした。あのときは、ほんとつらかったですね。馬券も当たりませんでしたよ」

■体脂肪率17%。医者の言葉にムッ

左腕のトレーニングは目下、お休み。ただし、休養はあくまでも左腕だけ。右腕や腹筋、背筋、下半身などはトレーニングを続けている。

「いまの体重は80キロ。身長は171センチですから、BMIを測ると27。25以上が肥満ですから、医学的な数値上は肥満かもしれませんが、体脂肪率は17%。メタボに該当するような病気もなく、毎年の健康診断で『もう少し痩せましょう』なんて言われると、正直、ムッとします」

体育会系の原点は中学時代、水泳部から始まったが、腰を痛めたため、立教高校時代は意外にも演劇部へ。そこで滑舌のよさを身につけると、大学入学前に大ヒットした映画「シコふんじゃった。」を見て体育会熱が再びうずき、「大学では相撲をやろう」と裸での再スタートを誓った。

キリスト教系の大学で相撲部とは意外だが、あのオシャレなキャンパスに土俵があるのか?

「池袋キャンパスにはありません。新座キャンパス近くの新座市民総合体育館の土俵で稽古するんです」

現役時代の体重は60キロ。稽古を終えると、ちゃんこで増量を図るが、「稽古が厳し過ぎて太れませんでした。それでも東洋大や大東文化大の100キロ超えの相手に勝ったこともあります」とドヤ顔で振り返るが……。

「でも、どちらもどうやって勝ったのか覚えていないんですよ。大東大のときは、気づくと140キロの相手が四つん這いでしたから、はたき込んだのでしょうか?」

自分の2人分以上の体格を持つ相手に必死だったのだろう。いまでは相撲好きが高じて、自ら大会も主催する。その参加者は、コロナ禍前の多いときで150人近くいたそうだ。

競馬実況はAIにできても、相撲は無理

さて、マッスルアナは立教大卒業後はNHKに就職。その後、現ラジオNIKKEI主催の「レースアナウンサー養成講座」を経て1999年、ラジオNIKKEIに入社し、競馬の実況アナとして歩み始めた。

「大学時代の週末はウインズ後楽園で馬券を買って、池袋の雀荘で友達と卓を囲みながらテレビでレースを観戦するような生活でしたが、競馬を仕事にするつもりはありませんでした。しかし、NHKを辞めて1年ほどプラプラしていたら、レースアナの養成講座を見つけて、『これなら、つぶしが利くかな』くらいの軽い気持ちで応募したことで今に至ります。中央はもちろん、地方や海外を含めると、実況した競馬場は30を超えます。この数をこなした実況アナは、あまりいないと思いますよ」

最近は、門別や盛岡、水沢などの競馬場で実況を担当。相撲は本場所の開催中にAbemaTVで実況する。競馬と相撲とでは、実況に違いはあるのか。まずは競馬だ。

「競馬実況の場合、有力馬の動き出しや勝負どころをどう伝えるかなどのポイントはあるにせよ、基本的には馬群を前から順に伝えるので、ある程度訓練を積んだ人ならそれほど難しくありません。予測不能なトラブルも、ほとんどないですから。それよりも重要なのは、リプレーに堪えうる表現ができるかどうかです。競馬ファンならご存じのように、ある重賞レースの前は、各馬のステップレースがたびたび流れます。時間が経ってから見たリプレーの実況が、視聴者の納得が得られなかったり陳腐だったりする表現だと、よくないのです」

たとえば競馬実況の大御所・白川次郎の名ゼリフとして知られる2000年のダービーだ。当時ダービー無冠の名手・河内洋が手綱を取るアグネスフライトとダービー2連勝で迎えた天才・武豊&エアシャカールが鼻面を併せてゴールに入線すると、「河内の夢か、豊の意地か」と熱い言葉で熱戦を盛り上げた。それまでの河内の足跡を知るファンなら、リプレーで聞いてもグッとくる。あれが単に「河内か、豊か」では味気ない表現だ。

では、相撲は?

「相撲は、立ち合いまでは想定内でも、『待ったなし』で取組が始まると、予測不能なことの連続です。相撲の実況の方が断然難しい。競馬の実況はAIにできても、相撲は無理だと思いますよ」

01年夏場所の千秋楽、優勝決定戦で前日の膝のケガを乗り越えた貴乃花が武蔵丸を下して優勝すると、貴乃花の鬼の形相が映し出された。そのとき、実況のベテラン藤井康生アナから「この顔……」としか言葉が出なかったのは、ファンには有名なエピソード。相撲はベテランアナでも言葉に詰まるくらい予測不能な瞬間があるということだ。

競馬に相撲に頑張る体育会系アナ。これからは?

「フリーですから、ジャンル問わず、できる限りやります!」

腕の太さも仕事の幅もまだまだ発展途上だ。

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