プロ目前で肩損傷「年齢的に難しい」 覚悟の手術拒否…模索の末の“振り過ぎない”投球

埼玉・越谷市で野球塾を運営する寺村友和氏(左)【写真:間淳】

元ロッテ・寺村友和氏は故障経験を基に小学生指導「プロとアマの違いは関節の使い方」

過去の苦労が今に生きている。元ロッテの寺村友和さんは現在、埼玉・越谷市で小学生を中心にした野球塾を開いている。自身が肩の故障に苦しんだ経験から、指導で重点を置くのは怪我を予防する投球フォーム。より多くの関節を使い、腕を思い切り振らなくても球速や球威を上げる投げ方を伝えている。

全く同じ投球フォームは2つとない。プロの世界を見ても、選手の数だけ投げ方がある。ただ、一見違うフォームにも長く活躍する選手には共通点があるという。寺村さんはジュニア世代に投球を指導する際、怪我を予防して、効率良く速い球、強い球を投げる考え方を伝えている。

「プロの投手は力いっぱい腕を振らなくても速い球を投げられます。アマチュアとの違いは関節の使い方にあります。小・中学生は特に、腕を思い切り振ろうとする投手が多いです。怪我のリスクが高くなりますし、体の使い方としても非効率です」

球に直接触れるのは指であり、球を投げるには腕を振る。ただ、リリースに至るまでには全身を使う。動かす関節数が多いほど故障のリスクは軽減し、球に力が伝わると寺村さんは考えている。

例えば、20個の関節を5%ずつ使うと、100の力を生み出せる。4個の関節を25%ずつでも同じ100の力が出る。つまり、使う関節の数が少なくなれば、それぞれの関節にかかる負担は大きくなって怪我をする可能性が高くなる。寺村さんは「投球はスイッチを切り替えるイメージ」と表現する。

「腕を思い切り振って球を投げると気持ちが良いので、腕にばかり力が入りがちです。足を上げた時は腕や指先に力を入れる必要はありません。足の裏や足の指から始まって、下半身、上半身、指先へと力を入れるスイッチを順番にオンとオフにしていきます。ずっとオンにしておくと体に負担がかかり、力みにもつながります」

怪我に苦しんだ経験を基に故障リスクの小さいフォームを伝える【写真:間淳】

肩の故障を機にフォームやトレーニング見直し「学び続ける必要がある」

寺村さんの野球塾には、チームに所属している小学生も多い。速い球や強い球を投げようとすると、目いっぱい腕を振るクセが抜けない投手もいる。その時は、成功体験を通じて思考を変えていく。現状よりも多くの関節を使って、思い切り腕を振らなくても球が伸びる感覚を知ると、次第にクセが直っていくという。

「今までと違うイメージをつくるのは時間が必要なので、その過程で暴投しても厳しく指摘することはありません。指導者は結果ではなく、選手が挑戦する意思やプロセスを見ることが大事だと考えています。小・中学生で関節を使ってロスなく力を出す意識や感覚を身に付けると、身長が伸びて筋力がつく時期には球速もキレも上がっていくはずです」

寺村さんが効率的な力の出し方や怪我の予防を重視する背景には、自身の経験がある。1997年にプロ野球のドラフト会議で指名される1年前、本田技研の硬式野球部に所属していた寺村さんは右肩を故障した。腕が肩より高く上がらない重症で、病院でSLAP損傷と診断された。医師からは手術を勧められたが、その選択肢はなかった。

「コントロールが良くて仕上がっているタイプの投手ではありませんでした。手術をするとリハビリで1年くらいはかかるため、24歳の年にドラフトを迎えることになります。それでは、年齢的に指名が難しいと考えていたため、手術をせずに23歳の年にドラフト指名される道を探しました」

総合病院や整骨院など様々な医療機関を回ると、トレーニングで症状を改善できると診断する医師もいた。寺村さんは複数の医師からのアドバイスを参考にして、自分に合うトレーニングメニューを考えて実践した。すると、数か月後に試合で投げられるまでに回復した。肩の負担を小さくする投球フォームを模索し、普段の生活でも肩の状態を悪くしない過ごし方を心がけた。

「自然に肩が回る動きであれば負担は大きくありません。肩が胸より前に出ると関節のぶつかりが大きくなるので、体を“切る”イメージから“放り出す”イメージにフォームを改良しました。疲れがたまってくると肩の位置が前に出てしまうため、グラウンド外でも猫背にならないように気を付けていました」

2位指名で入ったプロの世界では、怪我の影響もあって納得のいく結果は残せなかった。それでも、故障の経験に加えて、現役を引退してから取得した整体師の資格が指導者になってから生きている。最近は日本トレーニング指導者協会(JATI)でも資格を取り、新しい知識やトレーニング方法を自身の経験に組み合わせて指導している。

「指導者は学び続ける必要があると感じています。子どもたちには自分のように怪我をせず、野球が上手くなる楽しみを知ってほしいです」と寺村さん。故障のつらさを知っているからこそ、担える役割がある。(間淳 / Jun Aida)

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