【4月20日付編集日記】一コマを生きる

 生涯現役を貫いた映画監督の新藤兼人さんが、最後にメガホンを取ったのは98歳のときだった。脚本家や映画監督は人間観察が基本。だから、散歩するときでも人の顔をじろじろ見てしまうし、生きることが仕事と話していた

 ▼新藤さんいわく、何千コマとある映画は、一つのコマでもおろそかに撮ると全体が駄目になってしまうという。晩年は1人暮らしだった人生と重ね合わせるように、長生きする中で一コマをしっかり生きていきたい―と対談で語っている(「生きること 老いること」朝日新聞社)

 ▼ある程度予想できたとはいえ、今月発表された日本の世帯数の将来推計は深刻だ。2050年に全世帯の4割強、2330万世帯が1人暮らしになるという。このうち65歳以上が4割強を占める。未婚率の高い団塊ジュニア世代が高齢期に入ることが背景にある

 ▼家族観が変化し身内や地域のつながりが薄れている現状で、医療や介護の対応には限界がある。地域ぐるみで取りこぼしなく支える環境づくりが急がれる

 ▼心配なのは、急激な変化に支援が追い付けるかどうか分からないこと。人生の一コマをしっかり生きていく上で、上手に老いるすべを身に付ける必要がありそうだ。

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