笑い飯は漫才の歴史の中でもパイオニア 「ダブルボケ」で独自の世界観を造りあげた

「笑い飯」の西田幸治(左)と哲夫(2010年M-1優勝)/(C)日刊ゲンダイ

【お笑い界 偉人・奇人・変人伝】#189

笑い飯の巻

◇ ◇ ◇

13日、第59回上方漫才大賞で2014年以来2度目の栄冠に輝いた笑い飯。「M-1グランプリ」では9年連続決勝進出、第1期のM-1終了年に優勝という偉業を達成しました。変幻自在、予測不能のダブルボケで視聴者のみならず審査員も驚かせましたが、「ダブルボケ」自体は決して目新しいものではなく中田ダイマル・ラケット師匠、西川きよし・横山やすし師匠も自在にボケとツッコミが入れ替わる漫才をされていました。しかし、笑い飯ほど徹頭徹尾ボケ続けて、しかも完成度が高いコンビは私の知るかぎり存在しませんから、彼ら独自の世界観をつくりあげたダブルボケは漫才の歴史の中でもパイオニアだと思います。

特別変わった、特殊なボケを言っているというよりも、言葉ややりとり自体は多くの人がわかる、いわゆる“ベタ”なことの積み重ね、“ボケのミルフィーユ”と言えるかもしれません。

初めて2人の舞台を見たのは「M-1」初出場の翌年でした。千鳥、NONSTYLEとともに若手の劇場baseよしもとでトップ3として牽引していた最後の年だったと記憶しています。深々と頭を下げて挨拶してくれました。

「ようあんなアホなこと思いつくな?」と聞くと哲夫君が「師匠方の昔のネタを(ビデオで)見たら、ボケとツッコミて、ハッキリ分かれてはいない、自在に入れ替わるネタがけっこう多かったんで、これを徹底したらどんな漫才になんねやろと思ってつくってるんですけど、ホンマに探り探りです」とのこと。西田君も「お客さんがどこまでわかってくれてんのか、わからへんので“行ってまえ!”でやってますね」と苦笑。

「どんどんやって! 作家には、少なくとも俺は絶対よう書かんネタやから、行くとこまで行って!楽しみにしてるし!」ぐらいのほんの数分話した程度でしたが、笑いに対する探求心と遊び心が伝わってくる時間でした。

その後も楽屋や舞台袖で立ち話をするぐらいでゆっくり話す機会がありませんでしたがある日、若手の劇場の楽屋で哲夫君がフリップの裏側に竹ひごをテープで張り付けていたので、「なにつくってんのん?」と尋ねると「R-1の(予選で使う)フリップがしならんようにした方が(お客さんに)見やすいかなと思いましてね」「さすが職人! 気配りが違う!」「伝統工芸作家ちゃいますから!」と大笑い。律義で丁寧な哲夫君を物語るひとコマでした。

年齢を重ね、これからどんな予測不能なダブルボケの笑い飯ワールドを創作してくれるのか楽しみにしたいと思います。

(本多正識/漫才作家)

© 株式会社日刊現代